17 二体目のユニークモンスター:上
「タイガー!」
開戦の号砲を放ったのはアイシクルタイガー。
近接攻撃が強力な一体だが、氷を使った遠距離攻撃も行える。
その気になれば高機動の移動砲台にもなれるのだ。
氷の礫が立て続けにカニ怪人の身体に突き刺さるが――。
「チッ」
案の定無傷。
どんな攻撃も効かなかったというのは真実らしい。
「気楽に無敵とか出さないで欲しいんだけどな!」
そのまま俺はアイシクルタイガーの背に乗って広間を駆け回る。
兎に角動く。
一つ目の盾についてが真実だったのならば。
二つ目の矛についても真実であったとみるべきだ。
どんな守りも突破する攻撃……受け止めて正体を確かめるには危険すぎる。
「蛍火! 消耗しすぎないように距離を取って攻撃!」
まずはこの無敵の種を暴く。
あの蝶人戦のお陰で、ユニークモンスターという物に対して一つ理解していることがある。
(こいつらは基本的に分からん殺しだ)
要はその能力の正体を分かっていないとそもそも土俵に上がれてすらいない。
それが分かった上で初めて、討伐の可能性が見える。
そしてもう一つ。
アイシクルタイガーの背で激しく揺さぶられながら考える。
(確証はないけど、こいつら能力自体は多くない)
蝶人が、時間遡行と鱗粉による弱体化だけだったように。
こいつもその程度の可能性がある。
ただ、その一つがあまりに汎用性が高く色んなことが出来るから複数の能力を持っているように見えるだけ。
蛍火の炎弾を防御姿勢を取ることも無く無防備に受け続け、それでも尚無傷で立つユニークモンスター。
そいつがゆっくりと鋏を前に構えて。
ゆらっと揺れたと思ったら次の瞬間には蛍火の眼の前にいた。
「っ!」
素早い踏み込み……なんて物じゃない。
まさに瞬間移動。
蛍火が飛び退くが、遅い。
もうそこは、奴の間合いの中。
広げられた鋏の内側だ。
「ストーンピラー!」
咄嗟の援護。
蛍火の足元から石柱を生やして一気に天井近くまで持ち上げる。
そして鋏が閉じられた。
そこにあった石柱を、紙の様に切り裂きながら。
鏡のように光を反射する断面を晒しながら石柱が消えていく。
あんなもの。まともに受けたら蛍火の上半身と下半身は分かたれていた。
「助かりました」
「気にするな」
だが……今の速度は厄介だ。
次は躱せるか?
距離があると油断せずに、すぐに鋏の範囲外に逃げられる程度には余裕を残しておかないといけない。
無敵の防御。
瞬間移動。
そして最強の鋏。
近接型として理想的な能力。
(問題は、これが全て一つで実現しているか)
蝶人の時にも感じたけど、ぱっと見では関連性が無い。
それを繋いだのは……そう、奴の言葉。回帰を開始するという物だった。
だとしたら今回は?
隔離。
奴はそう言っていた。
(じゃあ何を隔離しているのか)
牽制を物ともせずに、悠然と攻撃を受け止め、一瞬で距離を詰めて切り裂く。
一連の動きを何度も見る。
踏み込んでは……いないだろう。
融合した蛍火の感覚でも捉え切れない神速の踏み込みの可能性も検討した。
(まずありえない)
いくら強大な力を持っていようと、奴らは結局☆1ダンジョンに出てきたら☆1ダンジョン相応の能力まで低下している。
その状態で、素のレベルで優っている蛍火の眼にも止まらない速度が出せるとは思えない。
だが事実として蛍火は捉えられていない。
逆に蛍火が鋏に捉えられかけた。
首筋を一息に断ち切ろうとした一撃。回避しきれずに喉元に一筋の裂傷が刻まれる。
「っ!」
声にならぬ悲鳴。
だが出血を己の炎で焼きながら、蛍火は相手の一挙一動を見破ろうと目を凝らす。
自分の悲鳴で俺の思考を邪魔しないようにと痛みを押し堪えている。
落ち着け。
一足飛びに答えなんて出ない。
可能性を潰していくんだ。
まずあれが純粋な瞬間移動の可能性。
移動については言うまでもない。防御も……そう、そもそも当たっていない。当たる瞬間だけ瞬間移動してすぐに戻ってきている。
(それはないな)
もしもそうならそれは耐えているのではなく回避だ。
奴の後ろに蛍火たちの攻撃が当たっていなければおかしい。
「当たっていなければ……?」
もう一度攻撃が直撃する場面を見る。
無傷という事に気を取られていて、気付いていなかった。
そう、命中の瞬間があまりに静か。
本来あるべき破壊が――炎が弾けたことによる熱も爆発も無い。
ただ耐えているだけでは説明が付かない現象だ。
思い返せば最初の氷の礫も。
砕けた破片の一つも見たか? 気付かなかっただけの可能性はあるけど……俺は見た覚えがない。
そこから導き出される仮説2。消滅の力。そう、バックドラフトの炎と似たような力だ。
当たった瞬間に攻撃を消滅させて。
あのハサミが触れた個所も消滅させている。
(ダメだ。今度は瞬間移動に繋がらない!)
それとも、この三つがひとまとめというのが俺の先入観か?
実際にはどれかは独立した能力で残り二つが別能力の応用の結果?
「タイガー! 蛍火を援護してくれ! デカい奴だ!」
小手調べの様な攻撃では埒が明かない。
ここで一つ大きめの攻撃を叩きつけてみる。
巨大質量攻撃。
頭上から落ちる氷塊の一撃はどうだっ?
特別な工夫の無い力押し。
それを奴は――受け止めるのではなく、迎撃した。
鋏による切断。真っ二つになった氷塊が左右に分かれて、奴を避けていく。
グーがチョキに負けるという理不尽。
その理不尽こそがユニークモンスター。
「……受けなかった」
理不尽の化身を見て、俺は小さく呟いた。
仮に本当に無敵なのだとしたらこれまでの様に無防備に受ければいい。
仮に本当に瞬間移動するのだとしたら氷塊から離れた場所に移動すればいい。
そのどちらもせずに迎撃をした。
それが気まぐれの結果でないのならば理由がある。
(強い攻撃は無敵で防げない? いや、違う。そんな分かりやすい弱点ならもっと情報が残ってもいい)
だが間違いなく何かの制約はある。
そしておそらくはその制約故に、奴は瞬間移動もできなかったのだ。
(隔離)
そのキーワードだ。
隔て、離す。
攻撃を隔てて離す。
防御を隔てて離す。
なら瞬間移動は?
何を隔てて、離した?
ぱちんと閃いた。
「……空間、か?」
そう呟いた瞬間にカニ怪人の動きが乱れた気がした。
その仮説を深堀する。
だがその時間を十分に与えられなかった。
これまで蛍火に注力していたにも関わらず、奴は急に俺を狙い始めた。
「はっ! ポーカーフェイスが苦手かよ!」
考える時間はない。
だけど、相手のこの反応が当たりに近いのだと教えてくれた。
奴は空間を切り取ってどこかに飛ばす力を持っている。
時間を戻すのにも匹敵するとんだジョーカーを!
だけど。
「種が割れたなら仕掛けようはある!」
攻撃と防御。その違いは何だ?
瞬間移動は?
そこに、奴の制約がある。
「ここが底か? それとも、お前も二重底か?」
油断はしない。
だが――確実に奴を追い詰めているという感覚があった。




