02 似た物兄妹
―――――――――――――――
10月6日 夜
自宅リビング
―――――――――――――――
「ねえお兄ちゃん」
緋鞠のその言葉に、俺は背中にぞくりとした寒気を感じた。
緋鞠が、姉を自認するこいつが俺を兄と呼ぶ。
その異常事態は大きく分けると二つの状況だ。
一つは、煽る時。
それもぶちぎれて煽る時だ。
言ってしまえば、兄を自称してるくせにこんなことも出来ないの? 或いはしたの? という時。
つまり大体俺が怒られるとき。
目元をじっと見る。
そういう時は緋鞠の瞼の辺りが痙攣している。
……瞼は動いていない。セーフ。
となるとパターンB。
即ち。夏祭りの時と同じ。
「私、秋物で欲しい服あるんだけどー」
なんか欲しい物をねだる時だ。
ほらね、誕生日近いからそんな事だろうと思ったよ!
「んじゃ誕生日に買いに行くか」
と俺がそういうと緋鞠は目を丸くした。
「何だよ」
「いや、あっさりと決めたからびっくり。去年とか滅茶苦茶渋られたし」
「あー」
あの時は、探索者登録に必要な費用捻出するために兎に角削ってたからな。
「最近ちょっと財布に余裕あるんだよ」
これは本当。
Eランクになったから間引き任務もまた参加できるようになったし。
この前もちょっと行ってきて現金稼いできたから懐は温かい。
「後はほら。一応魔力欠乏症にもめどがついたというか、そのお祝いも兼ねて的な。ちょっと良いご飯も食べに行こう」
これも本当。
ちょっと、緋鞠と喜びを分かち合いたかった。
だがそれ以上に。
……探索者の告白による怒りをプレゼントで少しでも穴埋めしようという大分情けない理由も含まれている。
「ええ? 偶々運が良かっただけで、そんなお祝いするような話じゃないって」
と言いつつも嬉しそう。
(流石寝屋……頭脳担当)
助けてというニュアンスのメッセージとスタンプを爆撃して、半ギレになった寝屋のアドバイスは有効だった。
私に聞くのが度し難いとか、人の心が分からないとか、だから怒られるんだとか、論文書くのに忙しいんだけど? とか。
アドバイスの十倍位文句を言われた気がするけど、非常に助かりました。
でもね、俺の名前を罵倒語の様に使うのだけはやめて欲しかった。
「じゃあさ、この前出来たパスタ屋行きたい。美味しいって評判だったし」
この辺は一度氾濫で更地になった箇所もあった。
所謂復興区は新しい建物とか店とか大分増えてきたんだよな。
結構大きい商業施設とかも入ったりして……いつぞやみたいに、遊ぶために遠出して遊園地に行かずとも良くなった。
ケガの功名、と言うには失ったものが多すぎるけど。
「あーそういえば俺もクラスで聞いたかも。運動部の奴が量も増やせてよかったとか」
「やた。じゃあ土曜は駅前でお昼食べて買い物して……ケーキはどうする?」
確か新しいケーキ屋もオープンしていたと思う。
だけど。
「いつもの店で良いんじゃない?」
「そだね」
ずっと毎年、小さな頃からあるケーキ屋。三年前の氾濫も乗り越えて今も営業している。
「お父さんとお義母さんの分もね」
「抹茶モンブランと、イチゴのショートケーキな」
四人で食べた誕生日祝いのケーキ。
ホールじゃなくて、みんなで好きな物を買って分けて食べるのがうちのやり方。
それは親たちが再婚してからは藤島家のやり方にしようとして。
たった一度だけ。
家族四人でそうやって分け合った。
「あとさ、復興区の方行くなら見たい映画もあるんだよね。このナインヘッドメタルシャーク」
「クソ映画臭しかしないんだけど?」
少し沈みそうになった気分を持ち上げていく。
映画か。
正直映画よりも刺激的な二か月弱だったから、どうせ見るならもうちょっとリラックスして見れそうなのが良いな。
「せめてこっちのアニメーション映画にしようぜ」
「面白そうだけど、それ2じゃん」
「んじゃあ金曜の夜に1見るか」
そんな風にして、土曜日――誕生日当日の予定を決めていく。
「んーそうすると、午前中に映画見て、お昼食べて、午後買い物って感じか?」
「そうだね。夕飯はうちで食べよ。で食後にケーキ。てか拓郎はプレゼント欲しい物無いの?」
「うーん」
貰えれば大体嬉しいからな。
敢えて言うなら。
「現金とか言ったら今年のプレゼントは無しです」
ちょっとマジのトーンだった。危ねえ。
言う所だった。
「靴、かな。ちょっと頑丈で山歩きとかにも使えそうな奴」
「アウトドア系? この前寝袋も買ってたし……キャンプでも始めるの?」
そう見えるのか。
まあダンジョンでキャンプって意味だと間違ってはいないな。
「そんなとこ」
……なんかこの流れで行ってしまえば良いと思ったけど、ここまでくると計画通りに進めたくなるな。
諸々全部終わって、機嫌よく家に帰ってきたタイミングで話そう。
これは完璧な計画。
それはそうと。
楽しい楽しい誕生日の前に、学生として片づけないといけないタスクがある。
「ところで緋鞠。お前中間テストは大丈夫なの?」
「やめて、思い出させないで」
なんか、そんなセリフこの前俺も言った気がする。
「やっぱり現実逃避だったか……」
自分もつい数日前に全く同じことやっていたのは見なかったことにする。
「だって今回の範囲難しいじゃん! びぶんってなに! ちょっとくらいテストのこと忘れても良いじゃん!」
「流石に前日に忘れんな」
俺だってダンジョン攻略の休憩中にテスト勉強したり、昨日今日は久しぶりにダンジョンに行かなかったり一応対策してんだぞ。
「何でいっつも、誕生日の直前に中間テストなの」
「誕生日直後よりはマシだと思っておこうぜ」
はしゃごうにもはしゃげずに粛々としないといけないよりはマシだろ?
「そろそろテスト勉強するか」
「拓郎。数学わかんないいい」
こいつ、暗記は得意だけど公式当て嵌めたりするのは苦手だからな。
泣きついてきた緋鞠の試験勉強を手伝いながら。
寝屋がテスト時間のほぼ十割寝て過ごす試験期間は過ぎていき。
「自己採点では数学以外はギリ平均点と見た!」
「まあまあ良くできたかな」
寝屋は多分満点とか緋鞠が聞いたら憤死しそうな事を言っていた……。
無事? 中間テストの三日間を乗り越えて。
いよいよ俺にとって決戦の日。
明日10月10日。俺と緋鞠の誕生日。
◆ ◆ ◆
―――――――――――――――
10月9日 夜
☆4ダンジョン跡地
―――――――――――――――
「あ?」
☆4ダンジョンを一つ攻略し、新たなダンジョンを予約しようとした雷蔵は自分のスマホを見て眉根を寄せた。
「どうなってやがる?」
予約ページの定番の文言。
日々の出現数の統計が表示されている個所。
一日2~300程度の数字が並ぶ場所。
ここ数日はそこから更に増加傾向にあったはずの数字だ。
「あり得ねえだろ」
そこには今、こう記されている。
関東地方の新規ダンジョン。
本日の出現数は0です。




