第八話 森の奥へ入った俺
「わたしはファム。種族は見ての通り。」
ぴこっとウサミミを動かしてファムが心細そうに見上げてくる。
そんな彼女をなるべく怖がらせないように、省エネモードの表情筋を駆使して何とか微笑む。
「俺は人間のユウヤ。それでこっちはメル。ポンチョの精霊だよ。」
「阿呆!ポンチョではないわこのたわけ!!」
いつものごとく俺を狙ったメルの拳を、腕をクロスさせたファムがしっかりと受け止めた。
さすが子供とはいえ獣人だ。
いい反射神経をしている。
「ちぃっ!」
たたんとバックステップで離れたメルをファムが即座に追いかけていく。
火の玉が降ったり、それを避けたり弾いたり・・・
異世界の子供たちは遊び方が桁違いだな。
平原で遊んでる二人を置いてさらに森の奥へ入って行くと、かすかに助けを求める声が聞こえてきた。
普段なら怪しいものには近づかないが、その声が助けてくれたら仲間になります的なものに聞こえて、声を辿るように茂みをかき分け進んで行く。
少しして見つけたのは、紫のぼろ布を纏い蹲るようにして木の幹に凭れている子供だった。
伏せた顔はわからないが、その足元でとぐろを巻く珊瑚色の髪は真っ直ぐでかなり長い。
だが問題はその耳だ。
とがった耳先。
つまり・・・エルフ。
ファ、ファンタジー!!
虫が花に誘われるようにふらふらと近づき、その傍にしゃがみこむ。
「大丈夫か?おじょ、」
いや、大丈夫でもないしお嬢ちゃんもないだろ。
そもそも髪が長いからって女子とは限らん。
「ぅ、あ・・・これを・・・」
声に反応したのか、顔を上げたエルフの子供は冷や汗を流し生気のない顔色をして足首に絡まった蔓を指差している。
よくわからんがエルフ用の罠か何かにかかってしまったのだろう。
青い蔓を2、3度つついてから握って、引き千切るように力をこめる。
蔓は思ったより簡単にぶちぶちと千切れたが、その足首についた蔓の痕が青黒く変色していてかなり痛々しい。
どうやらこの蔓はエルフにだけ影響があるようだ。
一つ頷き千切れた蔓を見ていると、深呼吸をした子供エルフが背中を木の幹に預けるようにして立ち上がろうとしはじめた。
「立てるか?」
手を貸そうとすると、少しだけ赤みが戻った顔でにっこりと精一杯らしき微笑みを向けてきてそのまま一人で立ち上がる。
脇にはおもちゃみたいな弓がぶら下がっていて・・・
それがなんだかとてもいじらしくて、ついぽろりと口にしてしまった。
ああ、出てしまったんだ。
俺は早くパティんとこに行かなきゃならんのに。
「村まで送って行こうか?」
驚いたように緑の目を丸くしてから子供エルフがわずかに首を振る。
「あ、あたしははぐれなの。だから村なんて、えっと・・・」
子供でもはぐれっていうのは村に入れないってことか?
でもこのままじゃまた罠にかかってそうな気もするし、子供エルフも少し俯きながらちらっちらっと見てくるし・・・
「んー、じゃあ一緒に来るか?これから向かう先は魔王城だけど。」
OKしてくれるならまたまたパティに友達が増えるのだが・・・
事情を知らない子供エルフが人差し指を顎にあてて首を傾げる。
「どうしてそんな危ないところへ行くの?」
「俺がそこに住んでるからだよ。」
「どうしてそんなところに住んでいるの?」
「魔王と俺が友達だからだよ。」
「どうしてお兄ちゃんと魔王はお友達なの?」
「あいつがイイヤツだからだよ。」
「じゃあ怖くないの?」
「ああ。魔王は素直で優しくてイケメンで素敵なヤツさ。」
心でキラリと微笑みそう言うと、考えるように子供エルフが視線を下げた。
少しして、とても大切なことを決心したようにその大きな目で見つめてくる。
「うん。あたし、お兄ちゃんについていきたい。」
人助けもしたし新たな人員も確保できたし。
良かった良かったと、まだ回復しきっていない子供エルフをおぶって戻る。
一瞬戻る場所を間違えたかと思ったほど、荒れ果てた平原で二人はまだ遊んでいた。
異世界の子供ってめちゃくちゃ元気だな。




