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27 事件解決

 勝った。

 

 だけどまだ終わりじゃない。

 

「蛍火!」


 全身が熱っぽく、痛む。

 あちこちの打撲が今になって存在を訴えてくるが、構ってはいられない。

 

 スキュラは倒した。

 

 だけどまだあの男は健在。

 最悪、召喚石を入れ替えて新しいモンスターを召喚してくる可能性すらあった。


 それを防ぐため、蛍火が自身の怪我をおして走る。

 

「動くなっ!」


 抵抗よりも先に、蛍火が腕を捻り上げる。強引に手を開かせて指輪とブレスレットを奪ったのを見て、漸く俺は肩の力を抜いた。

 

「そのまま抑えてていてくれ」


 リュックの中からのろのろとした動きでロープを取り出す。

 これで縛り上げれば……一先ずは安心だろう。

 

 後ろ手に縛りあげて、手にしていたリングを全て没収して。

 それでも尚男から余裕の表情は消えなかった。

 

 口元に小さな笑みすら浮かべている。

 

「何がおかしい?」

「決まっているじゃないか兄弟よ。君のその福音の素晴らしさだよ! 異なる概念の融合! まさに、我らが追い求めていたもの!」

「悪いけど、あんたたちの宗教談義はこれっぽっちも興味が無い。このまま組合に突き出させてもらうぞ」


 正直このまま寝っ転がって爆睡したい気分だけど、そうもいかない。


 寝屋は……無事なのか?

 全く目を覚まさないのが心配だ。


 病院……いや、組合でポーション買って飲んだ方が効果あるか? 兎に角外に出ないと。


「ああ。敗者は勝者に従うとしよう。ただ兄弟。聞いておいた方が得だと思うよ。何しろ、君はこれからも狙われる」


 寝屋の呼吸を確認していた俺はその言葉に動きを止めた。

 

「主様。あ奴の言葉に心乱されない方が良いかと。あいつは、どう考えても口先を弄する詐欺師です」

「これは心外だ。自分の真実を語っていない大噓吐きに詐欺師呼ばわりとは」


 露骨な、蛍火に対する敵意。

 そうだ。こいつは寝屋を魔女と呼んでいた。俺の事は兄弟と。

 だとしたら背教者は誰だ?

 

 こいつらにとっての神とはダンジョン。

 そこに対する背教者という事は――。

 

「お前、蛍火について何を知ってる?」

「おや、我らの教義に興味が出てきたかな?」

「とぼけるな。ダンジョンの底の底。そこにいる奴を知っているな?」


 ダンジョンに封じられていると自称していたみっちゃん。

 ユニークモンスターを監視者と言っていたことから踏まえれば。

 

「お前たちとユニークモンスター。どういう関係だ」


 一連の不明確だったライン。

 そこについて、こいつらは何かを知っている。

 

 そう感じさせるには十分だった。

 

「なるほど、なるほど。君はアレとの契約者だったか。という事は使徒の襲撃を退けたという事だね……これは失敗した。そうと分かっていたら今以上に準備を整えてきた物を」

「一人で納得してんな。吐け」


 根本的な情報量が違い過ぎる。

 こっちの一言から相手は推論できるのに対して、こっちは言葉尻に必死に食らいつかないといけない。


「さて、黙するのは簡単だが……勝者への報酬は何か渡さないといけないな」


 心臓が早鐘を打っている。

 色々と断片的だった箇所が繋がりそう。

 そんな予感が――いや、悪寒がある。

 

「我々は人類を救おうとしている」

「お前らの教義に興味は無いって言ったはずだけど?」

「まあ聞きたまえ。ダンジョンとは即ち神その物……この星の魂へと続く通り道。我らはそれを通って、この星を、人類の為の物に作り替える。そしてそいつは」


 そう言って男は顎で蛍火をしゃくってみせた。

 

「星が悪あがきで生み出した、対抗兵器だ」

「お前が、まともじゃないってのはよく分かったよ」


 精々が参考になりそうなのは、蛍火が対ダンジョンの為にいるという事くらいだ。

 

「真実を知りたければ、第三研究所に行けばいい。行ける物なら、ね」


 寧ろついでの様に付け加えられたこっちの方が聞き捨てならない。

 

「おい、今の話を詳しく――」

「さて、ではお別れの時間だ。また会おう兄弟」


 そう言って、男は白目を剥いて意識を失った。

 まさか、こいつ……。

 

「……逃げられたかもな」

「どういうことですか主様」

「何で捕まった後もこんなに余裕だったのかって考えればもっと早くに気付くべきだった」


 両手で縛られたまま失神している男を見て俺は溜息を一つ。


「こいつ、今度は人間に融合してダンジョンに入って来たんだ」


 その可能性を見落としていた自分に怒りが湧いてくる。

 とはいえ、気付いていたからと言って有効な対策があった訳でもないから、結果は同じだろうけど。

 

「蛍火はこいつを運んでくれ。俺は寝屋を運ぶ」


 魔力は取れた。

 あいつにはそこまでこっちの狙いは読めていなかったからあっさりと引き下がったのだろう。

 

「組合でこの魔力が認められればあいつはもう組合に立ち入ることは出来なくなる。たとえ融合して誰かの身体を乗っ取っていたとしても、な」


 一先ずはそれで良しとしよう。

 

 ダンジョンから出てすぐに組合と警察に連絡。

 ダンジョン内で襲われたことと、相手を拘束していることを伝えてからは大変だった。

 

 まず寝屋が病院に連れて行かれ。

 俺はあれこれと事情聴取。

 

 俺達が拘束した男はやはり、と言うべきか。

 

「これまでに探索者として活動した履歴が確認できませんね。一体どこで召喚用のブレスレットなどを手に入れたのか……」

 

 組合側の人がそう教えてくれたけど、その事自体に警察側が渋い顔をしていた。

 ……噂には聞いたことあったけど、組合がダンジョン内の警察権に介入しようとして、警察とは仲悪いって本当みたい。

 

 実際、男――というよりも融合していた誰かの魔力パターンを渡す際も迷わず組合側が取っていった。

 警察側には、それを活かす方法が無いでしょう、と言わんばかりに。

 

 寝屋の発表した解析アルゴリズムが正確な物だと分かればそれを利用した魔力パターンを測定してデータベース化するという話は寝屋経由で聞かされた。


 この大捕り物から二週間経った頃の話だ。


―――――――――――――――

 9月27日 昼

  某ファミレス店内

―――――――――――――――


 俺達は近所のファミレスで涼みながらその後の顛末を話していた。

 

「見てたくろー。ニュース」


 そう言って寝屋が見せてきたのは……連続誘拐事件の犯人が自首したという物。

 以前フォーラムに乱入してきた神聖唯一ダンジョン教会の信者で、ご本尊たるダンジョンを研究するなんて事が許せなかったと動機を語っている。と言った記事。


「……それじゃあこれで一応一件落着……なのか?」

「ってことになるのかなー?」


 二人とも疑問符を付けているのは、とてもそうとは思えないからだ。

 それに……誘拐された人たちの行方も未だ分かっていないみたいだ。

 

「と言ってもーあれ以来全然気配もないしー他の人たちも同じみたいだしー。流石にもう出来ることがないー」

「だよなあ……」


 そもそもこんな事件に高校生が首突っ込んでいたのがおかしかった。

 

 あの男……かどうかも分からない謎の人物は恐らく捕まっていない。

 だがそれについては――。


「あ、探索者アプリにアップデート入った」


 探索者専用スマホに追加された機能……周囲の人間の魔力パターンを自動で収集するという機能だ。

 これでもし、ブラックリストに載った魔力パターンの人間がいたら警告を出したり、自動で組合へ通報したりしてくれるという物らしい。

 

 寝屋の発表した内容を元に、試験的に組み込まれたシステム。

 

「……これであいつはその辺を迂闊に行動も出来なくなったわけだ」


 地上であってもうっかり探索者とすれ違えば組合に通報が届く。

 見た目だけで探索者の区別がつかない以上、相手にとってはどこにいても見つかるかもしれないという事だ。

 

 融合していたとしてもそれは同じ。

 最早行動は封じたも同然だ。

 

「とりあえずこれで寝屋は一応安全確保できたな」

「そうだねー。助かったよたくろー」

「そう思ってんならマジで助けてくれ……」


 そう言いながら俺は頭を抱えた。

 

「緋鞠になんて言い訳すればいいのか思いつかん」


 誕生日に全て白状すると決めたのは良い物の。

 このままだと緋鞠が大爆発するのは目に見えている。

 

 せめて大爆発から小爆発になるくらいのダメコンをしたいところなんだが……全く思いつかない。


「というか、たくろーが変に隠し事したのが問題だから甘んじて怒りを受け止めるべきー」

「いや、そう言わず」

「んー多分私が言うと逆効果ー。後、これからしばらく論文書くのに忙しいからまた今度ー」


 そう言って寝屋は伝票を手に取って立ち上がる。

 

「ここは私のおごりー。じゃあねー」


 もう一人でも大丈夫だと。そう言わんばかりに寝屋はすたすたと立ち去って行った。

 

 一人取り残された俺は溜息を一つ。

 

「……マジで、どうしよう」


 誕生日まで残り二週間。

 未だにノープランだった。

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こいつも端末だったか、情報持ち帰られたのは痛い。 誕生日は日本の伝統、かくかくしかじかでなんとかなれー
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