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19 壊滅したシェルター

 想定外の状況。

 

 それに対処しないといけない。

 頭の片隅でそんな考えが浮かんで、一瞬で流されていく。

 

「――様!」


 目の前の光景が理解できない。

 何故こんなことになっているのか分からない。

 そしてこの破滅的な光景が何に繋がるのか、理解したくない。

 

「――じ様!」

 

 決して寒い気温ではないはずなのに身体が震える。

 疲労感を通り越しての虚脱感。

 膝が崩れ落ちそうになる。

 

「主様!」


 気が付けば蛍火が俺の肩を掴んで真正面に立っていた。

 

「残り二体の召喚を! ここを襲った奴がまだ近くにいるかもしれません!」


 瓦礫の下からにじみ出ている物。

 瓦礫の隙間から見え隠れする物。

 

 その中に、見慣れた姿が無いか視線が彷徨う。

 

 パンっと弾けたような音と共に、頬に感じる痛み。

 

「しっかりしてください! 今は主様が生き延びることを優先しないと!」


 蛍火に頬を張られたのだと理解するのに数秒。

 漸くのろのろと頭が再起動し始める。

 

「そう、だな」


 蛍火の言っている事は正しい。

 一分の疑いもなく正しい。

 

 だけど。

 だけれども。

 

 ――俺が戦う理由は、まだあるのか?

 

 ストーンゴーレムとジャイアントビートルを召喚して、シェルターの外へ。

 そして周囲を警戒。

 

 そこまではここ数ヶ月で身についたルーチンワークで動けた。

 

 離れた場所に見えた防衛線は無残にも引き裂かれていた。

 ビルの屋上に、バリケード代わりにしたバスが突き刺さっている。

 

「私が感知できる限り、周囲にモンスターの気配はありません。敵も、味方も」

「そうか」


 俺がダンジョンに潜っている間の二時間弱で何があったのか。

 詳細は分からずとも答えは明白だった。


「あ……」

 

 この防衛線で支えきれないモンスターが現れて、突破。

 そしてシェルターを襲ったのだ。

 

「ああああああああ!」


 間違えた失敗した判断ミスだ!

 戦力を分散するべきじゃなかった!った。

 

 ここに俺達がいれば、凌げたかもしれない。

 防衛できたかもしれない。

 

 それが叶わなかったとしても。

 

「俺だけが、生き残るなんて……!」


 そんな最低で最悪な結末だけは迎えずに済んだはずなのに……!

 

 死にたいような気分でいた俺を引き戻したのは背後から聞こえてきた声。

 皆息絶えたはずのシェルターから聞こえてきた声だ。

 

「は? え?」


 数は……2,30人程度だろうか。

 一人二人なら兎も角あの数を見落とすのは考えにくい。

 

 どこから出てきた?

 

 ごちゃごちゃとした考えは、その中の一人を見つけた時に全て消え去った。

 

「緋鞠!」


 名前を呼びながら駆け寄る。

 その時だけは周囲の惨状も目に入らなかった。


「拓郎、良かった」


 俺の顔を見て安心したように小さく微笑む彼女を見て。

 安堵のあまり俺は立っていられなかった。

 

 それでも今見ている姿幻では無い事を確かめるように彼女の手を取る。

 暖かい。

 確かにここに存在している。

 

「良かった……緋鞠が無事で本当に……」

「大げさ、とは言えないか」


 そう言って周囲を見渡す緋鞠の顔は青い。

 

「一体何があったんだ?」

「多分大体想像通りだと思うけど」


 と緋鞠が語ったところによると、やはりシェルターをモンスターが襲ったらしい。

 らしいというのは、実際に襲われる前に緋鞠たちは避難したからだという。

 

「避難って……どこに」

「ダンジョンの中」


 盲点だった。

 

「何でそんなところに」


 一般人からすれば十分すぎる程に危険なのに。

 緋鞠の場合はジェーンの存在もあるから一概には言えない。

 とはいえ緋鞠は自分の中に居るもう一人には気づいていないはずだ。

 

「拓郎が言ったんじゃん」


 と不満そうに口を尖らせる。

 

「外よりも安全だって」

 

 俺が? と記憶を探り。

 

『大丈夫だ。☆1で一番弱いダンジョンだし……正直、外よりも安全だよ』


 言った。

 確かに言った。

 

「だからシェルターの扉をモンスターがガンガン叩き始めたところで私声を出したの」


 ダンジョンに逃げましょう。

 

 その一言は――あまり賛意を得られなかったようだ。

 実際に避難したのは数百人のうちのほんの一部だけだったのだから。

 

 或いは正常性バイアス。

 

「シェルターが破られることなんて無いって。そう思ったのかもな」

「でもほら。私達あれを見てたじゃない」


 氾濫直後のバリケードを突き破るフレイムオーガの姿。

 

「あれを見たらシェルターが百パー安全なんて思えなくて。だったら、ダンジョンの中の方が安全かもって」

「それで賛同者だけで避難してたのか」


 ダンジョンの中は俺がモンスターを粗方倒した後だ。

 再出現するかしないか。そんなくらいのタイミングだろう。

 もう少し長引いていたら危なかったかもしれない。

 

「緋鞠様の機転は凄いですね……」


 蛍火の感心したような声。

 それに素直に賛同するのも悔しくて軽口を叩く。


「こういう抜け道探すのは得意なんだよ」

「そこ、聞こえてる」


 そうやって緋鞠が俺の軽口を咎めてくれて。

 いつものやり取りを経て漸く俺は冷静さを取り戻した。

 

 生き残ったのは俺達を含めて24名。

 九割以上はこの瓦礫の下なのか、それともここを襲ったモンスターの……いや、よそう。

 今は考えても仕方がない。

 

「……後3時間弱か」


 氾濫領域外部からの救助隊の目安だ。

 シェルターも失い、共に守っていた探索者たちも亡くした状況での3時間。

 

(……厳しい)


 なら、緋鞠だけを連れて逃げるか?


(それも難しい)


 結局最初に話が戻るのだ。

 俺達だけでここから脱出するのは難しいという状況は変わらない。

 

(多分ここを襲ったのは……☆4だ)


 ☆3ならば神崎さんたちを始めとした面々で守り切れるはずだ。

 少なくとも突破を許しても、彼らが全滅することはなさそうだった。

 

 しかし現に全滅している以上、考えられるのは更なる上位種。

 プロと呼ばれるCランク探索者が主戦場とする修羅の領域だ。

 

 俺が単独で勝利する。

 一体だけならもしかしたら、という可能性だ。

 十回やれば1,2回は勝てるかもしれない。


 連戦はまず間違いなく無理。

 複数も無理。

 

 だとしたら現実的なラインは……別の探索者グループに合流する。

 いや、だがそれも正解か? 最大でDランク。戦力としては俺達のところと大差ない筈。

 ☆4モンスターとの戦いとなった時に果たして戦い抜けるのか?

 

「……どうする?」


 移動せずに周囲のビルに隠れるのも一つ。

 だけど後三時間それで凌げる保証はない。

 

 俺の決断がここにいる全員の命を左右する。

 

 そのプレッシャーに、全身が重くなるのを感じる。

 

 退くか進むか。

 

 一つだけ確かなのは……どちらに進んだとしても悪夢の様な三時間だという事だ。

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