表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
75/93

12 ただ冷たく

 シェルター内。

 モンスター。

 避難者。

 

 走りながら様々な単語が頭を過る。

 

 あまりに普段と環境が違う。

 

(中に入れるのは蛍火と、ジャイアントビートルくらいか)


 元よりシェルターには大型モンスターが入り込めないように敢えて入り口を狭くしている。

 狭い入り口を複数設けることで人の流入は妨げないようにしているんだ。

 

 それが今回はネックになる。

 いや。

 

(シェルターはほぼ満員だったはずだ。大型モンスターはどちらにしても入れられない)


 学校の体育館を四倍にした程度の広さ。

 最大収容人数は1000人近い。

 

 だから大丈夫と自分に言い聞かせる。

 そんな広さの中で、ピンポイントに緋鞠のいる場所にモンスターが出て来ているはずがない。

 逃げれているはずだ。

 

 だけど。

 

(いない!)


 シェルターから逃げ出してきた人たち。

 危険度という意味では大差ないどころか、外の方が大型モンスターに遭遇したら一切の抵抗が無駄。

 ――防衛線を張っているとはいえ、擦り抜けてくる可能性は大いにある。

 

 実は、シェルター内の方がまだ安全だ。

 高ランクの大型モンスターなら、シェルターの天井の低さで碌に動けない。

 

 理屈では分かっても、一般人にとってはあの閉鎖空間で小型とはいえモンスターと相対することの方が恐ろしい。

 

(いない!)


 逃げていく人たちの中に緋鞠の姿はない。

 反対方向に逃げた?

 ……考えにくい。

 

 もしも彼女が逃げるなら、きっと自分の方へ逃げてくるはず。

 その予想は確信にも近い。

 

 だとしたら。

 

(まだ中に居る!)


 中の小型モンスターと、外の大型モンスター。

 どちらが危険かという問い。

 一般人にとっては意味がない。

 

 どちらも、死ぬ。

 

「蛍火! 最速で突入だ! どんな手を使っても緋鞠を守れ!」


 かつてないほど必死の声に、蛍火は目を見開き、表情を引き締めた。

 

「どんな手でも、ですね」


 その言葉に秘められた意味に、蛍火は気付いた。

 ……他の避難者を見捨ててでも、まず緋鞠を優先しろと言う言外の指示を正しく受け取った。

 

 突入と同時にフロストを打ち込んで――。

 

 そう戦いを組み立てようとしたところで気付く。

 

(フロスト、再使用時間が開けてない!?)


 経験則的に、とっくに再使用可能になっていなければおかしい。

 見ればアイアンエッジもだ。

 

 まさか。

 

 融合呪文ユニゾンスペルのせいか? あれで合わせたスペルリングは通常よりも再使用に時間がかかる?

 

(だったらサンドストームだ)


 砂嵐でモンスターの視界を奪う。

 その隙に緋鞠を救出し、モンスターを倒す。

 

 シェルターの入り口に到着した。

 もう、そこから出てくる人たちはいない。

 

 それが中の状況を悪い方向に想像させて、心臓が早鐘の様に打ち始める。

 大丈夫だ。間に合ったはずだ。

 そう自分に言い聞かせる。

 

(声を聞いてからすぐに来た。だから)


 シェルターの中に踏み込む。

 

(あんな別れ方で最後なんてやめてくれ)


 熱気を感じない。

 冷え冷えとした……洞窟を進んでいるかのような感覚。

 

 走って来た自分自身の熱が、酷く浮いたように感じる。

 

 そして扉を潜って、即座にスペルを放とうとして。

 

「……あれ?」


 酷く冷え切って寒さに震えながらも、端の方によって避難している人たちがいた。

 

「主様、これは……」


 人前だというのに蛍火も困惑気味に中を見渡す。

 モンスターに怯えている様子もない。

 

 確かにシェルターのど真ん中にダンジョンが発生してるけど……モンスターはいない。


「どういうことだ……?」


 想定外の状況に暫し呆然とする。

 

「っ! 蛍火、緋鞠は」


 状況把握よりも先に、やるべきは緋鞠の安否だ。

 少なくとも当座の危険はない。それが分かればいい。


「お待ちを……あちらです!」


 指さした方向へ走れば座り込んでいた緋鞠がいた。

 どこか、気だるげな。茫洋とした視線をこちらに向けている。

 

「拓郎?」

「緋鞠、無事か? 怪我とかは無いか?」

「え、多分。無いけど」


 そう言いながら緋鞠は自分の身体を見渡している。

 その様子はいつも通りで、本当に無傷の様だった。

 

「よかった……」


 思わずへたり込む。

 意識せずに膝から力が抜けてしまった。

 

「シェルターにモンスターが出たって聞いて……正直生きた心地がしなかったよ。誤報で良かった」

「……いや、誤報ではなかったかなー?」


 そう言いながら緋鞠が目を泳がせる。

 露骨に視線を逸らそうとする彼女の頬を掴んで無理やり俺の方に向かせた。

 

「はくろう、ひたい」

「何があったのか正直に言ったら離す」

「話すと短くなるんだけど……」


 ならもったいぶらずにはよ言え。

 

「ダンジョンが出てきた時、一番近くにいたから真っ先にモンスターに襲われちゃった」


 冗談めかして笑って見せているが、足の震えは誤魔化せていない。

 肝心な時に側にいなかった自分への怒り。

 同時にその状況の不可解さ。

 

「なんで、無傷なんだ?」

「分かんない」

「分かんないって……」

「だって私モンスター目の前にして貧血みたいになって倒れちゃったし」

「はあ?」

「っていうか、なんか身体が重い。これ……魔力欠乏症の症状かな……」


 そんなことを言うので、氾濫後に俺が拾った魔石を渡してやれば顔色が少し良くなった。

 

「あ、治った」

「……昨日補充したばっかだよな?」


 毎週金曜に緋鞠は魔力欠乏症に対する処置――魔力の補充を行っている。

 つい昨日の話だ。なのにもう枯渇?

 

 それにモンスターはどうなったんだ?

 

 緋鞠の様子を見ながら周囲の人に話を聞けば。

 

「……いきなり、凍り付いて砕け散った?」


 そんな証言が複数人から出てくる。

 ダンジョンの側で骸骨型モンスターが魔法陣と共に現れて緋鞠を襲おうとしたと思ったら一瞬で氷漬けになり消滅した。

 

(おかしい)


 まず魔法陣というのがおかしい。

 氾濫時にダンジョンからモンスターが出てくるとき、そこに魔法陣なんてなかった。

 

 魔法陣と共にモンスターが出てくる現象。

 それは俺もよく知っている。

 

 召喚石からの召喚だ。

 

(誰かが、モンスターを召喚した?)


 ……菅沼さんが集めたのはあくまでモンスターを召喚して戦っていた人だけ。

 自分が探索者だって申告しないでシェルターに入った人もいるだろう。

 

(だったら何故モンスターを召喚した?)


 骸骨モンスター……多分スケルトンだ。ランク1の、ジャイアントビートルと同格のモンスター。

 Fランクで使っている人を管理ダンジョンで見かけたことがある。

 

 探索者の物と考えるのが自然だろう。


 ダンジョンが出て来て、警戒した?

 そんなわけがない。

 真っ先にやったことは緋鞠を襲う事だ。どう考えても、モンスターと戦うためじゃない。

 

(この中に、モンスターを使って悪事を働く奴がいる……?)


 だとしたらそれは何故? 何の目的がある?

 

 それに何より。

 

(そのモンスターを倒したのは、誰だ?)


 ランク1のモンスター。レベル次第だけど……仮に1だとしても一瞬で倒すのは今の蛍火でギリギリ可能かといったところ。

 それだけの力を行使できる時点で間違いなく高位のモンスター。或いはスペルリング。

 

 ……その人物は、何故前に出ない?

 いや違うな。

 

(何で緋鞠を助けた?)


 このシェルターで、ほんの一分足らずの間。

 一体何が起きていたんだ?

 

「……あの、探索者さん」


 思考に没頭していた俺に、避難者の一人が声をかけてくる。

 

「お願いがあるのですが」

「お願い?」

「はい」


 そう言って切り出された願いは――俺が叶えられる範囲を超えていた。

 

「ここから別のシェルターに移動したいんです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ