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12 視線

 ダンジョンが最初に出現してから三十年近くが経過している。

 

 突然現れた、異世界への扉とも言える存在。

 

「俺達からすると生まれた時からあるから特別感無いんだけどな」

「それなー」


 親世代あたりになると、神秘性や神性を感じる人間が一定数いる。

 そうした人たちの中で更にダンジョンそのものを信仰する、或いはダンジョンが神の証だと考えた人たちが集まって出来たのが神聖唯一ダンジョン教会などの新興宗教。

 

「なんか誂えたみたいにこいつらが犯人に見えるな」

「ちょっと出来過ぎかもー」


 そして、ダンジョン系新興宗教には前科がある。

 三年前。日本で起きた世界初のダンジョンテロ。

 

 人為的にダンジョンの氾濫を起こし、死者1000人を超える大惨事を引き起こした。

 

 俺たちの両親を奪って、緋鞠が魔力欠乏症になるきっかけとなった物だ。

 

「ふー」


 大きく息を吐いて、動揺を身体の外に出す。

 そのテロを実行した新興宗教は上層部は氾濫に巻き込まれて死亡し、団体その物も解散させられた。

 

 だから、直接の関係はない。

 筈だ。

 

「……とりあえず寝屋は暫く一人で行動するな。ベストは蛍火が常に張り付いている事だけど」

「あのコスプレみたいな恰好で?」

「褒めていないのは分かりますよ!」


 犬形態でも良いんだけど、それだと抑止力にはならない。

 関係のない誰かと一緒にいる。

 それだけで簡単に誘拐という選択肢は取れなくなるはずだ。

 

「問題は洗脳された場合だな」

「寝屋様が自分から出て行ったらどうしようもないです」

「それは考えにくいな」


 それが出来るなら部長じゃなくて最初から寝屋を洗脳してしまえばいい。

 つまり寝屋には出来ない理由がある。

 

「蛍火ちゃんが洗脳されたらどうするー?」

「……正直止めようがないな」


 モンスターには効果が無い事を期待するしかないか?

 

「それなんですが、主様が融合していれば防げるんじゃないかって気がします。何となくですが……」

「何となくかよ」


 だが少なくとも融合していれば蛍火の異常には直ぐに気付ける。

 そして逆に俺の異常も蛍火が気付くだろう。

 

 そうやって寝屋をガードするしかない。

 

「というかたくろー。危ないよー?」

「んな事は分かってる」


 組織的な誘拐事件。

 高校生が対処するような話じゃない。

 

 勿論警察にも情報提供はするけど……果たしてちゃんと動いてくれるかどうか。

 

「無理しなくてもいいよー」


 そういうセリフは、もうちょっと顔色良くしてから言ってくれ。

 駅で会ってからずっと、顔色悪いんだよ。


「友人がやばい事になってるんだ。それにお前にはユニークモンスターの探知機作ってもらわないと困るんだよ」

「あーそれは約束果たさないとだー」


 俺の露悪めいた言葉に寝屋は力の抜けた笑みを浮かべた。

 

 感情的にも、理屈的にも寝屋を見捨てる選択肢はない。

 

 ただ一つ、問題があるとしたら。

 

「また緋鞠を放置することになるんだよな……」


―――――――――――――――

 9月5日 夕方

  自宅

―――――――――――――――


「拓郎おかえ、り……?」


 帰って来た俺を迎えた緋鞠がその背後の人影……寝屋を見つけて言葉が中途半端に途切れた。

 

「ただいま」

「お邪魔します。これお土産」

「あ、どうもご丁寧に。いらっしゃい。じゃなくて!」


 差し出されたコンビニスイーツを嬉しそうに受け取ってから緋鞠が俺の耳を掴んで引き寄せた。

 痛いんだが?

 

「何で寝屋ちゃんと一緒なの!」

「ちょっと話が合って」

「義弟はやらん!」


 どういう思考回路になったのか。

 緋鞠自身何を言っているのか理解していないような顔でそんなことを口走り始めた。


「緋鞠、落ち着け。何を言ってるんだお前」

「彼女連れて来て結婚の挨拶かと思って……」

「万一そうだったとしても段階すっ飛ばしすぎだろ」


 あと寝屋が彼女ってお前の眼はどうなってるんだ?


「もうちょっと真面目な話だ」


 そう言って漸くリビングに三人座る。

 犬になった蛍火が自分のベッドに戻って丸まった。だけど視線はこちらに向いたまま。

 

 流石に、このストーカーの件は緋鞠に隠し続けるのは難しい。

 というか寝屋を送り迎えするならば絶対にバレる。

 

 だったら先に言えることは言ってしまえという事だ。

 

 この勢いで探索者の事も言ってしまえ。そう思いつつも……そこまでは言えなかった。

 誕生日、誕生日には絶対言う。今言うと、寝屋の話から外れそうだし。

 

 へたれた、という様な蛍火の半目からは目を逸らす。

 

「なるほど。寝屋ちゃんがまたストーカーに……」

「私、実は研究小町」

「そういうのは後にして」


 話が進まなくなるから寝屋は変にボケないで欲しい。

 

「私も手伝う」

「言うと思った」

「人数は多い方が良いよ」


 一般的なストーカーならそうかもしれない。

 だけど今回はもっとやばそうな事が裏で動いている気配がある。

 

 本音を言えば緋鞠に関わって欲しくない。

 

「もしもストーカーが実力行使してきたら緋鞠じゃ寧ろ足手まといになる。だからダメだ」

「む……」


 至極真っ当な意見に緋鞠は反論できずに唸る。

 

「それ言ったら拓郎だって危ないじゃん」

「……ごめん、緋鞠。お義兄さん巻き込んで」

「義弟!」

「義兄だ」

「そこは二人で話し合ってー。あんまり迷惑はかけたくないんだけど、他に頼れる人もいなくて」


 俺の言葉だけならば多分緋鞠はもう少し意地を張っただろうけど寝屋からも言われてしまうと感情的に反論もしにくいのだろう。

 しばし唸った後。

 

「……分かったよ」


 唇を尖らせながらそう言った。

 

「でも拓郎。危ない事に自分から突っ込んでいったらダメだよ! そういうのは警察に任せて。後、必ずこまめに連絡入れる事。約束だからね」

「ああ。分かってる。俺からはいかない」


 本当に、俺から行くつもりはないんだ。

 ……高確率で向こうから突っ込んでくるというだけで。

 

 結果的に嘘になってしまうであろうことが心苦しい。

 

 だけどやっぱり無理だ。

 緋鞠を危険に晒す。それを受け入れるのは、無理だ。

 

 その後寝屋も交えて夕食を作って、彼女を家に送っていく。

 散歩と称して蛍火も一緒だ。

 

「悪いな、緋鞠に説明するためにわざわざ来てもらって」

「元々は私の問題。寧ろこっちの方が助かってるから気にしないで」


 そこで寝屋は俺の方をちらりと見てきた。

 

「ところで明日からのダンジョンはどうする?」

「……行くにしても☆1ダンジョンだな。フロアマスターからの召喚石を集めて、陣営を強化したい」

「それはアリだねー」

「並行してデータ集めして……階層単位でのモンスター構成を調べられるようになったらダンジョンマスターも狙えるな」


 旨い具合に衝突ダンジョンが出て来てくれたらいいんだけどな……。

 

「じゃあ明日からは☆1周回だー」

「そういうとソシャゲみたい……」


 視線を、感じた。

 

「っ!」


 慌てて振り向き周囲を探る。

 

「たくろー?」

「蛍火。今周りに何かいたか?」


 くーんと否定の鳴き声。

 

「気のせい……いや」


 この感覚は部長が捕まった時にもあった。

 あの時も蛍火は何も見つけられなかったが……。

 

 誰かが自分を見ている。その薄気味悪さに背筋が震えた。

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人でもモンスターでもない、そんなんオカルトかSF……あ い つ か !
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