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ダンジョン刑350年!  作者: 内河弘児


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18/19

第十六話 動き回る松ぼっくりを打ち抜くのは、ウィルアムテルでもむずかしい

「敵だ!」

「音声解析! ここまで戦ってきた魔物の鳴き声と一致しない!」

「新手か! 減刑チャンスだぞ! しっかりデータ取れよ!」


 谷中はもう一度木刀を振り、手応えがないのを確認して壁の隙間から飛び出した。


 谷中が隙間から飛び出したソコは、広い空間だった。

 ここまでの通路と同じように床も壁も天井も石でできているのだが、とにかく広い。所々に円柱の柱が立っており、天井は高い。


「四層からの階段の段数的に、こんなに天井が高いはずないのに!」


 マップデータを確認しているらしい中野が、焦りの混じる声で叫ぶ。

 谷中は天井の高さなどには目もくれず、先ほど自分がぶん殴った敵がどこに居るのかを探して視線をせわしく動かした。


「いた!」


 それは、今まで五階層の通路で見てきたどの爬虫類型の魔物よりも大きい姿をしていた。

 ヌメヌメとした鱗に覆われた体は谷中が腕を回しても届きそうにないほど太く、そして視界に収まらない程に長かった。

 見た目は蛇にも似ていたが、その背中にはコウモリの様な羽が生えており、よく見るとあごの下辺りには小さな腕が生えていた。


「うわっ、でかっ。キモっ」


 谷中はうぇーっと嘔吐するような顔を作りながら、敵の姿についての感想を吐き捨てた。

 

「ここまでに接敵した記録がない! 刑務所のデータベースに照合するから全体像見せて!」

「おう」


 イヤーカフから、カチャカチャと忙しなくキーボードを叩く音が聞こえてくる。

 谷中は魔物から距離をとるように駆け、回り込むように魔物を中心に円を描くように走って行く。顔はまっすぐ魔物に向けているため、時々つまずきつつも転ばずに背後まで回り込んだ。


「見えたか」


 柱の陰にかくれ、魔物から姿を隠しながら谷中が耳をコツコツと叩く。


「バッチリバッチリ。世界まる見え! 画像照会によると、アレは五層のフロアボスだよ!」

「はぁ!? じゃあ、ここはボス部屋ってことかよ」

「裏口入学しちゃったね!」


 引き続き、谷中の耳元ではカチャカチャとキーボードを叩く音が聞こえてくる。かすかに、金属のぶつかり合うような音も聞こえているが、谷中はそれどころではなかった。


「初撃ボーナスねぇんだろ!? そのデータベースとやらに弱点だの倒し方だのは載ってねぇのかよ」

「あるよ~」

「あるのかよ! 早くいえよ!」

「シー! シー!」


 思わず声が大きくなる谷中に対し、中野がイヤホン越し慌てた声をだした。


「やなかっち! 前へ大きくじゃーんぷ!」


 中野の声と同時に、谷中が大きく前へと飛び出す。同時にドゴンっと大きな音が背後から聞こえた。

 谷中が着地と同時に振り返れば、フロアボスの巨大なしっぽが先ほどまで谷中の立っていた床を凹ませていた。


「あっぶねぇ」

「アイツは視力が弱くて聴力が良いンゴ!」

「つまり!」

「柱の陰に隠れるよりも、大声を出さない! 駆けない! しゃべらない! の、お・か・し!」

「避難訓練みたいに言うな!」


 中野の説明に、つい大声でツッコミを入れてしまった谷中。

 その声に反応したフロアボスがぎろりと谷中をにらみ、大きくしっぽを振ってきた。

 咄嗟に横に飛んでしっぽの攻撃を避け、前転の要領で回転して受け身をとり、体勢を整える。


「弱点はねぇのか!? 弱点は!」


 谷中が、両手のひらで口元を隠すようにしながら小声で話す。耳の裏の骨伝導マイクは振動を拾ってしっかりと中野へと声を伝えていた。


「弱点はねぇ、しっぽとおてて! しっぽは先っちょにまつぼっくりみたいなカサカサがついててそこを潰すと目潰しと同じ効果があるみたい。おてては、手のひらに柔らかいところがあるんだって。たぶん、触感センサ代わりじゃないか? って書いてある」

「しっぽと手だな!」


 中野が長々と説明している間も、谷中は魔物の周りを一定の距離をあけた状態でぐるぐると回り続けていた。時々振り下ろされるしっぽをサイドステップなどで躱しながら、魔物のしっぽの先と首の下に生えている手に集中した。

 谷中が腕を回しても届かないほどの太い胴体を持つ魔物だが、よく見ればしっぽの方は大部細い。中野に言われて先の方のカサカサ部分を確認しようと、谷中の視線が胴体の上をしっぽに向かって動いてく。


「ちっさ! しっぽの先なんて俺の手首ぐらいしかねぇじゃねぇか!」

「え、遠近法で小さく見えてるだけかもしれないですしおすし!(震え声)」

「ふるえごえ、まで口に出してんじゃネェぞ。 腕もちっさ! 胴体デカイくせに俺と同じぐらいの大きさしかねぇ」


しっぽの先から視線を頭にもどし、もう一度フロアボスの手を確認した谷中は、その小ささに顔をしかめた。


「とりあえず、一度距離をおこ? その辺に落ちてる石ころひろってポーンしてちょ!」


中野の言葉に無言で頷き、谷中はフロアボスが床をたたき壊したことで出た石ころを拾うとフロアボスを挟んで反対側へと放り投げた」


カツーン。


広くて柱が多く、天井の高いボスフロアでその音はよく響いた。

魔物は石の落ちた方へと頭をむけると、のそのそと移動して行く。


「……」


谷中は、両手で口を塞ぎながら、そろりそろりと足音を立てないように魔物から距離をとり、とりあえず柱の裏側へと身を潜めた。


「ボクちんの声は、指向性イヤホンでお届けしているはずなので、ボスには聞こえない。やなかっちはお口チャックでボクちんのお話聞いてくださいんこさいんたんじぇんと」

「……」

「あ、沈黙の中に怒りの息づかいを感じるっ」

「……はぁ」

「ため息って、相手にストレスを与えたり自己肯定感を下げたりする効果があるんだよ?」

「……ため息を吐かざるを得ない俺のストレスについては?」

「うん。キリキリ行こうか! 弱点はしっぽの先と手のひらなんだけど、そこを攻撃すれば一撃必殺という訳ではないって書いてある。ダメージ量が増えるって感じなのかな」

「クリティカル確定部位ってことか」


 柱の陰からこっそりと様子をみれば、フロアボスは石が落ちたあたりでうろうろしていた。


「ここからじゃしっぽは見えねぇな」

「体大きいからねぇ。とりあえず、的がでかいからぶん殴れば当たるし、長期戦覚悟でちょっとずつ削り続けるって方法もあるよ」

「それ、向こうの攻撃に当たらないように避け続ける必要があるじゃねぇか。俺の体力だって無尽蔵じゃねぇんだぞ」

「だよねぇ。谷中っちはFPSは得意なほう?」

「えふぴーえす? ってなんだ」

「ファストパーソンシューティング。自分視点でプレイするシューティングゲームのことだよ。画面の下の方に銃を握った自分の手だけ映り込んでるみたいなテレビゲームなんだけど……」

「知らねぇな」

「うーん……」


 動く物を探すことに飽きたらしいフロアボスが、部屋の奥の方へとゆっくりと戻っていく。

 先ほど谷中が出てきた隙間のある壁の前まで移動すると、しばらくうねうねと動き回り、最終的にとぐろを巻いて頭を体の中に差し込んで止まった。


「侵入者がいないときの定位置があそこなのか」

「自動修復機能のあるダンジョンだけど、長年ボスが体重掛けていたから経年劣化的に割れちゃったとかなのかな、かなかな」


 隙間から木刀を振り抜いたときに敵に当たったのは、たまたまでは無く敵が居る位置だからこそ当たったのだとわかった。


「まずいね、奇襲を掛けるチャンスではあるけどあれじゃあしっぽもおてても見えないンゴ」

「また石ころでも投げて、気をそらすか?」

「だねー。そんで、『クロスボウで弱点狙って、落っこちてきた所を木刀で殴る』作戦で行きまっしょい」

「いつも通りだな」




 

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