27 真なる者:中
「廻炎」
掌に炎弾を生み出す。
ただの炎ではない。高速で回転する炎――奴の守りを突破するために貫通力を高めた形態です。
ライフル弾めいた螺旋を描きつつ、炎が廃墟となりつつある大通りを飛ぶ。
直線、曲線、速度差を付けて、十数発が同時に着弾するように。
その一人同時攻撃をミノタウロスは斧一本で迎え撃つ。
僅かばかりのリーチを生かして、ハンドアックスが幾度となく振るわれる。その度に叩き落されていく炎。
(動きの精度が上がっていますね)
力任せではなく、流麗さが垣間見える技。
先ほどの口調も含めれば――本能任せの戦いから知性を活かした戦いへと変わりつつある。
対してこちらは。
流し込まれる力に翻弄されて、それに身を任せそうになっています。
ただ、力のままに暴れたい……きっと、モンスターとしての本能。
今まで私は理性的に振舞ってきた。人らしく過ごしてきた。
だからこそ抗えない。
己の本能を乗りこなす術を俺は知らない。
時間が無い、早く決着をつけないといけない。
だというのに、攻めが単調になっているのを感じる。
力押しを選ぼうとしてしまう。
まだこうやって客観視出来ているだけマシかもしれません。
それすらできなくなったら最後。
本能のままに暴れまわるしかなくなる。
炎弾を全て捌ききったミノタウロスが前に出る。
その突進を避けながら、後方へと跳躍。
張り巡らせたワイヤーの群れへと誘き寄せる。
「来いっ!」
最初は斧で。しかし次第に煩わしくなったのか。
或いは自分の身体を両断するほどの強度は無いと判断したのか。
強引に己の身体で引き千切りながらミノタウロスは進む。
それを見て少し安心してしまう。
ああ、あの怪物っぷりに比べれば私はまだまだ大人しい方だ。
そして、その大暴れっぷり。
ワイヤーの危険度を低く見積もるのは少し早計ですよ?
「奔れ。爆導索」
奴の身体に食い込んだままのワイヤーに炎が奔る。
そして触れた瞬間に爆発。
肉の内側で膨れ上がった炎は流石に効いたらしい。
初めて、悲鳴めいた声がミノタウロスから上がる。
「体内から炙られる気分はどう?」
挑発的に微笑みながら、更にワイヤーを張り巡らせ――そこで奴の体表が再び蒸気を発している事に気付く。
「魔法融合!」
体内で新たにフロストとウィンドブラストを織り交ぜて己の脚に展開する。
「メイルシュトローム!」
氷によってつくられた道。その上を暴風を背に受け疾走。
そして背後から迫ってくる熱気、ミノタウロスが引き起こした爆発だ。
俺を飲み込もうと氷の道を砕きながら広がる爆発。
「――白炎」
その紅蓮を。
私の白い炎が燃やし尽くす。
俺の中の何か大事な物と一緒に。
「ぐっ……」
白い炎。これこそがあのナニカから与えられた力の本質と言ってもいい。
消滅の力。
バックドラフトで得た焼失の力に限りなく近く。だけど何か違うモノ。
使うとそれを呼び水に更に力が流れ込んでくる。
流れ込むたびに器が強引に広げられて……弾けそうになる。
自分という存在が削れて、薄れていくような錯覚。
絶対にまともな物じゃない。
そんな物に頼らなければ、今の一撃を回避できなかった。
(迂闊。あの爆発は警戒していた筈なのに……!)
気が付いたら頭から抜け落ちていた。
そんな事よりも相手を攻め立てることに意識が向いていた。
自分という存在が作り替えられていく。
藤島拓郎としての17年。
蛍火としての数ヶ月。
それを塗り潰す白。
この戦いを制した後。
そこに残っているのは何だ?
自分なのか?
「魔法融合!」
砂嵐の力。
それを吹き飛ばされ、再生した糸に付与していく。
砂、つまりは細かい粒子の運動。
再び巡らされる糸の迷宮。
そこへ爆心地から飛び出してきたミノタウロスが飛び込む。
体中から血を吹き出しながらも歓喜の笑みを浮かべて。
連鎖する爆発。
断ち切られる糸。
そこへ更に、私が飛び込み交錯する。
拳を胴体に叩き込み、ワイヤー地帯へと押し込む。
負けじと、振り下ろされたハンドアックスを、メイルシュトロームの高速移動で回避しながら更にカウンター。
追いすがるハンドアックスを、伸ばした糸で絡めとる。
腕を抑え込んだ!
相手が晒した隙を逃さずに、瞬時に作り出したのは岩の手甲。
「メテオインパクト!」
九連撃。
胴体に叩き込んだ乱打を耐えながら、ミノタウロスはハンドアックスを手から離す。
逆の手で受け取られた斧は抜き打ちで振るわれ糸を断ち切った。
そして自由になった腕で行ったのは――自分目掛けて飛んでくる拳型の岩塊を両腕で抱え込むようにして受け止めるという事。
「なっ!」
「にっ!」
二つの声音が同時に漏れる。
ドッヂボールじゃないんだぞ。
その大岩が、そのまま投げ返される。
大丈夫、直線的な軌道。
十分に避けられる。
そう思ったのは次の瞬間まで。
大岩の影から飛来したハンドアックスが岩塊を打ち砕き無数の石礫へと変える。
「ぐっ!」
この数は避けきれない。
咄嗟に急所をガードするが――それすらも目晦まし。
石礫に気を取られた一瞬。ミノタウロスの姿を見失った。
その雨の中から飛び出してきたその時まで。
「しまっ!」
アッパー気味に振るわれる剛腕はガードの上からでも私の身体を軽々と吹き飛ばす。
砲弾の様に飛び出して、ビルの上層階に叩きつけられる。
そこで終わらない。
アスファルトを砕きながら飛び上がって来たミノタウロスの追撃――奴の角を顔面に叩き込まれる。
狐面が無ければそこで終わっていた。
半分に砕けた面。
それが地面へと落ちていく。
まともに食らってしまった。
決して避けるべきだった奴との殴り合いの土俵に無理やり引きずり込まれた。
この形態になっても俺の耐久力はそこまで上がっていない。
だからこそ、受けないことが重要だったのにしくじった。
――そう思っていたのに身体が再生していく。
その脅威的な再生速度。あのミノタウロスにも決して劣らないそれは。
「ああああああああ!」
決して無償の奇跡などではない。
流れ込んでくる力が。
私を削り取っていく何かが。
代価として与えて行ったものだ。
息を荒げながら、砕けた面が隠していた顔を自分の手で隠す。
このミノタウロス以外に誰かが見ている訳じゃない。
だけど見られたくなかった。
その下の顔がどうなっているのか。
誰の顔なのか。
それを確定させたくなかった。
……ダメだ。
このままだと消耗戦になる。
この調子であの力が注がれたら俺が私じゃなくなる。
ビルから飛び降りて、ミノタウロスと向かい合って。
そう結論付けた。
だったら選択肢は一つ。
「――魔法融合」
最後に残った二つのリング。
それを身に宿す。
一つは金剛身。
身体を麻痺させるそれを、今は痛覚の無視に使う。
同時に体内にある白い力そのものを止める事にも。
そして最後の一つ。
「バックドラフト」
白から紅に炎の色が変わっていく。
あの気味の悪い存在よりも俺は、みっちゃんの力を借りたい。
『ここに万物の根源は火であることを証明する』
二つの声が私の喉から漏れる。
今なら使える。
限定ではない。
真なる神威の解放を。




