08 第一防衛線
「勝手は慎んでくれよ」
俺達のチームリーダーであるDランクの人は神経質そうに眼鏡を持ち上げながらそう言った。
神崎と名乗った人は探索者よりも学校の先生の方が似合っていそうだった。
「僕が正面を受け持つ。君はそのバックアップだ。後ろに控えていて欲しい。そっちの二人は……遠距離が多いな。ビルの上から支援してくれ」
俺以外の三人に指示出しをして。
リーダーは俺の方を一瞥。
「君は……予備だ。後方で、戦闘に巻き込まれない位置で待機。第二防衛線の準備をしておいてくれ」
そのあまりに適当っぷり。
俺よりも蛍火が憤慨していた。
「何なんですか、あの人」
「まあまあ……もしかしたら気を利かせてくれたのかもしれないし」
待機を指示された場所はシェルターにほど近い。
俺としては都合が良い。
だけど。
「ただ実質正面が二人だけだ。抑えきれるのか?」
放置された車両をモンスターで移動させて即席のバリケードを構築している。
あそこを第一防衛線とする心づもりだろう。
「……まあ向こうもDランクだし。俺より戦い方を心得ているか」
正面が二人とはいえモンスターは九体。
俺達みたいなEランクは召喚枠ギリギリの四体しか持っていないけど、あの人は☆3ダンジョンの限度枠の五体まで揃えていたらしい。
それ以上の数になったら今度はこの通りにモンスターを並べるのにも一苦労だ。
そういう意味で考えれば、二人までしかいられないというのが正しいのかもしれない。
「とりあえずこっちも車を移動させて壁にして……電柱も引っこ抜いちゃうか」
どうせ、放っておいてもそのうちモンスターが壊してしまうんだ。
緊急避難という事で。
「……探索者の法務講座、今度受けておこ」
組合に張ってあった案内、こういう時の話聞けそうだ。
それを聞くためにも今頑張らないと。
近くの工事現場から持ってきたワイヤーを車の間に通して、建物の頑丈そうな柱に繋いだりして柵を仕立てる。
「上の方とか釣り針仕掛ければ足止めになると思うか?」
下は探索者が抜けてくるだろうから危ないけど、上ならどうだろう。
……フレイムオーガがその程度で痛がるのも想像できないし、やるだけ無駄か。
「なんか主様。生き生きしていますね」
「陣地構築っぽくてつい凝りたくなる」
そして防御力が上がれば緋鞠の安全性が高まる訳でもある。
やる気が出ないわけがない。
「ところで、緋鞠様にはこの後どう説明を?」
「どう考えても納得してなかったからな」
危険な事をして欲しくない。
緋鞠はそう言った。
「どう言いつくろっても危険さはあるからな……」
魔石集めの為には戦力マージンを取りすぎるわけにはいかない。
その時点で一定の危険性はついて回るし、ユニークモンスターの問題もある。
ある程度回避の目途は付いたけど……まだ実証できたわけじゃない。
それに、蛍火の目的は恐らくユニークモンスターとかち合う。
「あれからみっちゃんと接触できていないしな」
もしかしたら何か条件があるのか?
そんなことは一言も言っていなかったはずだけどな。
「私がお守りする姿をお見せできれば安心してもらえるでしょうか……?」
「それ緋鞠をダンジョンに連れて行かないとだからなあ」
その時点で俺がNG。
「参った。緋鞠の言いたいことも分かるんだよ」
逆の立場で緋鞠の危険を許容できるかって言われたら断じてノーだ。
「だからって、諦めるなんてのはもっと無理。あり得ない」
そうなるとどこで妥協して貰うか。
「そういう意味でも、仲間を増やすってのはアリなんだよな」
「そうですね」
そう言って俺達が見るのは前方の戦闘だ。
☆3の群れを、四人の探索者が抑え込んでいる。
一人を除いて適正帯ではないにも関わらずだ。
「やっぱ、数は力だな」
寝屋との連携でも思ったけど、モンスターの多様さはそのまま対応可能な状況の多さに繋がる。
相生の効果も考えれば、属性の多様さも重要だ。
「……Dランクに上がれたら、蛍火もあんまり目立たないかな」
今、うちのリーダーが使っているのは……ヴァンパイアだ。
蝙蝠に姿を変えつつ、相手の首筋に食らいついて、血を吸い上げている。
口元を拭う仕草と共に、身にまとう光が増大しているので吸血で自己強化するタイプ。
あれは長期戦だと強いな。
そんな人型モンスターを使っている人がいたので、蛍火もさほど目立たなかった。
流石に喋る、まで行くと目を引きそうだけどそこは蛍火に行動中は口を閉ざしてもらえば解決可能か?
「良い事だと思います」
俺がチーム拡張に前向きな姿勢を示したことで蛍火が満足げに頷く。
普段犬の姿で転がっているのに、目上のムーブされると反応に困る。
「む、突破されましたね」
防衛線の足元を抜けて、飛び出してくる影。
「ランク3……ヘルハウンドか!」
走りながら影が立ち上がり、炎を纏って増えていく猟犬。
サイズは大型犬だけど、自分の能力で増殖して群れを作りだす高危険度モンスター!
「主様はジャイアントビートルで上空から指揮を!」
そう言って蛍火が飛び出し――アイシクルタイガーも続いた。
厄介なのはあの低い高さとすばしっこさ。
壁となるストーンゴーレムの足元を悠々と擦り抜けてくるから、直接俺を狙えてしまう。
作ったバリケードを乗り越えて、蛍火たちは前に出た。
下手に戦ってバリケードが破壊されても困る。
巨大カブトムシの背に乗って、俺はビルの三階くらいの高さから蛍火たちの戦いを見る。
「本体が分身に紛れてるのか」
見た目に殆ど違いが無く、分身は無限湧き……かどうかは知らないけど、少なくとも増える数に衰えはない。
最大で十体程度の様だけど、いくら倒してもその数を維持している。
一掃するか、本体を特定するか。
(特定だな)
仮に一掃プランなら、神威限定解放でも使えば簡単だろう。
だけど後が続かない。
消耗は最小限に抑えたい。
(見分けるとしたら影)
分身に影が無いという意味ではない。
分身を生み出すときは必ず本体の影から生まれる。
その弱点を覚えていたのは正直過去の自分ナイスと言いたい。
それを見抜く。
だけど相手もそれを理解しているんだろうな。
縦横無尽に走り回り交錯しているのは、上から俯瞰しても追いきれない。
「フロストで……」
動きを止めればと安直に考えたけどダメか。
(全部を巻き込める範囲にいない)
ただ使うだけじゃだめだ。
相生……。
(寝屋がいてくれればな!)
スペルの連続使用が一人じゃできない以上、一人で相生は難しい。
モンスターの能力と連携させたくてもフロストの強化には金属性が必要。
俺の手持ちには綺麗にいない。
「待てよ」
……ふと思い出した。
あの融合使いとの戦いで奴が口走った言葉。
『モンスターと魔法の融合!? 有り得ない! 福音の強さの問題ではない⋯⋯! そもそも全く構造どころか概念すら違うものをどうやって一つに!』
つまりそれって。
「モンスター同士の融合が出来たのは同じ概念だから?」
ならば。
「魔法同士も、同じ概念だよな」
……試してみる価値がありそうだ。
純粋な、魔法だけの融合。




