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03 10月10日

―――――――――――――――

 10月10日 朝

  復興区ショッピングモール前

―――――――――――――――


「んーいい天気! 絶好のお出かけ日和!」


 日差しの下で緋鞠が気持ちよさそうに身体を伸ばす。

 今日の緋鞠はパンツスタイルにジャケットというなんかボーイッシュな格好。

 

 というか意識してなかったけど、今日は俺も似たような格好だからお揃いっぽいな……。偶然とは恐ろしい。

 

「なんかこの天気なのに映画を見るのは勿体なくなってきた」

「いきなり今日の予定崩そうとすんな」


 気持ちは分かる。

 特に、俺の体感としてはダンジョン内では摂取出来ない日光を浴びたいという気持ちも少しあるけど……。

 

「あの綺麗にまとまった1からどう2に繋げるのか気になるから俺は見たいぞ、映画」


 それ以上に映画が楽しみなんだよ。

 

「大体ここで外で過ごすってなったら何のために蛍火に留守番させてんだよ」

「それもそう。凄い拗ねてたね」


 え、私留守番何ですか? って顔をしていた犬モードの蛍火を思い出す。

 ……何故あいつは自分も連れて行ってもらえると思ったのだろう。

 

「まあでも二人で映画見に行くのって久しぶりかも」

「最後に行ったのいつだっけ……?」

「中学の頃じゃない?」


 そう言われると最近映画って見てなかったな。

 緋鞠は偶に友人とかと見に行ってたみたいだけど。

 

 そういう意味でも、俺も多少余裕を取り戻したのかもしれない。

 緋鞠の魔力欠乏症に一応のめどがついたことは一つ肩の荷が下りたと言ってもいい。

 

 ……いや、そうでもないな。先月もまたちょっとピンチになってたんだしまだまだ油断は出来ない。

 だけど。

 自分の手で切り開くことが出来る。その実感があるのは間違いない。

 あの頃の様な、間に合うのか、出来るのかという石を飲んだような重さはない。

 

「昔のふるーい映画館も結構よかったけど、こういうでっかいシネコンも出来たら良い物だよね」

「話題作大体やってるしな」


 後純粋に建物が綺麗なのは高評価。

 この辺りの建物は殆ど築1、2年だから当たり前だけど。

 

 ポップコーン片手に上映開始。

 ああ、思い出した。

 こういう映画館着た時って映画本編もだけど、隣で良いリアクションしている緋鞠を見るのも結構楽しかった。

 

 緊迫したシーンだと前のめりになって固唾を飲んでいたり。

 ピンチのシーンになれば口を開けてあわあわしたり。

 逆転したら拳を握りしめたり。

 

 そういうのを見るのが好きで、昔はよく一緒に映画を見に行っていたんだった。

 

「いやー面白かったね。3やってくんないかな」

「ああ、マジで面白かった」


 主に緋鞠のリアクションが。

 

「じゃパスタ屋行こ。ちゃんと予約してあるぜ?」


 緋鞠がドヤ顔しながら歩きだす。

 

「緋鞠」

「何?」

「店はこっちだ」

「……知ってたし!」


 反対方向に歩き始めた緋鞠。

 復興区はどんどん建物増えていくから、しばらく来ないと位置関係がよく分かんねえな。

 

「とりあえず好きなの頼んでシェアね」

「はいはい」


 と言っても、緋鞠食べる方じゃないからな。

 最終的には俺が残りを全部食べる感じになるのは間違いない。

 

「そういえば拓郎は、進路どうするの?」

「あーどうするかな」


 と言いつつも、俺は殆ど決めている。

 

 目標通りDランクに上がって、Cランクへの道筋が立ったのなら。

 このまま、専業探索者になる。

 

 第三研究所とかそういう話は抜きにしても、安定して魔石を入手するためにはやはり自分で取りに行くのが確実だ。

 特にこれから緋鞠も必要量が増えていく。

 高ランク探索者は単純な収入としても高給取りに化ける。

 

 蛍火と共に戦えるのならば、そこへ辿り着くことは可能だと俺は見込んでいた。

 

 ……まあ尤も、Dランクへの昇格で躓いたら真剣に大学進学して就職するルートも考えないといけないけど。

 

 その場合はなるべく年収高い職業につけるようにしないと……。

 

「まだはっきりとは決めてない」

「高2の二学期なのに……」

「そう言う緋鞠は?」

「んーうちから通える大学かなって思ってる。病院、出来れば変えたくないし」


 そうか。そういう問題もあるのか。

 病院が変われば当然医師も変わる。

 今の皆守先生みたいに緋鞠に親身になってくれるとは限らないしな。

 

 結局、魔石による外部からの魔力の補充は対処療法でしかない。

 例え魔石が常に十分確保できたとしても。

 根本的な……魔力の回復を漏出が上回る状態を改善しなければ、どうしても何かしらの制約が付いて回る。

 

 とはいえ、胡散臭い民間療法以外で治療出来たなんて話は聞かないんだよな……。

 

 未だに原因不明の奇病。

 根治方法が分かる日が来るのか?

 

「寝屋ちゃんは東大かねえ」

「さあなあ」

「……友達じゃないの?」

「いや、あんま進路の話とかしないし」

 

 あいつその気になれば海外の大学でも行けるだろうしな。

 アメリカの方だとダンジョン研究盛んみたいだし、もしかしたらマジでそっち行くのかも。

 

「そういえばさ、金井ちゃんの彼氏がミュージシャンになるとか言い出したって話聞いた?」

「いや、初耳」

「それがさ――」


 残念ながら、その金井氏の彼氏についての話はそれ以上は聞けなかった。

 

 店の外から響く爆発音に緋鞠の言葉が遮られたからだ。

 

「……事故かな?」


 緋鞠のその言葉と同時に。

 俺は自分の身体を通り抜けた何かに、背筋を震わせた。

 

「なんか今ぞわぞわってした」

「緋鞠もか」


 この感覚はどこかで覚えがある。

 そうだ。ほぼ毎日のように潜っている。

 ダンジョンの入り口を通った時の感覚を強めた物。

 

「まさか」


 嫌な予感がした。


 ざわつき始めた店内を俺は飛び出す。

 辺りを見渡して、それに気づいた。

 

「……なんだ、あれ」


 少し離れた場所から光の柱が立ち上っていた。

 空へと伸びていくのはまるで、大樹の様。

 

 その根元は、厳重なバリケードに囲まれた場所。

 三年前の氾濫の中心地となった、第三研究所ダンジョンを封鎖している場所だ。

 

 そのバリケードが弾け飛んだ。

 俺の見ている前で、頑丈そうな鋼板がひしゃげて、丸めた紙屑みたいになって転がっていった。

 

 それが紙屑なんかじゃない事は、途中の車を吹き飛ばして建物の壁を貫いて食い込んだ事実が証明している。

 

「なんだ?」

「事故?」


 そんな風に、吹き飛ばされたバリケードに周囲の視線が集まる。

 

 だけど俺の視線はバリケードに釘付けになっていた。

 吹き飛んで出来た隙間から、ゆっくりと姿を現したのは……赤い肌を持った二メートルを超える巨体の人型。

 

 知っている。

 

「フレイムオーガ……」


 21層以降で出現するランク3モンスター。

 

 何でモンスターがダンジョンの外に!?

 

 いや、それも知っている。

 三年前に俺達は全く同じ状況に遭遇している。

 

「ダンジョンの氾濫……?」


 俺がその考えに至ったのと同時。

 街中にモンスターの咆哮と、サイレンが響き渡った。

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あーあ、早く打ち明けないから……
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