○【24・素敵な景色と美味しい食事】○
「ベイルはすごいな。よくこんな場所を知っているものだ」
そう言って、ウィリさんが感嘆の息をついた。
「親父が秘境探しが趣味だったんです。どうせ旅をするなら国中の絶景を見つけたいって。行商人でしたが冒険も大好きでしたね」
「なるほど。前に行った湖もそれか」
「はい」
お菓子屋に寄ったあの町から、西へ少し行った山間。そこに大昔に山崩れで剥き出しになった岩がある。その岩は大きな物で大人五人分ほどあり、絶妙な重なり方をしていて真ん中が窓のようになっていた。そこには山から湧き出た水が伝い流れカーテンのようになっていて、その向こうに夕陽がうまく重なればえも言われぬ絶景になる。
「確かに、ちょうどいい時に来れたわけだ」
「お水のむこうの夕日、きれい」
みんなその光景に感動しつつ声を上げる。
間に合ってよかった。
「しかし、なぜこんなところで道が途切れているのだ? 観光のためか、ここも狩りや木材切り出しの道なのか?」
「いえ。昔はこの先にある村に行くための道だったそうですが、この岩崩れのために今は誰も使わなくなったそうです」
「村に行く道? 大事な道だろう。無くなって村は孤立していないか?」
そんな心配されるとは思わなかった。
「この山を迂回する道がもうひとつあったので孤立してませんよ。岩崩れは何十年も前のことですし」
「そうか」
ホッとしたウィリさんは、改めて絶景の岩を見る。
「こんなに美しい夕景色は初めてだ」
喜んでくれているみたいでよかった。
「谷でもこんな景色はなかったです。とてもきれい」
「ぼくも、初めて見た」
デラとロームも興奮気味。
「ウィリ、ウィリ、あの上に登ってみたい!」
「ダメだ。崩れたら危ないだろう。それにもったいない」
「うーん。うん、そうかも」
もっと興奮気味のミーニャさん。止めてくれてありがとうございます、ウィリさん。
みんなに喜んでもらえてよかったよ。
しばらくその景色を見た後、もう少し馬車を進めて広い場所に出た。昔、両親とここへ来た時に野宿した場所だ。懐かしい。
「水はさっきの岩場で汲めたし、夕飯の準備でもしながらあの娘が接触してくるのを待つか。ついて来てるか?」
「うん、ロバで来てる。今、岩のところで止まってる」
と、ウィリさんとミーニャさんが話してる。
夕日はほぼ沈んてしまっているけど、まだまだ絶景だろう。
それにしても、本当によくわかるもんだな、ミーニャさん。
とりあえず、俺たちはそれぞれ夕飯の準備と野宿の準備をすることにした。
「デラ、ローム、今日は食材が多いから森に採りに行く必要はない。ミーニャと一緒に手近なところで薪だけ集めてくれ」
「はーい」
「わかりました」
「はい、薪拾いします」
ミーニャさんも狩りは無し。
三人が薪集めをしている間に俺は馬の世話だ。水をやって草を食べさせブラシをかける。今日も一日ありがとう。
「火ーっ にゃんにゃんちゃんにゃーん」
集めた薪にミーニャさんがいつもの呪文とともに白い火をつける。すぐに枯れ木に普通の赤い火がついたが、白い火の勢いも強い。
そして広がる香ばしい腸詰肉の匂い。
火の台に置いた鉄板の上からじゅうじゅうといい音も響きだす。
「ミーニャ、鬼火はもういい。少し強すぎだ。焦げる」
「お腹すいた。早く食べたい」
「こっちはいいからパンと野菜を切ってくれ」
「はーい」
ミーニャさんはナイフでささっと野菜を切って、ウィリさんが腸詰を焼いている鉄板に乗せていく。
野菜の焼ける匂いもいい匂い。
そうしてしばらく。
「できたぞ、集まれ」
その声にみんな待ってましたとウィリさんのいる焚き火のそばにやって来た。デラがお皿の用意を手伝いミーニャさんの切ったパンを乗せてウィリさんに渡せば、ウィリさんが焼いた腸詰肉と野菜を乗せてくれる。ものすごくいい匂い。
ロームがスープをカップに入れて渡してくれるのでそれも受け取って、輪になるように並んで座る。うーん、スープもうまそう。
ひと通り行き渡ったところで、木々の向こうから「クウゥ」と音がした。
みんなで音の方を見たら、木の影から覗いていた影が引っ込んだ。
野菜炒めの匂いが漂い始めて少しした頃から、そこにいるのは知ってた。
だから、ウィリさんはもう一食分食事を用意している。
ただの物乞いなら食べさせて終わり。
用があるなら、食べ物に気を許して何気なく話を聞くつもりだ。
人買いや人攫いをする賊の仲間だったら、どうするのかな。それはウィリさんの判断次第か。
「おいでー、ご飯あるよー」
ミーニャさんも声をかけたけど出て来ない。
声をかけたことでこっちがそっちに気がついたことはわかっただろうに。
「とりあえず食べませんか? 一人でついて来ているのはわかってますし、襲ってくる様子もないみたいです。出てくるのを待って、飯が冷めてしまったらもったいないですよ」
「そうですお姉様。用があるなら来られるでしょう」
デラも言うようになってきたな。同意するが。
「ウィリ」
ミーニャさんも賛成のようで、ウィリさんは苦笑いだ。
「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
ウィリさんに合わせて、みんなでいつもの挨拶。
いっせいにかぶりつく。
「おいしーっ」
「おいしいですっ」
「はふ、はふっ」
ロームは口いっぱいになりすぎて声になってないけどうまいのだろう。
もちろん俺もうますぎて顔がほころぶ。
この飯が食えるなら、宿を取れなくてもいいんじゃないかな。
「ぐううううう……」
二口目を噛み締めていたとき、木々の向こうからそんな音がした。
まったく、今はかまってやれないな。食いたきゃ出てこい。
と、思いつつ三口目をもぐもぐ。
「きゅぅぅう……」
音の方を横目で見れば、木の影からがっつり顔を出してこっちを見てた。
もうバレバレなのもわかっているだろうに、また引っ込んだ。
「ウィリ、めんどくさい。もう獲ってきていい?」
「ちゃんとごちそうさましてからな」
俺たちは顔を見合わせ肩を竦めた。
表現はアレだが、要はあの子に声をかけに行くってことだろう。逃げたら捕まえるくらいはするだろうけど、ちょっと強引に連れて来ることになってもここなら大丈夫。人目につかないようこんな山奥まで来たんだから。
ミーニャさんは三個目の腸詰挟みパンをたいらげ、お茶を飲んでひと息つく。
「ごちそうさまっ」
そうして手を合わせた。
「よーし」
声を上げながら立ち上がるミーニャさん。背伸びのしぐさから軽く屈んだと思ったら……消えた。
えっ!? 消えた!?
一瞬あせったが、ウィリさんを見ればその視線は上を向いていた。それは手前の木から奥へ奥へと向かっていく。
音もなく飛び上がったミーニャさんが、頭上の木の枝伝いにあの娘の背後に回った、とか?
「ぎゃっ!?」
鳥の断末魔のような声が聞こえたと思ったら、森の奥から何かを引きづりながらミーニャさんが戻ってきた。
「獲ったー」
見覚えのあるボロマントに黄色っぽいの髪の女の子は、首根っこを掴まれて持って来られていた。白目を向いて泡を拭いている。
「し、死んでませんか? それ……」
「死んでないよー。ちょっとだけ力入れてキュッてしちゃったけど、ボキってなったのすぐに治した」
獲ってくるって、本気で獲物感覚だった!?
俺もデラたちもあわててボロマントの女の子に駆け寄り、とりあえず焚き火のそばまで運んできて寝かせ、安静にさせた。




