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057ダンジョン

 広院に予知能力? 俺は実の妹である彼女とひそひそ話をした。


「お前、さては女神シンセと通信したな?」


 広院はニヤリと笑う。


「馬車の中で、なるべく彼女に神力(しんりき)を使わせないよう短い時間でね。兄貴がさらわれた場所と魔王の放つ波動の源が同一だと聞いたときは焦(あせ)ったけど、何とか間に合ったね。あたしに感謝してよ」


 生き残った魔王討伐隊は38名。捕縛しているゲップ国王やオヨグ、ミズカクも併(あわ)せて、だ。俺はケルと共に、魔王が勇者エイユであることを話して聞かせた。魔神ワルイのことは伏せたまま……。


 皆んな耳を傾けながら、驚愕(きょうがく)を面(おもて)に出している。語り終えると、カイザ王子が口を開いた。


「すごい話だな。エイユは英雄でも何でもない、我々に災厄をもたらす張本人だったというわけだ。……さて」


 つぶやくように言った。空の太陽を見上げてため息をつく。


「どうやらこの城こそが魔王のダンジョンそのものらしいな。とはいえ最下層がどの辺りか、外部からでは分からない。地上から侵入していく他あるまい」


 その両目が決意に輝いた。


「今度こそはソーキンごときに遅れを取らない。必ず魔王の首級(しゅきゅう)をあげてみせる。たとえ相手が元勇者であろうともな」


 広院が進言する。


「カイザ王子殿下、あたしも連れて行ってください。どこまでもついていく所存(しょぞん)です」


 それを皮切りにイナーズやシトメールなど、多くの冒険者が同様の請願(せいがん)をした。旅の長はしかしうなずかない。


「いや、ここまで来て悪いが、ダンジョンには僕とカレイド、ヒロの3人で潜(もぐ)る。それ以外の皆んなはここに残ってくれ」


 俺は指名されてビックリした。それをよそに、広院たちが抗議の声を一斉にあげる。イナーズが代表するように大声をだした。


「なぜですか。足手まといだとでも言うのですか」


「そういうことだ」


 勇者カイザは親友の肩に手を置いた。


「分かってくれ、イナーズ。さっきちらりと見た魔王は、とてもこの世のものとは思えない闘気をほとばしらせていたんだ。あれに伝説の装備がない人間が当たるのはまずい。即刻殺される」


「ヒロは当てても良いと?」


「彼女には音の力がある」


 俺の方へ視線を向けると、他のみんなもこちらへ目線を投じた。


「ソーキンに唯一打撃を与えたのは彼女だ。その技はきっとダンジョンでの戦いで役立つだろう。もちろんその身は僕とカレイドが全力で守り抜く」


 アクジョが俺を抱き寄せ、頭を抱え込む。反抗的な声で王子に叫んだ。


「駄目です! ついさっきまで誘拐されていたヒロを、また敵地に送り込むなんて……! 正気の沙汰(さた)ではありません! 私は断固反対します!」


 俺は彼女の心地よい胸元から、やや未練を残しつつ顔をはがす。周りに人が多いので、あくまで女口調で話した。


「いいんです、アクジョ様。私はまじ――魔王を倒すためにここまで来たんです。心を引き締められた勇者様が2人もいるのに、危険などありはしません」


「ヒロ……」


 勇者カレイドが俺の手首を掴んでアクジョから引きはがす。


「悪いな、お嬢ちゃんたち。空に太陽がある今だけは、魔物たちも深夜ほど強くはねえ。ダンジョン内部ではそうでもないだろうが――ともかく居残り組は警戒さえ怠(おこた)らなきゃ大丈夫なはずだ。俺たちが日没までに魔王を倒せば、魔力を失った魔物たちはすみかに引っ込んでしまうだろう。時間が惜しい。これ以上の議論は無意味だ。でしょう、カイザ王子?」


「その通りだ」


 俺は魔王のダンジョンに潜入することへ、恐怖感はもちろんあった。だが魔神ワルイを倒すという当初の目的を果たすためにも、勇者の助力となりたい。それが偽(いつわ)らざる本心だった。


「行ってきます、アクジョ様。ご達者で」


「わ、分かったわよ。勝手にどこにでも行けばいいんだわ。そうして私はまた一人ぼっちになるのよ」


 彼女の幼馴染の筋肉バカ・ウーザイがどんと胸を叩いた。


「俺と結婚しようぜ、アクジョ!」


「嫌よ」


 何回ふられてんだよ。俺たちは苦笑した。場の空気が若干(じゃっかん)なごむ。


 カイザ王子が場を引き締めた。


「では行ってくる。必ず3人で、日没までに戻ってくる。後は頼んだぞ、皆んな」


 武運を祈る声に後押しされ、俺たちは行動を開始する。俺は王子の背中に掴まり、さっきの縄で再び城内に戻った。カレイドも続く。ランタンに火をともすと、砕けた骨だらけの部屋を些細(しさい)に吟味(ぎんみ)した。


「出入り口が4つもあるな。カレイド、何か勘(かん)は働かないか?」


 勇者カレイドは肩をすくめた。


「無理言わないでください。魔王とソーキンが消えた扉が崩落した今、どれが最善の選択か選べるわけないでしょう」


 俺は女神シンセを呼び出そうと、小声で独語(どくご)した。だが魔神ワルイの本拠地ではさすがに深度が高すぎるのか、声すら聞こえてこない。ここからは自力で行くしかなさそうだ。


 そうこうしているうちに、カイザ王子が俺に下駄(げた)を預けた。


「ヒロはヒロイの親戚(しんせき)だろう? ヒロイはこの場所を特定して、ヒロが囚われていることまで的中させてみせた。そんな予知能力、ヒロにはないかな?」


 あるわけない。だがカレイドが同調した。


「そうそう。お嬢ちゃん、試しにどれを選べば魔王の居所にたどり着くか、指示してくれよ。従うからさ」


 まいったな。俺は仕方なしに適当に選んだ。


「右から二番目。多分、ですが」


 カイザ王子が先頭で、続いて俺、カレイドの順でその通路に侵入する。

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