表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/70

26 巨人の一撃

 スキュラが持つ多量の触手が蛍火を絡め取ろうと四方八方から襲いかかる。


 常時展開されている炎。その壁は容易く突き破られてしまった。


 雨のような打突を蛍火は。


「やあああああ!」


 気を吐く声と共に、己の手足で片っ端から撃ち落としていく。

 風の力によって体の動きすべてが軽やかに、羽の様に舞っていた。


 土の力が宿った手甲が触れると触手が弾ける。

 数え切れない触手をたった四本の肢体で押し返していく様は、それ自体が一つの魔法めいていた。


(互角だ)


 圧倒的だった融合体のスキュラに対して、今の魔法融合エンチャントした蛍火は全くの互角。


 だけど互角じゃ足りない。

 こっちの残り時間は刻一刻と削られている。対して向こうの限界時間は期待できない。


 もう一押し。この均衡を崩すには。


 一段、深く蛍火と融合する。

 魔力を彼女と共有。

 ユニークモンスターと戦ったときと同じ状態。


(そう、あの時と同じなら俺は)


 蛍火の力を使える。


「ピラー!」


 声とともに、己の指にハマったストーンピラーの指輪が一際強く輝いた。

 地面から立て続けに生えた石柱の群れが、触手を貫き、絡め取っていく。


 均衡が崩れた。

 触手の雨の中を強引に突破した蛍火は拳を振りかぶって犬型の頭部へ叩きつけようとし。


 融合して見える蛍火の視界の中で、犬の口が開こうとしている。

 またあの衝撃波。至近で食らったら今の状態でも危険。


 だが回避は不可能。

 音の速度は今の蛍火でも上回れない。


(なら先手を取る!)


 その結論が出るまでに、コンマ1秒も必要とはしない。


「ブースト!」


 蛍火の手甲。

 その前腕に刻まれたスリットから風が吹き出る。

 

 その風が轟音と共に一瞬で炎へと変わった。

 ジェットエンジンめいた加速で、喉を震わせようとしていた犬の顎を全力で打ち抜く。


 強引に口が閉ざされ、行き場を失った衝撃波がやつの頭部を弾けさせた。


「ぐおおおおおおおお!」


 腹の底からの悲鳴。

 頭を失っても尚、動くスキュラは今まで戦った中でもトップクラスでタフ!


 ここまでで15秒使ってしまった。


 指輪はもう三分の一近くが砕けている。

 恐らくは後30秒。


 それだけの時間であの巨体を滅ぼし切る⋯⋯。


 頭部を失ったスキュラが、トライデントで作られた三叉槍を振り回して石の柱を叩き切る。

 自由になった触手が再び蛍火を押し戻した。


 神威限定解放は最早使う余裕がない。

 融合した風の力が蛍火の魔力を賦活させているけど、ダメージが大きすぎた。

 

(だから、使うべきは土の力)


 相克で相性も良い。

 二段階の相生で、土の力は高まっている。


 全身を隈無く、叩き潰す。


 あのタフさを上回るには他に無い。


「バックウィンド!」


 蛍火へ更に強い風を纏わせる。

 軽やかな舞から、激しいダンスへ。


 要所要所でその風を蛍火が加速に使えるようにする。

 体を動かすのは蛍火。そのために必要なものを俺は揃えていく。


「ピラー!」


 邪魔触手を再び足止め。これで蛍火が自由に、そう思ったところで。


「させないよ、アイヴィー」


 男のスペルによって生えてきた蔦が蛍火の四肢に絡みつき拘束する。

 それどころか、石で出来た手甲にも潜り込んで砕こうとしていた。


「ありがとうございます」


 そこで蛍火は一言、礼を。


「燃えるものを持ってきてくれて!」


 砕けかけていた手甲が幻のように消える。

 そして顕になった蛍火の素肌には、衣のように炎が纏われている。


 蔦という燃料を得て、蛍火の炎が更に強く燃え上がる。

 一瞬で自由を取り戻した彼女は、生み出した石柱を再度具足へと作り変えた。


 属性の高速切替。

 今の蛍火は3つの属性を自在に操っている。

 下手に、相克を狙ってスペルを使っても、妨害どころか最適な属性を全面に押し出して相生にしてしまう。


 不意を突けば話は別だろうけど……一度でもこの切り替えを見てしまえば疑心が生まれる。

 この隙は本物か? 敢えてスペルを誘って自分の力にしようとしているのではないか? と。


「下手な小細工は逆効果か」


 頭を失ったスキュラはトライデントを構える。


(来るか?)


 水流三叉。

 相性自体は良い。だがあの三連撃。その全てを捌き切れるか?


「蛟」


 更にそこへ追加のスペル。水で出来た蛇――いや、竜がトライデントに巻き付いていく。

 その状態でスキュラがトライデントを突き出し。


「あれが限界だと思われても困るな。波濤九頭竜」


 一瞬の引戻しからの突き。それが更に2度。

 計三回の突きから生み出された九つの水流⋯⋯否、水竜。

 

 だけど、そこにさっきまでの絶望感は無い。


(一発一発の威力がさっきと同等なら……相克を加味しても今の蛍火じゃパワー不足!)


 ただ、勝つために何をすればいいか思考が回っている。

 

『狙いは任せる!』


 足りないところのフォローは、俺がやる。

 シンプルに。

 蛍火の動きの邪魔にならないように威力を上げる。

 

 なら――。

 

 彼女の動きに合わせて、新しい拳を撃ちだせばいい。

 

 石で作られた巨大な拳を宙に形成する。

 

 それが九つ。

 

「行けっ! メテオインパクト!」


 蛍火が叫びながら拳を突き出した。

 新たな拳は蛍火の腕の動きに合わせて、手首があるべき場所から炎を吹き出して飛んでいく。

 

 さながら、流星の様に。

 

 大きな力を使ったせいか、加速度的に時間が減っていくのが分かる。

 指輪はもう、辛うじて糸が繋がっているように見えるくらいまで削れていた。

 

 残り、3秒。

 

 水の竜が流星によって打ち砕かれる。

 

 互いの大技が相殺され合って、一瞬の静寂。

 それを切り裂くように蛍火が最大加速で前へ出る。

 

 その前進を。

 

「読んでいたよ」


 待ち構えたように置かれているトライデント。

 タイミングを完全に盗まれていた。

 

 こっちの力を逆用する逆転の一手。

 

 その一撃を俺は。

 

「アイアンエッジ」


 読み切っていた。

 

 大技のぶつかり合いでは決着にならない。ならその後、お互いだけでの近接戦。

 相手は当然、あの三叉槍を使ってくることくらいは。

 

 だったら、属性を変えてしまえばいい。

 同じ属性のぶつかり合い。

 

 スペル単独としては明らかに相手の方が格上。

 しかし、こっちは四つの属性が相生した物。

 

 結果は――言うまでもない。

 

 右手甲から生えた鋼鉄の刃が槍を切り裂く。

 

 そして今度こそ、がら空きになったスキュラの胴体へ、反対の左拳による一撃が打ち抜いた。

 

 怯んだそこへ、更にラッシュ。

 息を止めて、1秒間で全てを出し切る。

 

 一発、二発、三四五六七八九十――。

 

 そしてきっちり1秒後。

 

 二つの指輪が完全に砕け散った。

 

 蛍火の身体から風と具足が消えると共に。

 スキュラの巨体も光となって消えて行っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
下腕に刻まれた 人間の肩から肘は上腕、肘から手首は前腕です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ