21 実質釣り堀
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9月13日 朝
フォーラム会場
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フォーラムと言っても小規模な物だろうと思ってた。
講演が複数同時に行われていて、一つ当たりの定員200名とか聞いてない……。
「たくろー、おどおどしすぎー」
「何でそっちはそんな落ち着いてるんだ」
「慣れー。ダンジョンの方が緊張する」
寝屋は鏡を見ながら学校の制服姿で変なところが無いかチェックしている。
こういう場は制服の方がウケがいいらしい。
「まあたくろーの本番はこの後だからー適当に時間潰しててー」
いや、この全く内容の分からないダンジョン関係の講演の中でどう時間を潰せと。
寝屋は準備とかあるらしくてどこかに行ってしまった。
多分いても突っ立ってるだけだしな。
流石にこの場に犬状態の蛍火は連れてこれず。かといってギャルモードもこのフォーラムの場では浮き過ぎる。
会場の外で待機してもらっているので、久しぶりに一人である。
貰ったパンフレットを見て、どこか適当な講演を聞いてるかと思ったら知ってる名前があった。
「工藤雷蔵。ダンジョン探索の未来を語る……マジかあのおっさん」
そういえば広報とか露出してるって言ってたような言って無かったような……。
丁度タイムスケジュール的には聞き終わったら寝屋の番になりそうだ。
折角だし冷やかしがてら見て行こう。
「――従ってダンジョンは特殊災害でありながら、一次産業の側面も持っています。ある意味探索者は一次産業従事者でもある訳です」
おや、俺の眼がおかしくなったのかな。
髭剃ってスーツ着たおっさんが真面目な話をしている。
てっきり山賊の武勇伝みたいな話をしている場と思ったのに。
「農業林業漁業に比べると顕著ではありませんが、既に探索者でも人手不足の兆候は出ています。探索者自体の人数は増えていますが、所謂一人前と称されるEランクへの昇級者数は五年連続で減少傾向にあります」
へーそうなんだ。
いや、でも実際管理ダンジョンで遊んでるだけの人多いしな……。
仮探索者登録だったらレンタルでモンスター借りれて、モンスターとの戦闘を楽しめるアクティビティです。なんてテレビでやってんの見た事あるし。
あれ、ドロップした魔石全部回収されるから俺には関係ない話だったけど。
その後も主に産業的な面でのダンジョンの話を雷蔵は続けていた。
あんな山賊みたいな見た目していたのに、結構インテリというか頭脳派というか。
高ランク探索者ってこんなことまで考えてダンジョン探索しているのかとちょっと勉強になった。
なるほどなー。ドロップアイテムの加工か。
この辺の話覚えておけば、金儲けに繋がりそう。
「こういったダンジョン研究の最先端では高ランクダンジョンからの出土品が重要になってきます。我々探索者と研究者互いの領域で――」
あ、おっさんと目線があった。
ちょっと固まってる。
「……失礼。お互いの領域で区切らず、共にダンジョンの謎を解き明かせるような体制を作り上げていくことがこれからの社会にとって重要だと私は考えており……」
なんかチラチラとこっちに視線を向けて来て話しにくそうだな。
仕方ない。
大分時間は潰せたし寝屋の発表の方に行くか。
狙いは、寝屋に対して妙な視線を向けている奴がいないか。
そして、餌――第三研究所の話をした時に反応する奴がいないかだ。
寝屋の発表が始まった。
……200席きっちり埋まってるのが凄いな。
あいつこの前研究小町で人気者とか言ってたけどあれ冗談じゃなかったんだな。
扉が開いているので部屋の外でも話の内容は聞こえてくる。
「この波形分析アルゴリズムから、ダンジョンの波形とひとくくりにされていた物からモンスターの魔力などを別々に分解することが可能になり、ダンジョン内、階層単位でのモンスター分布の分析が可能に……」
「マジか」
ふと気が付いたら隣におっさんがいた。
寝屋の発表を聞いて驚いている様子。
……っていうかあぶねえ。もし無理やりに蛍火を連れてきていたら雷蔵に蛍火がダンジョン外に出れるってバレるとこだった……!
「藤島。お前こんなところで何やってんだ」
「友人の付き添いみたいなもん。てかおっさん、久しぶり」
直接会うのは間引き作戦以来か。
「友人? 今発表している寝屋って奴か」
そう言いながら雷蔵は寝屋の方をじっと見ている。
「ダンジョン内のモンスター分布の確認。本当に出来るならかなり役に立つ。特に高ランクダンジョンだと潜伏能力高い奴らが多いからな。そいつらがいるか居ないか分かるのはデカい」
「やっぱそうなんだ」
雷蔵はパンフレットに目を落としてぽつり。
「寝屋加奈子か」
わざわざ名前を確認する当たり、本気でこの研究に可能性を感じているらしい。
「で、お前は調子はどうなんだ。夜中に電話してきて急にダンジョン攻略できるかとか聞いてきたけど行けたのか」
「ああ。お陰様で。Eランク昇格条件満たしたから今度試験受けてくる」
「一月足らずでEランク条件達成か。やるじゃねえか」
なんか急に褒めてくるから逆に警戒心が湧いてくる。
こいつ、そんな素直に褒めるタイプじゃねえだろ……。
「おい藤島。早くDランクまで上がってこい。そうしたら――」
そうしたら、の続きはこの場では聞けなかった。
何故なら。
「――また、今後の研究ですが第三研究所の研究について掘り下げていきたいと思っております。発表は以上です」
寝屋の撒いた餌。
それに対する反応は……想像以上の会場のざわめき。
「第三研究所だと……」
雷蔵も唸っているのを見て、俺は見込み違いをしていたかもしれないと今頃気が付いた。
「なんかやばいのか?」
「やばいというか……この業界じゃ一種のタブーだな。やたらと話題に出る癖に、何をやっていたのか全く分からなかったという不自然さでみんな避けてんだよ」
そんな場所に勤めていた俺達の両親……一体何を研究してたんだ?
遺品の中に具体的な内容が分かる物は無かった。いや――あの契約石。まさかその絡み?
くそっ、何でこんな急に俺達の親の事で謎が増えていくんだよ! 何をしてたんだよ、母さんっ。
「つまり今の寝屋の発言は」
「その何やってたか分からないことが分かった、って事だからな。これがSNSとかなら妄想で済む話だけどこの場所で言えばある程度の信ぴょう性が生まれる」
何しろ少なくない人間が集まるフォーラムでの発言だ。
やっぱり何もありませんでした、だと寝屋の信用に傷がつくんじゃないか。
その話を終わった後の寝屋にしたところ。
「まあ、学生だから何とかなるよー」
つまり寝屋はある程度承知の上だったという事だ。
「すまん。俺の考え不足だった」
「元々は私の問題ー。それよりも餌、食いついたかな?」
「蛍火」
会場の外で合流したギャルモードの蛍火は帽子を目深にかぶりつつ頷いた。
「不自然な動きをするカラスが徐々に増えてきています。私たちを尾行している物かと」
相手にとっても第三研究所の研究というのは聞き逃せないワードだったらしい。
「よし。ならこのままダンジョンに誘き出せるか試すぞ」
既にこの近場の☆1ダンジョンは予約済み。
そこへと足早に移動する。
「蛍火、例のカラスは近くにいるか?」
「はい。そこの看板です」
蛍火の視線を追いかけて、そこにいたカラスへいつぞやの様に意識を伸ばす。
感じられたのは、俺達を……寝屋を監視しろと言う意思。
予想通りだ。
それを確認して俺は融合を解除。
相手にも、俺がまたカラスを探っていたことは多分伝わったはずだ。
「よし行くぞ」
前回の襲撃と同じような行動が二つ目の餌。
ここまでして釣れなかったら少し面倒。
だが幸いにもその心配は杞憂に終わった。
「たくろー。多分上で誰かがモンスターを召喚した。魔力の計測結果がちょっと変わった」
四層で待機し始めて暫く、寝屋がそう言う。
「召喚者の魔力は分かるか?」
「分析にかけたらもしかしたらー。でも直接計測するのが確実だと思う」
「そうか」
なら、やはり計画通りだ。
「こっちから仕掛けよう。最初の奇襲で相手の推定マリオネットを落とす」
向こうはこっちを追い回しているつもりかもしれないけど、今日は違う。
こっちが追い回すターンだ。




