15 自ら挑む
よりにもよって、というタイミングだ。
この何よりも急いでいて、且つ退くという選択肢が殆ど取れない中でユニークモンスターとの戦い。
「事情を説明して、攻略を諦めるか……?」
説明したとて、信じてもらえるかという問題がある。
だったら別の奴に行かせるとなったら最悪だ。何の準備もしていないユニークモンスター戦など死刑と大差がない。
「……蛍火、行けるか?」
その短い問いに蛍火は頷いた。
「あの時よりも強くなりました。主様が彼奴の絡繰りを解き明かすまでは、耐えて見せます」
間髪入れない応えは、俺がまさに望んでいた物。
「組合に残っている僅かなデータは頭に入ってる。ダンジョンは☆1。魔法融合も融合呪文もある。以前とは違う、か」
条件としては、完全に不意打ちだった初回攻略よりも良い。
(最高なのは既に種の割れているあの蝶人だけど……いや、逆なのかも)
あの時間遡行能力はバックドラフトが無いと対抗できない。
それとも今なら、再生よりも早く全ての蝶を潰せるだろうか?
スペルリングを駆使すれば可能な気もする。
「……よし、行くぞ。ユニークモンスターを倒して、このダンジョンを消滅させる」
そう言って俺と蛍火、そしてアイシクルタイガーを従えてダンジョンの奥地へと向かう。
ストーンゴーレムは☆1ダンジョンの通路だと引っかかって動きにくい。
ジャイアントビートルは俺の脚として、タンクとして☆1ダンジョンなら活躍してくれるだろうけど……アイシクルタイガーのレベル上げもある。
今後☆2、☆3ダンジョン攻略の主力となるこいつをこの場で育てておきたい。
それに、今の段階でもジャイアントビートルより総合力は高いしな……。
サクッと一層、二層を攻略して一息入れる。
☆1だと最早苦戦もしないな。
その分ドロップも非常にしょっぱい。いつぞやの間引き作戦の時の様に殆ど魔石が落ちない。落ちても爪先の様に小さい。
フロアマスターからは多少はマシだけど……リングとかも落ちないしな。主戦場は☆2ダンジョンかやっぱり。
「蛍火はさっきの話をどう思った?」
ダンジョン攻略を優先していたのでジェーンから聞いた話について、しっかりと蛍火とは話をしていなかった。
休憩をきっかけに、聞いてみることにする。
「元々、私たちが一つだったという話ですか?」
「そうそれ」
何で分離したのかは不明だが……いや、しまったな。
「そもそもいつどうやって一体化したのかっていうのを聞くべきだった」
「言われてみれば緋鞠様も生まれた時から心臓に契約石があった訳じゃないはずですしね」
「そうそう」
不覚だ……ダンジョンから出たらすぐに聞けるだろうか?
そもそもあいつ、表に出て来ていない時はどうなんだ? ダンジョンの外だと寝てるとか言ってたから……話を聞くなら今の氾濫中しかない。
まさか緋鞠をダンジョンに連れて行くわけにも行かない。
「……正直に言います。私は元々一つだったと聞いた時に納得しました」
「納得?」
「はい。融合した時に主様の魔力を使う感覚。肉体を同一化させていくあの感覚。そこに私は違和感を覚えたことがありません。あるべきものがある。そう思いました」
「俺とは少し違うな」
俺が感じたのは、危機感。
あのままだと戻れなくなるという――いや、その危惧こそが元々一つであったことの証明か?
本来の姿に戻りかねない。そに危険性を感じ取っていた?
(だとしたら、元々一つだった時の俺は……俺なのか?)
俺も蛍火も、分離によって本来の人格とは違う物になっているんじゃないだろうか。
深くは、考えないでおこう。どうせ確認することは出来ない。気にするだけ、時間の無駄。
「だけど元々一つがあるべき姿だっていうなら、融合することで本来の力を取り戻す……ってこともあり得るのかな」
「どう、何でしょう? 確かに融合している時には充足感はありますけど」
それが俺のリソースも使えるようになったからなのかどうかは蛍火にも分からないらしい。
「でもそうなったらそれは私なのでしょうか、それとも主様?」
独り言の様な疑問は蛍火も俺と同じ考えに思い至ったのだろう。
少し眉根を寄せて唸っていたが途中で棚上げしたらしい。
そもそもそんな危険かもしれない事わざわざする必要がないのだから。
「主様は、どう思いましたか。母様の事」
「……悪いんだけどあんまり良い印象はないな」
「正直に言うと、私もです」
と蛍火は嘆息した。
「慕わしい。恋しい。その気持ちはあります。だけど、話を聞いているとなんだか……どうしてこんなことをしたんだろうと。その行いに憤りを覚えるのです」
きゅっと蛍火は唇を噛み締めた。
「あの子の……ジェーンの話を聞いていて疑問には思いませんでしたか?」
「疑問はいっぱいあったけど。そういう答えの出ない話の事じゃなさそうだな」
「はい。シェルターで他の者たちは言っていました。一瞬でモンスターが凍り付いて消滅したと」
「言ってたな」
モンスターのレベルは分からないけど……大した威力だと思ったのを覚えている。
「それです。ジェーンがそれをやったというのなら何故そんな威力が発揮できたのですか?」
「それは……」
盲点だった。
当人がやったと認めた。だからそこで俺は話を終わりにしていたけど言われていれば妙だ。
「あいつは蛍火と違って一切レベルアップをしていないはずだ」
「それが、緋鞠様と一体化している本来の姿とやらの恩恵ならそれでいいのです。ですが私は」
ごくりと。緊張したように唾を飲み込む音。
「ジェーンが、私と同質の存在が、緋鞠様の魔力を吸い取って成長したのではないか。その疑いを捨てきれません」
「それは、あいつが緋鞠の魔力欠乏症の原因かもしれないって事か?」
そう問いかけると蛍火はこくりと頷いた。
なるほど。言いにくそうにする訳だ。
だけど。
「気にし過ぎだ。忘れたのか蛍火。お前が叱った時に言っただろ?」
「……あっ」
前回の氾濫時に出血を伴うけがをした人間が魔力欠乏症になった。
その条件に緋鞠は当てはまっているし、同様の条件で罹患した人が大勢いる。
「だから、多分関係ない……緋鞠の魔力欠乏症は、俺のせいだよ」
その償いの形は、まだ見つかっていない。
「……ですが、主様」
「うん?」
「それが無ければ主様は探索者にならなかった。そうしたら私は主様に出会えなかった。それだけは、覚えておいてください」
穏やかな笑みを浮かべながら蛍火はそう言った。
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10月10日 昼
シェルター内☆1ダンジョン
第10層 突入から、14時間経過
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「ここで来るか」
それほど苦戦することも無く。
ダイオウグソクムシの超巨大版を撃破した俺達は、ドロップアイテムの中に紛れ込んでいた赤い石――契約石を見つけて溜息交じりの声を出す。
連戦に次ぐ連戦。途中休憩は挟んだものの身体に疲労は溜まりつつある。
だが、もう一線するだけの余力は残していた。
「こいつとユニークモンスターはセットっていう俺の嫌な予想は当たりかな、これは」
そう言いながら俺は蛍火に手を伸ばす。
前回は無防備に触れてしまった。
だから次の時は試しに蛍火と接触した状態で触れてみようと話して決めていたのだ。
もしかしたら、みっちゃんとの会話に蛍火も連れて行けるかもしれない。
「それじゃあ行くぞ……?」
「大丈夫です。いつでも」
えい、と意を決して契約石に触れる。
瞬間。世界が切り替わり。
「おや」
何時も聞いている、だけど耳慣れない口調。
「二度目の来客は初めてだよ。連中を退けられたようで何より」
「あの後は死にかけたよ。みっちゃん」
「死にかけるくらいで撃退できるなら大したものだよ、藤島君」
以前と同じく緋鞠と同じ顔で、彼女がしないような傲然とした笑みを浮かべた姿。
俺は再びみっちゃんと邂逅した。




