第40話、ありふれたイベントへの旅立ち
「魔物の氾濫?そんな事が本当に有るのですか、お父様」
ある朝、セルシニアは領主の館でラノベ臭い話を聞かされていた。
「事実だよセルシニア、だが怖からなくて良い。
少し前に隣りのホルムステル家から使い魔による急報が来たのだ。
我がフォルカス領からも救援のための兵を出す事に成るだろう。
だから またしばらくは留守番をしてもらう事に成る。すまんな」
「えっ、ホルムステルの地ですか?!」
今も客人としてフォルカス領に滞在している彼、アステリア・ホルムステルは
問題のホルムステル領主の息子である。
「そうだ。だが心配は無いぞ アステリア君。
君の父君は武人でもあるし、こんな状況を想定した対策もしているだろう」
「その遠征、私も参加します。お父様」
さも当然と名乗りをあげる幼女でお嬢様のセルシニア。
「「はぁぁ?」」
「何を言っているセルシニア。幼いお前を戦場に出す訳が無いだろう」
「いいえ、行きますわ。
私は聖女候補でありながら人々を癒す回復魔法は使えません。
なら、この力は災厄から皆を守るために使われるべきです」
「いや、いかん。
確かにセルシニアの攻撃魔法は強力だ。
しかし、迫り来る魔物の大群を目にすれば恐れて声も出せないだろう。
落ち着きを失った心でまともに魔法が使えるはずが無いのだぞ」
「そんなの何度も経験しているわ。
山賊だって怖く無かったわよ」
「なん、だと・・・」
突然のカミングアウトに父である領主は愕然とし、言葉の審議を確かめるように
アステリアの顔を伺うが彼はバツが悪そうに視線を逸らした。
それを見た領主は我が子の行動を何も知らなかった事を痛感する。
娘が知らぬ間に命に関わるような危険な場所に立ち入っていた事が露呈したのだ。
しかも山賊退治までしていたとなると殺人すら経験している事に成る。
「アステリア君、きみがセルシニアを唆したのかね?」
「お父様、アステリアにそんな度胸なんて無いわよ」
「どうせ度胸も無いヘタレだよ、悪かったな」ブツブツ
アステリアは心に100のダメージをくらった。
「使用人たちは何をしていたのだ、
・・・いや本気のセルシニアを止める事など誰にも出来ないか」
どうやら自分の幼い娘が率先して危険な魔物や山賊と戦っていたらしい。
「なぜまだ幼い娘がこんな好戦的に成ってしまったのだ。
聖女の力とはかくも過酷なものなのか」
こうなっては領主が何と言おうとセルシニアは参加するだろう。
父親の苦悩は続くのだった。
********ファルナの部屋
「いやー、こんなに早く釈放されるとは思わんかったわ」
ロロネイアは間接的とは言え皇女暗殺の実行犯であり本来なら極刑ものだった。
だが、司法取引で証言した情報が真実と実証された事で彼女の罪は不問とされた。
それほどにファルナリーア誘拐犯の情報には価値が有ったと言える。
自由と成った彼女は嬉しそうにお菓子を食べていた。
でもね、可哀そうだけど私は彼女に現実を教えないといけない。
「ロロちゃん、これから私の専属メイドに成ってもらうからね」
「!なんでやねん」
素早いツッコミが返される。
「ロロちゃんの特殊能力は危険すぎ、身元を保証する人が居ないと処されるのよ」
「処される、て何や?」
わたしは親指で自分の首を掻き切る仕草をする。
「ひぃっ、そんなアホな」
このジェスチャーはこっちの世界でも通用するようだね。
「そう悲観しなくて良いよ。
今のうちにメイドの仕事を覚えて城の中に紛れ込んじゃいなさい。
ロロちゃんが大人になる頃には裏の世界の人達にも死んだと認識されるから
その後は自由になれるよ」
「そう上手くいくやろか?」
「その点は心配ございません。
本日付で冒険者ギルドにはロロネイアの死刑が告示されております。
今後、姫様の御側以外にあなたの生きる場所は無いのですよ」
愕然とするロロネイア
「ちゃんとメイド服を作って髪型も変えないとね♡」
「あたしの自由は・・・」
まるで自分がメイドにされた場面をデジャヴしているような気がして
ロロネイアには気の毒ではあるが・・・
「ロロちゃん、今は理不尽に感じるかも知れないけど色々な世界を知った方が
生きる選択肢も増えるから世の中の見方も違って来るよ」
何事も経験なのだ。(でも悪事はダメよ)
「それではメイド服の採寸を致します。私に付いて来て下さい」
「えっ!あんたがあたしのサイズ測るん?あかん、乙女のピンチや」
「バカ言って風評被害を撒き散らさないように。
私はメスガキに興味など有りません。
ちゃんと業者の針子が待機しております」
動揺したのか、珍しくアルベルトが声を荒げている。
幼女に振り回されるとは彼もまだまだ修行が足りんね。
彼にとっては自分もメスガキなんだろうな。
安心して良いのやら、バカにされて腹が立つやら複雑な気持ちだよ。
一人に成った、あれから一人になると後ろが気にかかる。
これが兵士が戦争後にかかる精神的な病気なのかも。
今の現状を思い出してみる。
どこかの地方に小さな家を手に入れて一人で静かに暮らしていくのが
理想なんだけど・・・次々問題が出て来て思い通りに行かないのが今。
オマケに大聖女を選ぶ儀式に参加しなくてはならないらしい。
そんなラノベで使い古しのネタに何でわざわざ《《望んでもいない》》
私が出向く話に成るのか、はなはだ疑問だよ。
カッ、カッ、カッ、バターン☆
「姫様、一大事です」
わっ、ビックリした。
アルベルト、執事ともあろう者がノックも無しに姫君の部屋に飛び込むなよ
私のジト目を無視して慌てたように彼は声を出す。
「聖女神国の占星術師が次の大聖女選定の日時を確定いたしました。
それがたった7日後であるとの知らせが今 届いたとの事です」
あらら、フラグ立てちゃったかな・・・
「そんなつまらない事で騒がないでよ。
それに何で占星術師がその日を決める訳?」
私の気の抜けたセリフで落ち着きを取り戻したアルベルト
「さすが姫様、世界を揺るがす大事にも余裕でしたか。
選定の儀式は定期的では無く、日時も星の並びによって決まります。
聖女の聖眼を持つと確認された者はその時間に会場の大聖堂に集まる事が
絶対厳守として義務付けられております」
絶対厳守なのにいきなり通達されるの?ムチャクチャ理不尽なんですが・・・
「まぁ良いや、行けば良いんでしょ、行けば。
場所教えてよ、チャチャっと行って来るから」
「はぁ?まさか姫様一人で行くおつもりですか・・・ありえません」
「えーっ、護衛なんていらないし」
一人なら鳥になって飛んで行けるよ。楽じゃん
「この度はロロネイアも正眼持ちと判明しております。
ですので我が国から最低でも二人は神殿に赴く事となっております」
そうだった・・・彼女もだった。
世話している以上は自分が責任もって引率する義務が有る・・・と。
「それでですが・・・神殿までの日程的に考えますに少々不安がございます。
ですので今すぐ最低限の準備を行い、整い次第 出発する事となりました。
これは皇王様からの厳命であり、全ての予定を破棄しての最優先命令となります。
帰還したばかりですが拒否できません」
日程がギリギリの旅とかメンドクサ。
臭い都を離れるのは賛成だけど護衛とかもゾロゾロ付いて来るだろうな。
そんな訳で急遽旅立つことが決定した。
城から出ると広場にはすでに奇妙な生き物が整列している。
顔は前世のダチョウに似ているが体はラクダのような見た目の四本足。
ラクダチョウとでも名付けよかな・・・見るからに足が速そうだ。
最速の乗り物なのだろう、それが20頭ほどで護衛の騎士も待機している。
「フラスコンナ団長、道中よろしくね」
「はっ、命に代えましても姫様を御守りいたします」
今回の護衛は第三騎士団の精鋭が数名だ。
急ぎの行程を少数精鋭で走り抜ける算段らしい。
「あの・・・ファルナリーア皇女殿下であらせられますか?」
正式に名前と立場で呼ばれると違和感しか無いな。
前世で言うなら15歳くらいの年齢に見える少女に話しかけられた。
金の刺繡が施されたローヴを纏う美少女だ。
誰だろう?と怯んだ私とは違い、憑依しているコロタンが先に気が付いた。
≪ファルナよ、この者はあの神殿でアーレナとか呼ばれていたのである≫
聖女アーレナ?・・・自分を完全に回復してくれた恩人だ。
「姫殿下が口添えしてくださったおかげで私は客人待遇で迎えられました。
本日は殿下と共に選定の儀に赴く事になります。宜しくお願い致します」
恭しく一礼する姿は物語で描かれる聖女そのもの。
もう今回行くのは彼女だけで良いのではないですかね?




