◉【26・ボロマントの少女】◉
美味しそうな匂いがする。
お屋敷を出て以来、嗅いだことがない匂い。
夢かしら。夢よね。
「起きてください」
女の子の声がする。
姉さんではない。姉さんの声にしては幼すぎるし、それに姉さんは……
「あの、片付かないので、起きて食べてください」
ふわぁ、いい匂いが鼻先に──
「はっ!?」
「きゃっ」
目が覚めた。
飛び起きて腰に手をやったけど剣がない。
「あ、あれ? あれ?」
状況がわからず辺りを見渡せば、女の子が一人座り込んでいて男の子が支えていた。
「デラ、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。危なくパンを落とすところでしたが」
パン!?
よく見たら女の子の手にはお皿があって、その上には芳しい腸詰と野菜の乗ったパンが……
「あんたも、まあ、落ち着いて座れ。ぶっ倒れるほど腹減ってたんだろ? 飯は食わせてやるからさ」
パンのお皿を見ていたら、男の子が呆れたようにそう言った。
あれ?
私、倒れたの?
お腹が空きすぎて?
意識した途端「くうぅぅぅ」とお腹がなって、へたり込むようにお腹を抑えたわ。これは倒れても仕方ない、かな?
「食べられますか? スープもありますよ」
小さく「ふふっ」と笑った女の子。
座ってよく見たら、顔半分に包帯が巻いてあってギョッとしたわ。白い被り物でさっきはわからなかったけど、これはひどい。
「あ、あなたそれ、痛くない? お医者様に見てもらった? お薬ある?」
つい、あわてて聞いてしまったけど、女の子は少しおどろいたあとにっこり笑ったわ。
「ありがとう、大丈夫です。手当てしてもらったのでもう痛くないです」
「そう……よかった」
ホッとしたところで、あたらめて差し出されたお皿を手に取った。
ほわぁぁ いい匂い。かぷっ
「ん~っ おいしい! こんなおいしいもの久しぶりっ はむっ はむっ」
食べ出したら止まらなかった。
弟が見たら「はしたない」と叱られるだろうけど、今はいないから気にしない。
最後の一口を食べたら、女の子がスープのカップを渡してくれた。スープもおいしい。
「ふはぁ………………はっ!」
お腹が満たされて、何をしにここへ来たのか思い出した。
辺りを見渡すと数歩先の焚き火の前に目的の人物が座っていることに気がついたわ。
火の明かりに照らされ赤い髪がより赤く見える。その瞳は金色。座っているのは古ぼけた木の箱なのにそこにいるだけで威厳を感じるたたずまい。隣に座る白い服の少女も、なんだか高貴な雰囲気を醸し出している。子供だけど従者を横に立たせているし、パンをくれた女の子ももう一人の年嵩の少年もみんなして似たような服を着ているから、きっと従者なんだろう。
赤い髪に金と瞳。
年齢は聞いていたより若く見えるけど、たぶん間違いない。
探していたあのお方だ。
私はドキドキしつつ、片膝をついて胸のところで両手を合わせて目を伏せ一礼。そしてえ顔を上げて名乗る。
「失礼しました。私は南方小位領地ケイリス領領主の次女レレイナ・ケイリスです」
名乗った途端、皆さん揃って驚いた顔をされたわ。
そして、赤い髪のあのお方が眉を寄せ、睨むように私を見据えた。
「ケイリス領は南方小位領地帯の真ん中あたりにある小位領地だな。その令嬢がなぜ、そのような格好でこんなところにいる? どのような訳あって俺をつけて来た」
うわあ、声も威厳ある。
私も背筋をピンと伸ばし、答える。
「はい。私は貴方様の噂を聞き、どうしても話を聞いてほしくてここまで来たんです。あの町で出会えたのはまさに巡り合わせ」
そう、髪を切って変装して色々我慢してここまで来たの。
「悪党に拐われた姉を救うために、そのお力をお貸しください。王位継承権第二位の傍系王族、ベルトア・オーゼン・クランス様」
私の言葉に、赤い髪の若様は目を見開いて驚いたわ。
けれど、すぐに元の真剣な顔になった。
そして、言う。
「違う」
へ?
「人違いだ。俺はそいつではない」
思わず息が止まったわ。
そして、頭の中がぐるぐるして……絶叫
「そ、そんなぁーーーーっ!」
どうしよう。
兄さん姉さんごめんなさい。




