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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
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25/31

○【25・ボロマントの少女】○



「妖術には……癒しの術もある」


 歯切れ悪く、言いにくそうにウィリさんは言った。


「骨にしても肉にしても、折れたり切れたりして即癒せば簡単にくっつくのだ。いや、規模にもよるか。要は肉体が傷を負ったことを認識する前になかったことにする術だ。負傷が広範囲だったり時間が経っていたりすると癒すのが難しくなっていく」


 そんなことを困り顔で説明するウィリさん。

 人間をうっかりぽっきりやってしまったことを叱られて、うなだれるミーニャさん。

 ウィリさん曰く


「ミーニャは魔獣の森育ちで人間の扱いをよく知らなくてな」


 とのこと。

 そうか。思ったより脆かったと。

 そして、うっかり即完治の力まで使ってしまったと。

 伝説の聖女のように。


 ウィリさんの困ったような視線は寝かされているボロマント少女ではなく、そばで様子を見てくれているデラに向いている。

 癒しの力があるなら自分にも、なんて。今のデラなら言いませんよ。実際に言ってないし。


 デラがにっこり笑う。


「この人が無事なら、よかったです」


 ほらな。

 それを聞いて、ウィリさんもミーニャさんもほっとしたようだ。


 話を変えよう。

 こんな話、それこそうっかりで謎のボロマント少女に聞かせられない。


「それでウィリさん、こいつどうしましょう」


 ウィリさんも気を取り直し、視線をこっちに向けた。


「ああ、そうだな。つけてきた理由を聞きたかったのだが……」

「ウィリ、ごめんなさい」


 しゅんとなっているミーニャさんの頭をぽんぽんと叩くウィリさん。ミーニャさんもやりすぎたとは思っているみたいだ。それはまあ、よかった。


「起こすしかないか」

「そうですね、鼻先にさっきの飯でもを持ってきたら──」


 と、皿にひとつだけ残っている腸詰のパン包みに目をやった時。

 ミーニャさんがピッと緊張したような顔になり、森の向こうを見た。


「なんか、来る……」


 なんか!?

 ウィリさんをはじめみんながビクッとする。


 目を閉じて、いつものように「にゃん、にゃん、にゃー……」と唱えながら感知した『なんか』を探るミーニャさん。


「馬、二匹。人、二人……来た道、来てる」


 その言葉に、ウィリさんはあわててボロマントの少女の荷物やポケットを探り出した。剣は最初に取り上げていたけど、女の子だしと腰に下げてた小袋とか服の中までは調べなかった。

 小さなに袋は財布のようでわずかなお金しか入ってなかったし、特に怪しいものはない。けど、ポケットの中には黄色っぽいガラス玉のような小石がいくつかあった。

 その小石は焚き火の火を反射して光っている。


 それを見つけた途端、ウィリさんは蒼白になりふらりとした。


「ウィリ!?」

「ウィリさん!?」


 倒れそうになったウィリさんを、ミーニャさんが支える。俺はウィリさんの手から転げ落ちたそれを見た。

 それは黄色っぽいガラス玉のような小石。


「ウィリ、あれ、なにか悪いもの?」

「……いや、石そのものは、ただの光る石だ」


 光る石?

  

 首を傾げる俺を見て、ウィリさんは力なく苦笑い。


印石(しるしいし)だ。斥候など、先行する者が後に続く者が迷わず追ってこれるように残すもので、これを使うのは国か領の騎士団に属する者のみとされている」


 騎士団……

 騎士団!?


「え? ってことは、このボロマントは実は騎士ってことですか!?」


 嘘だろ。

 これ、騎士?


 眉を寄せ、への字口で寝ているボロマントの少女を見て妙な気分になる。デラもロームもそんな顔でボロマントを見ている。

 ウィリさんも大きく息をついて、ため息まじりに言葉を続ける。


「なぜ騎士が俺を追って来た? ベールンス、いやモレッド?……まさか王護の騎士団──……」


 ここはラクナル領だから、ラクナル騎士団の騎士かと思ったけど違うのか?

 いや、そもそも騎士というのも疑わしい。


「もしかしたら盗賊かもしれませんよ」

「……は?」


 真っ青になっていたウィリさんが、俺の言葉に変な声で眉を寄せた。


「盗賊が、なぜ騎士にしか許されない物を持っている?」

「え? そりゃ、騎士を襲って手に入れたり横流し品を買い取ったり」


 よくあることだし、と思って言ったらウィリさんは絶句した。


「支給品や備品を売っ払う奴は騎士でも役人でもいくらでもいるし、それを利用する悪人だってそれなりにいますからね。商売をしていたらよく聞きますよ、そんな話」


 俺の話を聞いてウィリさんの顔色が戻ったけど、疲労感は増したように見える。ぐったりとしてため息をつかれた。

 でも、すぐに困ったような笑みを浮かべる。


「騎士団より盗賊の方がマシだが、襲われて困るのは同じか」


 同じか?

 ウィリさんは騎士の方が嫌なのか。


「ミーニャ、すぐに結界を。追跡者にこの場を悟られないようにしてくれ」

「わかった! ローム、来て」

「は、はいっ」


 ボロマント少女が接触してくるのを待っていたので、今日はまだ結界を張っていなかった。

 ミーニャさんがロームを連れて馬車に向かって走る。馬車の中に結界用の護符の木の板があるので取りに行くんだ。ロームは手伝いと見学のために連れて行くんだろう。ミーニャさんの教育は、基本的に『見て習え』だ。


「ベイル、結界を貼り終えたらその娘を起こしてくれ。正体とつけて来た理由を聞く」

「わかりました」


 ウィリさん、調子を取り戻したみたいだ。


 とりあえず、騎士団は盗賊よりも要注意と覚えておく。



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