24 4対1
モンスターとモンスターの融合。
この力、俺はずっと自分と何かを融合させる力だと思っていた。
だけど、そうじゃなかった!
他人が使うのを見て、自分の思い込みを自覚した。
「合体した……」
寝屋の呆然とした声、というのはレアだなと。
衝撃で空白になった頭の片隅で俺はそう思った。
デカい。
シンプルにサイズだけでも過去最大。
何よりも感じる威圧感……下手をしたらユニークモンスターを超えているのではないか?
いや、それも当然か。
恐らくは推定でレベル20前後のモンスター二体が合体した姿――単純にそれより弱くなるなんてありえない。
ユニークモンスターとはいえ☆1ダンジョンの枠内に収まっている状態では、敵わないのかもしれない。
「はああああ!」
最初に正気を取り戻したのは、やはり蛍火。
自分よりも遥かに大きい相手に対して果敢に殴りかかる。
狙うは一番脆そうな人間と同じような上体。
怪物然とした頭部、下半身に比べれば防御力が低そう。
――相手もそれが分かっているのか。
スキュラの下半身から触手の様に生えている蛇の頭、そして魚の頭が蛍火を捕えようと鎌首をもたげる。
「っ! 金剛身!」
咄嗟に、相手の動きを止める。
触手の一本一本が蛍火の胴ほどもある。
あんなもの振り回されるだけでも十分すぎる凶器だ。
カウンターのスペルはない。
直接相手に作用する金剛身は、打ち消せないのか?
兎も角、僅か数秒間動きを止められたスキュラ。その半端に上がった触手を足場として蛍火が高く跳ね上がる。
「インパルス」
男の声と共に、スキュラの頭部。そこにある犬の口が大きく開き、吠えた。
「オオオオオオオオオオン!」
俺達の元にまで届く音――を通り越して最早衝撃波となった咆哮。
モンスターのアクションに加えて、スペルによる衝撃波の重ね掛け。
二重の衝撃を至近から浴びた蛍火は獣の耳を抑えながら吹き飛ばされる。
「蛍火!」
俺も感じる耳の痛み――そして共有していた蛍火の五感の一つ、聴覚の喪失。
聞こえてはいるのだがどこか分厚い膜の向こう側の出来事の様。
「鼓膜をやられたのか……」
くそっ、何なんだよあの犬の頭。魚と蛇のどっから生えてきたんだ。
大丈夫。
融合している以上、意思の疎通に問題はないと強がって見せる。
実際には細かな指示が伝わらない可能性はある。
「寝屋、敵は一体になった。集中して攻撃できることをラッキーだと思おう」
「たくろー。それはプラス思考するにも無理がある」
そうとでも思わないとやってらんないんだよ。
追い詰めていたと思ったのに一発で逆転されてしまった。
追い詰められたのは寧ろ――。
「まずは挨拶代わり。さあ、次は君の番だ。その強き福音が生み出しし融合体。正直に言えば少し楽しみだよ」
男は言葉通り、どこか楽しそうに。期待に満ちた目でこちらを見ている。
(ダメだ)
本能で理解した。
恐らく、俺もやろうと思えばモンスター同士の融合は出来る。
だがずっと危惧していた事。
2つの存在が混ざり合ったらどうなるのか。
そこに対する答えが出ていない。
恐らく融合させた後、そう時が経たずに自壊してしまうだろう。
相手のスキュラは安定しているように見える。
だけどあれは、元に戻れるのか?
だとしたら、何か仕組みがあるはず――それは、見ただけじゃ分からない。
だったらそんな不確かな力に頼るべきじゃない。
寝屋に目配せ。手元で立てた指で、寝屋にどのリングを使うか指示を出す。
小さく頷き返して寝屋は叫んだ。
「ダイタルウェーブ!」
大量の水が通路に出現し、腰の辺りの高さとなって雪崩れ込んでいく。
大雑把に、だけど味方は巻き込まない水流。
スキュラの巨体を流せるほどではないが、人間を流すのには十分な圧力。
ただ使うだけでは一瞬で消えてしまう水だが――一つ手を入れれば長持ちする。
「フロスト!」
寝屋のスペルから間髪入れずに俺もスペルを使用する。
連続使用。
複数人いるからこそできる魔法のコンボで、分厚い氷によってスキュラの下半身が覆われる。
加えて、倒れた男の周りにも分厚い氷が出来て動きを封じ込めた。
今しかない!
「逃げるぞ!」
相手は殆ど動けない。何本か自由になっている触手を蛍火に弾かせれば、十分に突破は可能だ。
目的はあのスキュラを倒す事じゃない。
あの男の魔力データを持って、ダンジョンの外に――組合に逃げ込む事だ。
逃げの姿勢に入った俺達を見て、男は小さく溜息を吐き。
「トライデント」
一つのスペルを唱えた。
氷に突き立てられる、巨大な三叉槍。
それが一撃で氷を罅割らせて、粉々にする。
「残念だ。残念だよ兄弟。どうやら君はその福音の大きさに反して、使い方を全く知らないらしい」
あっさりと自由の身になった男は首を横に振りながら立ち上がる。
どこか失望したような声と共に。
「全く、君が神からその力を与えられたのは偶然という事なのか。信心深い者たちがどれだけ祈っても手に入らない力を、こんな何も知らない少年に。おお、神よ。なんと無慈悲な」
何やら長広舌を述べているが、その内容よりも俺は未だ消えずに地面に突き立てられた槍を見ていた。
「あれは多分、白……金属性だよな」
それは本来、水を増幅させる。
つまり、フロストの氷を砕く上では相性が良くないはずなのだ。
それを一撃で粉砕した。
それはつまり相性を覆すほどに強いスペルという事。
「さて、残念だが――そろそろ終わりにしよう。こう見えても私は忙しくてね。後でゆっくりと語らおうじゃないか」
その言葉を合図に、スキュラがトライデントを手に握る。
そうした瞬間に、今まで以上にスキュラの圧力が増した気がした。
「マズい」
散々利用している相生の理。
ただでさえ強い金属性のトライデント。
それが、水属性であるスキュラを段違いに強化している。
構えられた三叉槍。
その穂先から渦巻くように水流が生じて、槍全体を包んでいく。
本能がガンガンと警告してくる。
心臓が早鐘の様に打ち始める。
やばい。やばいやばいやばい。
あれは、間違いなくやばい!
「では暫しの別れだ。穿て。水流三叉」
スキュラが大きく槍を引き絞り、一気に前へと突き出す。
その勢いに押されるように飛び出してきた水流は――最早鉄砲水。
速度と圧力。その二つを兼ねた災害的な一撃。
これと比べたら先ほどの俺達のスペルなんて水遊びも良い所。
スペルを――ストーンピラー程度で止められるのか?
モンスターの影に――ダメだ。共に流される未来しか見えない。
対処が、出来ない。
そんな、死の象徴が通路を埋め尽くす勢いで迫ってきていた。




