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17 襲撃

「くそっ、本気かこいつ!」


 ダンジョンの中には監視カメラも無い。


 モンスターとの戦い。

 ダンジョンの環境。

 トラップ。

 

 不測の事態になる要因はいくらでもある。

 だから――ダンジョン内の犯罪はいくらでも隠蔽できるかと言えばそうでもない。

 

「予約してないダンジョンに入った時点で即容疑者入りだぞ……」


 昨今監視カメラがカバーしきれない地帯は狭まっている。

 だからダンジョン内でトラブルが発生した場合、或いは探索者が未帰還となったら。

 即座に組合と警察がダンジョンの入場に繋がる記録を調べる。

 

 まして、俺達が潜っているダンジョンは普通に街中だ。

 監視カメラはあちこちにある。簡単に不正入場者は特定されるはずだ。

 

「寝屋、下がってろ!」


 数の上では圧倒的にこっちが有利。

 ☆1ダンジョンの階層で召喚可能なモンスターは二体。

 

 もう一体どこかに伏せているのか。

 

「蛍火、頼む!」


 奇襲を警戒しつつ、あいつらを突破するしかない。

 声掛けに応じて蛍火が炎を生成しながら前に出る。

 

 先制の炎弾――だが直撃しても応えた様子が無い。

 ☆2のモンスターであっても、多少はダメージを与えていた一撃。

 

 こうなってくると問題は。

 

「あいつのレベルは幾つだ……?」


 探索者のモンスターであるならば、階層によるレベルの制約はない。

 最悪、俺達が束になっても敵わないレベルの可能性も十分にあった。


 いや、だとしても無傷というのは考えにくい。

 だったら――。

 

「スペルによる援護か!」


 炎に対する耐性を上げる。そんなスペルを事前に使っていたのかもしれない。

 

「寝屋、さっきの属性の話……逆に減衰する組み合わせってのもあるんだろ?」

「ある。火には水とかそういうの」

「だったら水を減衰させるのは!」

「ええっと、土!」


 土、だったらこいつだ。

 

「ストーンピラー!」


 石柱を斜めに突き出して大蛇を押しつぶすように出現させる。

 もしも相手の守りが水によるものだとしたら、これで弱めることが出来るか?

 

「アイヴィー」


 そんな期待は相手からの一言で打ち砕かれた。

 伸びた蔦。それが石柱を絡めとり、潜り込み粉々にしていく。

 

 炎が利かないと見た蛍火は自分の胴よりも太い大蛇相手に格闘戦を挑もうとする。

 この対格差は不利だ。

 

「ストレングス!」

「ディスペル」


 感覚で分かる。蛍火にかけた強化が一瞬で打ち消された。

 ならば動きを!

 

「スパイダーウェブ!」

「トーチ」


 纏わりついた蜘蛛の糸が、蝋燭めいた火種で燃やされていく。

 

 スペルに対するスペルの相殺。

 その選択に迷いがない。

 

「不味い……」

 

 明らかに相手は戦い慣れている。

 モンスターとではない。同じ探索者とだ。

 

 そのノウハウは俺達には全くない。

 対人戦なんて考えたことも無かった。

 

 そもそも同じ人間を襲おうとする様な神経の持ち主と真面にやりあえるはずがない。

 

 逃げるべきだ。

 そう思っても実行には移せない。

 

 この階層の転移門は俺達が降りてきた時に使った一つだけ。

 乱入者も同じもので転移してきた。つまり、今奴らの背後に転移門はある。

 

 どの道こいつらを突破しないと俺達は逃げることもできない。

 

 結局蛍火はスペルの援護無しで大蛇との格闘戦に挑んでいくしかなかった。

 幸い――能力はそこまで大きな差が無いらしい。

 少なくとも一方的に嬲られるほどではない。

 

「がーちゃん、蛍火ちゃんを助けてあげて」


 その声と共に亀型も前へと出る。

 先行していたジャイアントビートルは蛍火に追い付いて角を使って大蛇を追い立てようとする。

 

 三対一。

 それでどうにか生まれた拮抗。

 

 だが同時にそれはこちらが強引に突破できないという事でもある。

 何よりあいつらはダンジョンマスター戦の直後。消耗は最小限であってもゼロではない。

 

 長期戦はこちらに不利……なんかこんな状況ばかりだな俺達。

 

 神威限定解放は――ダメだ。

 どう考えても相手があの長々とした詠唱を許してくれるとは思えない。

 俺の金剛身みたいなスペルを使って詠唱を止められたら危険すぎる。

 

 仮に融合の度合いを上げたとしてもギャンブルだ。

 万一俺が動けなくなった時に寝屋が見捨てて一人で逃げられるか? という事を考えると最終手段。

 

 となると残るのはスペルで隙を作り出す……だが俺にそれが出来るか?

 バックドラフトを除けば俺のリングは後三つ。いや、先ほど拾ったのを含めれば四つか。

 

 相手のリングが十本の指全てに嵌っていると考えたら、手数が足りない。

 向こうはまだ、6つのリングが残っているはずだ。

 

「どうする……」

 

 相手はスペルをこっちのスペルを打ち消すためにしか使っていない。

 

 そこで考えを変える。

 そんな都合よく、打ち消せるスペルが用意されている物か?

 

 スペルリングは事前に指に嵌めておかないといけない。

 

 だとしたら、その準備は俺達のダンジョンマスター戦を見て用意した物だろう。

 蛍火の炎と、がーちゃんの水鉄砲。

 

 火と水は、対策されているはずだ。

 

 それを逆手に取る。

 

 カウンターへのカウンター。

 だとしたら勝利の鍵は……。

 

「寝屋。一つ、頼まれてくれ」

「もちろんー何すればいい?」

「失敗したら俺達が全滅するような勝利の鍵」

「無茶苦茶プレッシャーかけてきた……」


 げんなりした表情を浮かべる寝屋。


「冗談だ」

 

 そう言いながら俺はリングの一つを渡す。


「このスペルを使ってほしい。適当に、あいつら全員を巻き込むような位置で」

「それだけでいいの?」

「ああ、それだけでいい。後は俺が何とかする」


 この属性についても、断片的にだけど見えてきた。

 そう、寝屋は最初からそう言っていた。相生だと。

 

 多分考え方のベースは五行思想だ。漫画とかで偶に見るからうっすらと覚えていた。

 今まで意識していなかったが、スペルリングにうっすらとついている色。これがその属性を示していたのだろう。

 

「よし、やれ。寝屋!」

「ほんとにいくよー? フロスト!」


 混戦状態の四体纏めて凍り付かせようと放たれた水のスペル。

 それに対するは。

 

「クエイク」


 一瞬の地響き。

 その振動が氷を罅割れさせて、一瞬の足止めも許さずに――。

 

「アイアンエッジ!」


 ダンジョンマスターから得た新たなスペル。

 

 それに対するカウンターは、無い。

 スペルを立て続けに使うのは無理だ。少なくとも俺は一度使ったら数秒は使えない。出来るという話を聞いた事は無かった。

 だから、こっちはそれを二人がかりで行ったのだ。そうすれば一人である向こうは対処きれないと踏んで。

 

 鉄の刃を生み出すスペルリングの色は薄い金色。

 

 水を減衰させるのは土。

 だが、土は同時に金を増幅させる。

 

 クエイクのおかげで、アイアンエッジの一閃はより巨大になって大蛇を襲う。

 

 そして金は水を。

 

 砕けかけたフロストの氷が持ち直す。

 いや、寧ろより強固になって四体のモンスターを固めた。

 

「寝屋、召喚解除!」

「分かった!」


 俺もそれに合わせてジャイアントビートルを召喚解除。

 そして蛍火は全身から炎を吹き出して氷を無理やり溶かして脱出する。

 

「逃げるぞ!」


 一瞬、今ならばあいつを捕まえられるかとも考えた。

 だがまだもう一体のモンスターがどこかにいるかもしれない。

 

 下手に手を出すよりも驚きで固まっている今のうちに逃げるのが先決だ。

 そう、ここで捕まえずとも機会はある。

 

 蛍火が周囲を警戒しつつ転移門までの道を確保する。

 

 二体目は……いない? 敢えて一体で襲撃をしてきたのか?

 そこに違和感を覚えつつも、足は止めない。

 

 念のため俺はもう一発スペルを唱えて置き土産にしていく。

 

「サンドストーム!」


 そして転移門へ駆け込み――。

 

「寝屋、蛍火いるな!?」

「いるー」

「はい!」


 全員脱出を確認。だったら次は。

 

「ダンジョンが消滅したら奴も出てくる! そこを捕まえてくれ!」


 ダンジョンマスターを倒したダンジョンは内部時間の一時間程度で崩壊する。

 そうなったら中の人間は問答無用で外に放り出されるのだ。


 ダンジョンの外ならば、スペルもモンスターも使えない。

 だがこちらには蛍火がいる。

 戦力的な意味では完全に逆転した。

 

 こうなってしまえばもう相手は袋のネズミだ。

 6分後には、全て決着がつく。

 

 警察に突き出して、お終いだ。

 

 そう思っていたのに……。

 6分経っても奴は出てこなかった。

 

 ただダンジョンが消滅し――そこには何も残っていなかった。

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