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037再会

「な、何じゃ今のは?」


 ゲップ国王が後じさりした。俺の『音撃』で跳ね飛ばされ、壁際でぐったりする兵士を、クッタが見つめる。


「この小娘、変な術を使うぞ!」


 男だっつーの。俺はまず部屋の換気を良くするために、穴が空いているのとは反対側の壁へ対した。水差しを抱えて大声で怒鳴る。


「砕けろ!」


 再び輝く波濤(はとう)が空間を飛翔した。木の壁が爆砕(ばくさい)し、粉塵(ふんじん)と木片が飛散する。


「ひいっ、殺される!」


 冬の樹木に似合わぬ衣装を着せたような、この国の最高権力者。彼は悲鳴を上げて1人逃げ出した。


 一方クッタは軍官らしく、顔面蒼白(そうはく)になりながらも「奴を捕(とら)えろ!」と俺を指差す。衛兵たちが短い剣を振りかざして、やけ気味に飛びかかってきた。


「来るなっ! ボケっ! スカタンっ!」


 俺の音波が塊(かたまり)となって次々と彼らを打ちすえる。殺すまではしたくなかったので、壁を吹っ飛ばした時より威力を手加減した。それでも彼らはバタバタ倒れ、後続の者に恐怖を与える。


 俺は水差しの中身をカイザ王子の頭にぶっかけた。とにかく彼を起こさねば。


「う……うぅん……」


「王子殿下! 敵襲です! 目を覚ましてください!」


 耳元で怒鳴ると、彼は『敵襲』の言葉に反応したらしく、目をかっと見開いた。机に両手をついて、重そうに、大儀(たいぎ)そうに頭をもたげる。


「ヒロか? 一体何がどうなって……」


 寝ぼけている。バケツを逆さにして目穴(めあな)を開けたような勇者兜を、俺は彼の頭にかぶせた。これを脱いでいたから睡眠ガスに負けてしまったのだ。きっとこれでシャッキリしてくれるだろう。


 果たして、王子は頭を振った。椅子から立ち上がって周囲を見回す。


「クッタ殿。その兵士たちは何ですか? そちらがその覚悟なら、こちらも相応の報(むく)いをもって応えますが……」


 俺にこっそり尋ねた。


「ヒロ、この惨状は誰が?」


 チート技については、俺が魔物扱いされないためにも伏せておいた方が良い。


「さ、さあ……? 向こうが魔物でも使ったんじゃないですか?」


 さっきの俺の『音撃』で、この部屋の明かりだったロウソクは消し飛んだ。暗闇を照らすのはクッタや兵士たちが掲げるランタンのともし火だ。


 指揮官の小男は歯ぎしりした後、もう芝居はここまでとばかりに手下に命じた。


「殺せっ! 勇者カイザを殺すのだっ!」


 破れかぶれになった下僕(げぼく)たちが、白刃(はくじん)をかざして躍(おど)りかかってくる。カイザ王子は嘆(なげ)かわしげに言った。


「残念ですな、クッタ殿。お互い友好ムードはここまでのようです」


 次の瞬間、剣を抜き放って真一文字に振り抜いた。真空の刃が兵士たちを切り裂き、廊下の壁に斬撃の跡を刻み込む。血を噴水のように撒(ま)き散らして、一度に6人が両断されて床に転がった。すさまじい一撃だった。


 背の低いクッタは命びろいした。だがその顔は恐怖と戦慄(せんりつ)で引き歪み、情けなく腰を抜かして尻餅(しりもち)をついた。


「ば……化け物……」


 カイザ王子はもう常識人ぶらなかった。わめきながら逃げていく兵士たちには目もくれず、震え上がるクッタの前に歩み寄る。


「クッタ。命が惜しければ僕の質問に答えるんだ。ヒ……アクジョはどこにやった?」


 国境守備軍指揮官は目をしばたたいた後、まるで形勢が逆転したかのように薄ら笑いを浮かべた。


「我々の手中にあることは確かだ。今私を殺せば永遠に帰ってこないぞ。ひ、ひひひ……」


「それで脅(おど)したつもりか?」


 王子は禿頭(とくとう)の男の喉元に剣の切っ先を突きつけた。クッタは再度わななく。


「おっ、おい……!」


「ならばお前を人質として国王ゲップにうかがうまでだ。さあ、死にたくなかったらさっさと立て。天守閣(てんしゅかく)へ向かうぞ」


 俺は烈火のごとく怒っているカイザ王子に言い添(そ)えた。


「ゲップ国王ならさっき――王子が眠っているときに現れましたよ。立ち去りましたが」


 ランタンを拾いつつ王子が考え込む。


「顔は分かるか?」


「はい、覚えています。枯れ木のような老人で、身なりは立派でした」


「よし、行こう。さあクッタ、命を繋げたかったら案内するんだ、国王のところへ」


 小男は失神寸前のおののきの中で、かろうじて体面を繕(つくろ)っていた。よろよろと歩き出す。俺と王子は後に続いた。




 迎賓館(げいひんかん)の外に出る。はやてのような黒雲が月を隠したりさらけ出したりして、落ち着きないことこの上なかった。たいまつを持った兵士たちが槍を構えてこちらに向けている。


 カイザ王子が叫んだ。


「道を開けろ! この男の命がどうなってもいいのか!」


 対峙(たいじ)すること数十秒。明らかに位が高いと分かる、宝石の飾り物を胸や腕につけた男が、敵の先頭に現れた。30代半ば辺りで、渋みがかった顔つきだ。


「俺は首都警備隊の隊長エライングだ。どこへ行くつもりだ、小僧」


 カイザ王子は冷静だった。


「国王ゲップの元へだ。奪われし婚約者、アクジョを返してもらうために」


「その女とはこいつか?」


 エライングが後ろの部下にあごをしゃくった。現れたのは、女を肩に担いだ青年。その顔には――見たのは一瞬だったが――見覚えがあった。俺は思わず大声を上げた。


「ハンニバル!」


 広院をユニコーンに乗りながらかっさらった悪漢。後で女神シンセから名前を教えてもらった誘拐犯。ハンニバル……!


 彼はにやついた。蜘蛛(くも)のような不気味な相貌(そうぼう)だった。


「ほう、俺の名前をご存知とはな。どこで知ったかは興味ないから聞かないでやる」


 エライングが言った。


「人質交換といこうか、カイザ」

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