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15 二度目のダンジョンマスター

 最初に使ったのは、という話ならば俺が初めてマリオネットを召喚した時だろう。

 

 だけど、その時急に能力が生えてきたとは考えにくい。

 

「そういうたくろーみたいな能力持ちって何人か聞いたことあるよ。パーソナルスキル、とかって呼ばれてた」


 寝屋が思い出すように視線を上に向けながらそういう。

 シンプルにモンスターを強化したり、未来予測に近い事をしたり、透明になったりだとか。

 

「いつ使えるようになったかって話だとー誰かがインタビューでダンジョンに入った瞬間理解した、みたいなこと言ってたー」

「お前、詳しいな」

「ダンジョンに関係することだからー」


 得意げな顔で胸を張る寝屋。

 

 その話からすると、俺は入った時に理解なんてしていなかった。

 別物、なのか?

 

 或いは忘れているだけ?

 

「忘れてしまうほどもっと前に、俺はダンジョンに入った事がある?」

「それは、普通あり得ないんじゃないかなー。だってそうなると、たくろーの親がダンジョンに連れて行ったって事になるよー?」


 物心つく前の話だとそういう事になる。

 俺の親……母さんはどこかの企業で研究者だったって聞いたことがあるけど……まさかダンジョンの研究をしていたのか?

 

 いや、待て。

 そうなると、今回の件と関わりがある、とか言わないよな?

 

「……分からないな」


 これ以上は一度帰って両親の部屋を調べてみるしかないか。母さんと……顔もよく覚えていない生みの父親の事を。

 

「主様。どうしますか? このままダンジョンマスターを?」


 そうだった。あの気配から逃れるようにダンジョンに入ったけど。

 このまま先に進むのかどうか。

 

「このまま最深部まで行こう」


 逡巡は一瞬。

 気配を警戒して留まるのも一つだろう。

 

 だがいつまでも立ち止まり続けることは出来ない。

 

 外のストーカーにめどがついているなら兎も角、現状じゃさっぱり。

 

 だったら前に行こう。

 時間に追われている俺達にとって、停滞は後退に等しいんだから。

 

 8,9層は特に苦戦することも無く突破。

 ただ、やはり魔石は少なくなっている。

 一体から4グラム。

 

 一週間で100グラムは厳しいな……やはり早く☆2に行けるようにしないと。

 

「探知が正しければ……この下にいるのは一体だけ。種類は……分からない。少なくとも、ここまで戦ったことのないモンスター」

「それだけ分かれば十分だ。ありがとう寝屋」


 このダンジョンの傾向は炎系。そこに寝屋と一緒に潜った時に遭遇していないモンスターと言うだけでかなり数は絞り込める。

 

「蛍火」


 10層へと降りる前に、俺は蛍火に作戦方針を告げる。

 

「この層は、極力スペルリングは温存する。ギリギリまで援護は無いと思ってくれ」

「たくろー。それはちょっと厳しくない?」

「ユニークモンスターが出てきた時の事を考えると、選択肢は一つでも多い方が良いんだ……出来るか?」


 前半は寝屋に、後半は蛍火に語り掛ける。

 勿論、それで大ダメージを負うような事があったら本末転倒。

 

 俺も限界のラインを見極めないといけない。

 言うまでも無く、蛍火にも無理を強いることになる。

 

 そんな蛍火は小さく笑みを零した。

 

「大丈夫です主様。レベル一個上がっちゃいましたし」


 その蛍火の冗談めかした言葉に俺も笑みを浮かべる。

 

「そうだな。上がっちゃったもんは有効活用しないとな」

「私のリングはどうするー」

「……巻き込みそうだから極力使わんでくれ」


 モンスターの指示は俺が代行できているから良いとして、スペルリングの使い方は完全に個人に依存してるしな。

 はっきり言えば、寝屋が使うスペルは目を瞑ってえーいって放り投げるような物。

 使ってる本人もどこに行くかよく分かってない節あるし……。

 

「じゃあ、行こう」


 入った瞬間に広がったのは――腰の辺りまで伸びた草原の様な空間。

 起伏も少なく、天井には空が広がっている様に見える。

 

「この環境がダンジョンマスターにとって有利な領域?」


 視界は良いようであまり良くないな。

 草のせいで足元は全く見えていない。

 

 起伏が少ないように感じたけどそれはあくまで草の感じからの判断だ。

 

 どれだけ凸凹していても視界上の草が一定の高さだと全く分からない。

 

「焼き払う……いや」


 空が見えていて広く感じるが、実際にはそれほどでは無い筈だ。

 今も閉鎖空間にいるのだという事は忘れない方が良い。

 

 それに下手に燃やせば屋外であっても火に巻かれ煙に巻かれる。

 

 寧ろこれは、こっちの炎が封じられたと考えていいのかもしれない。

 

 また一つ縛りが増える。

 この階層、こっちは殆ど肉弾戦で倒すしかないぞ……?

 

「蛍火、敵の気配は?」

「付近には感じられません……いえ、来ました」


 蛍火の言葉とほぼ同時に俺もその存在に気付く。

 

「……マジか」


 草原の先で火柱が上がっていた。

 一本、二本、三本。

 

 そして当然、それに応じて草原の草も燃え広がっていく。

 

 こちらが危険だと判断した火攻めを、向こうは容赦なくやってきやがった!

 

 フロストを――。いやダメだ。

 温存とか抜きにしてもあの火勢。一時の氷結だけで防ぎきれるものじゃない。

 

「がーちゃん! 放水だ!」


 すっかり俺の指示も聞くようになった寝屋の亀型に指示を出す。

 こいつの水鉄砲……と呼ぶには勢いのある水流ならば、消火が出来る。

 

「がーちゃんはそのまま消火活動! あるくんはジャイアントビートルと一緒に前に出――お前らどこにいる!?」


 完全に草に埋もれてしまって姿が見えない。

 ジャイアントビートルは自分で召喚したから多少は分かる……のだが、あるくんの方はさっぱりだ。

 

「あるくんは寝屋の側にいろ! で、寝屋俺の側に!」

「おっけー」


 この状況だとそうするしかない。

 

 結局ダンジョンマスターに向かうのは俺のモンスター達だけか。

 

 草原に伸びていく炎の線。


 その先に敵が居るのは自明。

 

「そこっ!」


 草原を飛び越えた蛍火が鋭い飛び蹴りを先端へと叩き込む。

 手応えならぬ足ごたえが俺にも伝わって来た。

 

 吹き飛ばされたその影は――。

 

「やっぱり炎狐か!」


 これまで散々に倒してきた、モンスターその1。

 

 だけど最下層であるダンジョンマスターである以上、通常種よりも強化されているはずだ。

 

 外観としても通常の炎狐よりも一回り大きく……そして、尾が増えているように見えた。


「蛍火、見失うなよ」


 奴の身体はすっぽりと草の中に納まっている。

 一度見失えば再補足が面倒くさそうだ。

 

 だが戦いなれた相手という事で僅かだが心の余裕が出来る。

 初見のモンスターとの戦いよりははるかに気が楽。

 

 そんなことを思っていられたのも次の瞬間までだった。

 

 草原を伸びる炎の線が途絶えた。

 立ち止まった? いや、それとも。

 

 考えていたのは一瞬。

 視界を焼く雷光に咄嗟に出た指示。

 

「寝屋! あるくんを前に!」


 叫びながらも俺は寝屋を抱えて地面へと倒れこむ。

 その背中の上を、猛スピードで駆け抜けていく何かと、焦げ臭さ。

 

「速いっ!」


 蛍火の驚愕の声。

 

 そう、今のは速かった。

 まるで――雷の様に。

 

「これが今回の強化かよ」


 ダンジョンマスターとなった炎狐。

 その尾は全部で三本。

 

 炎を纏った尾。

 水を纏った尾。

 そして雷を纏った尾。

 

 使う属性を、増やしてきやがった。

 

 さて、こいつをスペルを封じたままどうやって倒す?

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― 新着の感想 ―
感覚繋げるの割と皆使えるやつだったのでは……
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