14 群れの脅威
「カラスの群れって偶然の可能性は?」
「主様の方を一斉に向いて一斉に飛び立って、とみんな同じ行動をしていたのを偶然と言っていいのなら」
「ちょっと確率ひくそー」
偶然ではない。
そうなると……誰かがカラスを使役している?
「犯人は烏匠か」
言っておいてなんだけどあるのか、そんな技術?
発想の転換が必要な気がする。それこそユニークモンスターと戦った時の様な。
「とりあえずありがとう蛍火。他にも何かあったらまた教えてくれ」
「分かりました」
と、そこで蛍火のどこか期待に満ちた視線。
小さく溜息。
「後でスイートポテト買ってやる」
「ありがとうございます!」
ちゃっかりしてるなあと思いつつも寝屋に向き直る。
「寝屋はその感知、少しでも性能上がるようにしておいてくれ。明日、最下層まで行くぞ」
「了解したー」
その日の夜の事だ。
「ねえ拓郎。送っていくだけにしては時間かかってるよね」
「まあ少し寝屋の部屋に寄ってるから」
ダンジョンに潜ってるから、とは言えないのでそういうしかない。
「……寝屋ちゃん一人暮らしじゃなかったっけ?」
「そうだな」
緋鞠の、疑念に満ちた視線。
何を疑っているのかは分かるけど、それ俺から口にしたら自白したみたいになるよね?
「ねえ拓郎。寝屋ちゃんとは本当に付き合ってないんだよね?」
「付き合ってねえよ」
ほらきた。
寝屋のところは付き合うとか付き合わないとかの対象に見たことが無い。
敢えて言うならビジネスパートナーだ。
「いやなんかさ、噂話を否定していると姉弟でも付き合ったとかの話はしないからねとか言われてそう言われるとそうかもって……」
「ミイラ取りがミイラになってんじゃねえか」
全然対処できないぞ大丈夫か、おい。
「しまいには二人のエロ妄想を聞かせられたりして段々とあれ、そっちが真実だったような。そんな気がしてきて」
「おい、マジでしっかりしろ。お前まで流されたら事実みたいになっちまうだろうが」
本当に大丈夫かよお前!
いや、身内のエロ妄想聞かされるのは同情するけど。
話を変えよう。
「そういえば今日の帰り道にカラスの群れに追いかけられてさ」
と蛍火から聞いた話をそのまま伝えると緋鞠もちょっと面白そうだと思ったのか乗って来た。
「人だったら訓練されてるなあって思うけどカラスなのね」
「変な話だよな」
幸い緋鞠はストーカーとは関係ないと思っているので気楽に話せる。
「あ、でも似たような話は聞いたかも」
「そうなのか?」
「猫ちゃんの話だったかな。何匹かが一糸乱れぬ動きで道路を渡ってたって話」
参った。何でもかんでも関係があるように感じてしまう。
流石にこの猫の話は関係ないだろ。
「でもみんな同じ動きするってあれだね。ロボットみたい」
「ロボット……?」
その言葉が引っかかる。
そうだ、ロボットだ。決められた動きを繰り返す低知能なロボット。
あのカラスの話を聞いた時に感じたのはそれだ。
何か、命令を与えられている?
「拓郎? どうしたの?」
「いや、何でもない。あのカラス全部がロボットだったらすげえなって思っただけ」
もしも命令が与えられているのだとしたら――分かるかもしれない。
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9月12日 朝
☆1ダンジョン前
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「蛍火、今日もカラスはいるのか?」
そう問いかけると、小さく鳴いた。肯定の合図。
「どれだ?」
鼻先で示された電線に止まっているカラス。
そちらに視線を向ける。
「たくろー、ダンジョンはいらないの?」
「ちょっと一つ試したいことがある」
融合能力をダンジョンの外で試そうと思った事は無い。
だがもしも使えるのならば。
今のところジャイアントビートルとの融合も上手く行っていないが……鳥類はどうだ?
妙な気配を感じるというカラスへ意識を伸ばすイメージ。
自分の意識を、相手の頭へ差し込み共有する。
「っ……」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
出来た。カラスの意識を感じる。
カラスの意識――それが俺に向いているのが分かる。寝屋ではなく、俺に。
その考えは……どこか歪。何だろう。思考があまりにシンプル過ぎる。鳥頭とかいうけど、こんな風に一つの事しか考えていない物か?
加えて妙に……人間らしい。まるで後付けされたかの様。
「どういうことだ……?」
他の考えは分からない。何も考えていないのか。それとも融合の度合いの問題か。
もう少し踏み込んでみるか?
そう考えた時、幾度となく感じた視線。
いや違うぞ。
こうして融合状態だから分かる。
視線の主はこのカラスだ。
それに視線だと思っていたこれは……誰かが俺に意識を伸ばしている?
そう、まるで俺が先ほどカラスにしていたように。
そう考えた瞬間に、気配が消える。
まるで俺に気付かれたことを察したかのように。
「寝屋、ダンジョンの中に入ろう」
「わかったー。……顔色悪くない?」
「大丈夫だ」
少なくともあの視線。ダンジョンの中では感じなかった。
ならばダンジョンの中なら安全の筈だ。
慌てこんで八層に雪崩れ込む。
「蛍火。一つ聞かせてくれ。融合する時、お前の方ではどう感じているんだ?」
「え? そうですね……主様の気配を感じてじっと見つめられたと思ったら少しずつ指先を絡めていくような……」
「蛍火ちゃん、なんか言い方えろいー」
「聞かれたから答えただけなのに!?」
ちょびっと俺もなんか言い方いやらしいなと思ったけど追い打ちをかけるのは可愛そうなので置いておく。
だがこれで一つ分かった。
「多分それだ」
「蛍火ちゃんはむっつりすけべってこと?」
「主様!?」
「すまん、そっちの話じゃない。融合直前の気配だ」
ずっと俺が感じていた視線の正体。
その話だ。
「多分だけど、俺がずっと感じてたのは融合しようとしてくる気配だった」
「主様、それは」
「試した事は無いけど……融合状態で俺が蛍火を操ろうと思ったら多分出来る。俺の意識を蛍火と完全に同一化させてしまえば」
そうすることで戦闘上のメリットが一切ない。
だからやろうとした事は無いけど、出来る。
あのカラスはそういう事じゃないか?
俺を見張る。その命令だけを植え付けられた。
「たくろーならその気になれば部長を操れるってことー?」
「後が怖いけどな。でも出来ると思う」
多分同じ人間だと頭の中ぐっちゃぐちゃになって錯乱しそうな気がする。
……その予想は、部長の様子とも一致しちゃってるな。
つまりだ。
「この一連の事件の黒幕は――俺と同じ融合能力を持っている可能性がある」
その結果が思いがけない相手をストーカーに仕立てて、拉致するという手口だ。
そして、カラスを監視カメラの様に仕立てて追い回すという物。
こうなってくるときになるのは……能力の出どころだ。
偶々同じような能力が二つあるなんて偶然はあり得るのか?
同調もあるからそういう物、と思ってスルーしてきたけど。
俺はこの融合能力を何時、どうやって手に入れたんだ?




