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13 タイムリミット

―――――――――――――――

 9月11日 夕方

  ☆1ダンジョン 第7層

―――――――――――――――


 フロアマスターが倒れ伏す。


「飛行型は、キッツいな……!」

「全然攻撃が当てられませんでした!」

「たくろーおつかれー」


 俺と蛍火の感想が全てを物語っているフロアマスターだった。

 巨大なファイヤーバード……ずっと空を飛びながら火を降らせてくるというクソ戦法を取って来た鳥を、俺は絶対に許さない。

 

 スパイダーウェブは燃やされて拘束できないし、金剛身で止めても宙にいるし。

 最終的にストーンピラーを斜めに目いっぱい伸ばしてそこを駆けあがった蛍火が地面に叩き落して倒した。

 

 ふと、蛍火が何やらワキワキと拳を握ったり開いたりしている。

 眉根を寄せてどこか訝しむ様な表情をした後、焦りを浮かべて。

 

「主様! 私のステータス見てください!」

「おう?」


 何をそんなに慌てているのかと思いながら俺は蛍火をスマホでスキャンし――。

 

「げっ!」

「やっぱりですか!?」

「二人ともどーしたのー?」

「蛍火のレベルが、上がっちまった……」


 少なくない数のモンスターを倒し続けて漸く1つしか上がらない蛍火のレベルの上がりにくさ。

 それでも魔石以外でも上がるんだという事が分かったのはありがたい。

 

 が。今上がって欲しくはなかった。


「おめでとー?」


 そう一般的にはおめでとうだ。

 モンスターのレベルが上がって困る事は無い。

 

 普通は。

 

「レベル6になっちゃいました」

「何で二人ともやらかした系の口ぶりなのー?」

「実際やらかしだからかな……」


 既に適正から外れつつある蛍火のレベルが更に上がったという事は、この☆1ダンジョンの周回による稼ぎが悪くなるという事だ。

 このままだと週100グラムのノルマも怪しい。多少ストックはあるから今日明日で枯渇する事は無いが……。

 

「もう一つ上がったら☆1じゃ殆ど魔石入手できなくなるぞ」


 これまでのペースを考えれば……九月末にはまた一つ上がりそうだ。

 

「くそ。いよいよやばいな」


 戦闘が終わった後だというのに手のひらにじっとりと汗。

 俺が足踏みしている間にまた、現実に追い付かれそうになっている。

 

「いよいよとなれば、危険を覚悟で最深部に行くしかない、か」


 そう逆転の発想だ。蛍火を強化してユニークモンスターを蹴散らせるくらいまで強く。

 

 そう考えたところで思い直す。

 多分それは厳しい。

 

 ユニークモンスターの情報が少ないのは恐らく――何をされたのか生き残った人間も分かっていないからという可能性が高い。

 事実、俺もあの蝶人の能力を把握するまでどういう物か分からなかった。

 

 言ってしまえばギミックの面倒なボスだ。

 そのギミックを知らなければそもそも戦いにもならない。

 

 ごり押しで何とかするには相当のレベルアップが必要だろう。

 

「……寝屋。データはどんな感じだ?」

「うーん。今の層は的中率60%位かなあ。どうも、モンスター以外の魔力も混ざってるっぽくてしっかりと判定できないんだー」

「60%か」

「でも、多分だけど最下層はもっと精度高いよ。だって、1体か2体か判別するだけー」


 寝屋も俺が何を言いたいのか察したらしい。

 その言葉に、俺は小さく頷いた。

 

「……よし。最下層に行こう」


 ダンジョンの予約は最低三日からだ。そして予約中は別のダンジョンを予約できない。

 ただし攻略した場合は別。要は手を付けてクリアせずに次のダンジョンに行くことが許されていない。

 

 だから、少しでも効率を上げるならばダンジョンの攻略をするしかない。

 

「一応聞いておくけど、これ以上劇的に上がる余地はあるか?」

「うーん。この不明な魔力の正体が分からないと無理かもー」


 その魔力は不安材料。気にはなるが、今は良い。


「だったら決まりだな」


 確実はあり得ない。

 どこかで賭けに出る必要があった。

 

 幸い、このダンジョンには衝突ダンジョンの気配はない。

 仮説が正しければ……ユニークモンスターは出ない筈だ。

 

 もしも出てきたら……死力を尽くすしかない。

 ここでの足踏みは緋鞠の命を失う事に繋がるのだから。

 

「ダンジョンマスターだったら俺一人でもなんとかなるから寝屋は」

「だめ。ダンジョンマスターの魔力をしっかりと計測したい」


 着いて行くという意思表示。

 正直ユニークモンスターとの戦いになったら庇う余裕があるかも分からない。

 

 だから置いていきたかったのだけどな。

 

「万一ユニークモンスターが出たら、貴重なデータが取れる。そんな機会、見過ごすつもりはないー」

「ぶれないな」

「でもそろそろバッテリーが切れるから、また明日ー」


 寝屋お手製の魔力探知装置はバッテリーの持ちが悪いのが欠点だな……。

 探知自体はスマホでも出来るけどデータの吸出しが出来ないからってこんなもん作る寝屋も寝屋だけど。

 

「ちなみにこの解析方法、今度組合に持って行って審査してもらう。上手く行ったらちょっとお金入るかもー。分け前期待していいよー」

「それはマジで助かる」


 そんなことを話しながらダンジョンを出て。

 俺は背筋を震わせる。

 

 その様子を見て寝屋が首を傾げた。

 

「また?」

「ああ。まただ」


 視線らしきもの。何度も蛍火に周囲を確認してもらっているが、俺に視線を向けていた人はいない。

 だから気のせい、の筈なんだけど妙にはっきり感じる。

 

「たくろー、私が見てても気付かない事あるからそんなに視線に敏感とは思えないー」

「俺だって今までの人生で視線を感じた事なんて一度もねえよ」


 何より気になるのは――明確にその視線らしきものは俺を捉えているという事だ。

 寝屋の方に意識が向いているのを感じたことが無い。

 

 これだと寝屋のストーカーというよりも俺のストーカーみたいだ。

 

 考えていると犬型になった蛍火がしきりに俺の脚を舐めてくる。

 そう、これは――何か伝えたいことがあるときの合図。

 

「寝屋、ちょっと部屋に寄って良いか? 蛍火が話したいことあるらしい」

「いいけどー学校の人に見つからないようにねー」

「……噂になってたからなあ」


 即ち、俺と寝屋が付き合っているとかいう根も葉もない噂である。

 緋鞠が教えてくれた。

 

 そんな中でカラスが泣き喚くような時間帯に寝屋の家に行った姿など見られたら……尾ひれどころか足が生えてきそうだ。


「そっちは緋鞠に任せよー」

「あいつ、よりインパクトのある噂で誤魔化すとか言ってたけど大丈夫かな……?」


 ストーカー相手はダメでも、学校の噂の対処ならいいでしょ! と言って、請け負ってくれたのだ。

 当人が張り切っているので任せておきたいのだが……なんか言い草が不穏だ。

 何をする気なんだ緋鞠。

 

 そうして寝屋の部屋で蛍火が人型に戻る。

 どこか困惑した様子で言うか言うまいか悩んだ姿を見せた末に。

 

「あの、主様の言っていた視線は分かりませんでした」

「そうか……」


 気のせい、で済ませるには明瞭な感覚なんだよな。

 モンスターの蛍火より人間の俺の感覚の方が鋭い可能性……あるのか? 無いだろうな。


「ダンジョンから出た時に私たちを追いかけて来る気配を感じました」

「ここで来たか」


 やはり寝屋を諦めてなかった。そう思った俺だったがそれだったら事前に決めていたストーカー発見の合図で鳴いたはずだ。

 だとしたら、違う。

 

「追いかけていたのは……カラスです。それも一羽や二羽ではなく、数十羽の」

「カラス?」


 視線の事と言い、追いかけてきた相手が人間から動物に変わったことと良い……なんだか妙な方向に話が進んできたぞ。

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なんだカラスか。
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