第39話、渡りの魔女
ここは日陰者が集う皇都の片隅、闇ギルドの縄張りである。
「で、しばらくはバカンスを楽しむ予定で他国に旅行していた あたくしを
わざわざ呼び寄せたのは如何言うつもりだい」
「どうもこうも無い。
依頼では殺害を頼んだはずだが?
なぜ肝心の姫君が無事なのか聞かせてもらおうか」
「無事だって?・・・まさかだろ」
「貴様がバカンスを楽しむだけの高額報酬は何のために支払ったと思っている。
依頼失敗の上、契約違反だからな・・・闇ギルドの信用はガタ落ちだ」
「ありえないだろ。
あのガキはサイコパスの変態坊主に売ったんだぞ。
最低でも普通に生きていられない姿に成ったはずだ」
「そんな御託はどうでも良い、現に件の姫は無事に帰還している。
殺害予定の相手を殺さずに売り払っていたのか・・・呆れたものだ。
死にたく無ければ最低でも依頼は果たすんだな」けっ、
仕事仲介人から舌打ちされた女は闇の世界では名の知れた殺し屋。
『渡りの魔女』の二つ名で呼ばれ、恐れられる暗殺者である。
彼女が受けた依頼は「皇太子妃とその末娘の殺害」だった。
「ちっ、少しばかり予定が狂っただけじゃないか。
些細なミスでギャーギャーうるせぇ奴らだぜ。
まぁ良いさ、殺しゃ良いんだろ殺しゃよ」
魔女は手のひらに小さな虫の使い魔を呼び出し城の方向に向けて飛ばした。
******数日後
皇女ファルナリーアの一団が多くの魔物素材を手に皇都に凱旋してのけた。
「では、ここで解散としましょう。
騎士団は素材をどのように売りさばいても自由ですが、利益は公平に分けて
喧嘩はしないようにね。騒ぎを起こしたら次の遠征に参加させないからね」
「はっ、姫様の騎士団に恥じぬよう努めます」
「ん。では、解散。ゆっくり休んで」
「御意」
魔物の素材をしこたま担いで来た騎士達は疲労困憊にもかかわらず元気だった。
自分の我儘で行われた物見遊山な遠征は第一騎士団を鍛えたようだね。
街の広場に残されたのは馬上の自分。
その後ろに乗るのは手綱を握った執事アルベルト。
今も容疑者のダークエルフの幼女ロロネイア。
そして、護衛と監視に残った数名の近衛騎士だ。
「姫はんは男心をようけ分かっておまんなぁ。見事な人心掌握でっせ」
あい変らず不自然な関西弁で話しかけて来るロロネイア。
目を輝かせて素材を売りに行く騎士達を見送りながら妙な事を言っている。
「ロロちゃん・・・私が悪女みたいに聞こえるから変な事言わないでね」
「そうか?最高の誉め言葉やで」
「罪人が姫様に対してその言葉使い、この場でその両耳を切り落として上げましょうか?」
「ひいぃ、このあんちゃん ほんま怖いで」
ロロネイアの軽口に青筋を立てているのは執事のアルベルト。
気のせいか本気の脅しに聞こえるのだが・・・
「はいはい、疲れてるんだから帰るよ。近衛の魔法担当さん防御魔法お願い」
街中でうかうかしてると頭上から汚物をぶっかけられるから防御結界の魔法で守ってもらう。
と言うか・・・
都に帰ってホッとするよりも臭い匂いでゲンナリするとか、 心が休まらないよ。
「それより、あたしは冒険者ギルド行きたいねん。
結果はともかく依頼は無事に終了したさかい報酬もらわんと割が合わへん」
「それは良いですね。報告したら依頼人が口封じに刺客を送って来ますよ」
「そこな執事はん、そんなにあたしを殺したいんか!」
「当たり前です。姫様に害成す者には処刑が相応しい」
執事のアルベルトと見た目がロリなロロネイアは何故か犬猿の仲だ。
まるで縄張り争いをしている犬の喧嘩のようだよ。
「もう、二人ともいい加減にしなよ。ロロちゃんも今は我慢してね。
約束通り情報がホントだったら無罪で解放してあげるから」
一応は皇女暗殺の現行犯なのでロロネイアは釈放されない。
とは言え、司法取引で重大な情報を教えてくれた彼女は牢屋には入らず
見張り付きの部屋で軟禁する事にあいなりました。
彼女の話が本当なら近日中には結果も出るだろう・・・たぶん。
その事を危惧してアルベルトは余計にピリピリしているのだが。
無事に城へと帰り着いた私達。
帰った事をお爺ちゃんに報告してから《《多少は清潔》》な自室へと帰る。
「はぁ、引っ越し先の下見も楽じゃ無いよ」
「今後の予定ですが、
まずは資材運搬のために現地までの道を作らなくてはなりません。
その為の作業員と資材、水や食料の手配も必要になります。
それだけでも国家の威信を賭けた一大事業と同等の規模と成るでしょう」
「ただ静かで清潔な家が欲しいだけなのに大事だね・・・選択間違えたかも」
「いえ、姫様の決断は間違いこざいません。
大事業ですが成し遂げた暁には後世に語り継がれるほどの偉業となるでしょう。
この国には幸いにもそれを実現できる力と人材そして姫様の財力が揃っています」
アルベルトは楽観的だねぇ。
おそらく彼の頭の中では目的達成までの算段が目まぐるしくシミュレートされているのだろう。
ブーーン・・・ ブーーン・・・
頭の上をハエのような虫が飛び回っている。
街中は酷い臭いだし、汚物も散乱しているので当然虫も多い。
城の中も似たようなもので 普段なら虫など気にも止めないのだが・・・
ファルナリーアの聖眼は陰謀を看破する。
「アルベルト・・・飲み物をお願い」
「はい、只今お持ち致します。気が付きませんでした。申し訳ございません」
彼も疲れているのだから雑用を言うのは申し訳ないが今は一人に成りたい。
私はベッドから起き上がり部屋から出ていく彼を見送る。
一人になった
殺意が広がり空気がヒリ付くのが感じられる。
「むぐ!」
「ふっ、捕まえた・・・二度目だね」
突然後ろから手で口を塞がれた。
一人きりの自分の背後に不審者?。
「アンタがノコノコ生きて帰るから あたくしはいい笑い者だわ。
せめて苦しまずに殺してあげるから今度こそ生き返るんじゃないよ」
恐ろしい速さで喉元にナイフが滑り込んで来る。
無駄な動きの無い暗殺者の殺人技。
ガシッ☆
私の人間離れした視力と反射神経はナイフを持つ手首を受け止め、
バキバキバキバキ☆
「っ、ギィヤアアアアーッ」
バカ力で腕の骨を握りつぶし、
ズダーーン☆
「がはっ」
そのまま暗殺者を床に投げ飛ばした。
柔道などではない。
つかんだ腕を力任せに振り回して床に叩きつけただけの力技だ。
さしもの暗殺者も背中から叩きつけられ気絶している。
容赦無いって?
この世界には治癒魔法が有るから死ななければ何とかなるでしょ
「残念だったね、オバサン。
今の私には最強の護衛が憑いているのだよ」
私の中の居候は今の戦いに大喜びしている。
私はエンタメか・・・
バターン☆
「姫様、ご無事ですか」
いち早く異変に気付いた執事のアルベルトが駆け付け、
床に倒れているオバサンを見て顔色を変える。
「まさか、帰ったその日に暗殺を仕掛けて来たのですか。驚きました」
「情報を知らなかったら危なかった。ロロネイアは大殊勲だね」
「あの子供の話は本当だったのですね。ガセネタなら良いと願っていたのですが
転移魔法の使い手、渡りの魔女ですか・・・本当にそんな魔法が存在したとは」
それからは大騒ぎとなった。
駆け付けた近衛騎士によって女は拘束され魔力封じの首輪を着けられた。
皇太子妃殺害など一連の事件の犯人なのは明白であり、魔女の取り調べは過酷を極めるだろうとの事。
魔女の手口は まず使い魔の目を通して場所を確定し、ピンポイントで標的の後ろに
転移して後、声を出させずに一瞬で首を切る、というもの。
よほどの武人でなくては防御など出来るはずがない。
転移魔法はどんな場所でも警備でもすり抜けて殺せる訳だ。
城の防犯体制も例外では無く全くの無意味となってしまう。
護衛専門の騎士達だろうと成す術も無い最悪な犯罪者なのでした。
何の証拠も残さず、誰にも姿も見られず目標を殺害する事で恐れられ、
『渡りの魔女』の二つ名が付いたらしい。
魔法を犯罪に使うなど才能のムダ使いとは思うけど、
能力が権力者に知られれば彼女を利用すべく どんな手でも使うだろう。
他人の道具として使われるなら自分の好きに能力を使う道を選んだ魔女の気持ちは分からなくも無い。
ダダダダダダッ、バターン☆
「ハアハア、ファルナリーア無事か?」
久々に顔を見たのは私の父を名乗るこの国の皇太子、
確か名前は・・・アレクトレウス。
「姫様、狼藉者は何処ですかな、今度こそ消し炭にしてくれましょう」
少し遅れて宮廷魔導士のトゥルゲルトさんもやって来た。
「犯人はアルベルトが捕縛して既に牢の中です。心配無いですよ」
犯人逮捕の手柄は相談の上、アルベルトに丸投げした。
彼は皇女誘拐事件の時に私を守れなかった事で色々と言われたらしいから
その汚名を挽回させる意味が大きい。
今後も皇女の側近として動きやすいように箔を付けた訳だ。
「アルベルト、良くぞ我が妻の仇を捕まえてくれた。礼を言う」
「はっ・・・当然の事をしたまでです」
バツが悪そうにしているアルベルトには気の毒だが我慢してもらう。
「それにしても転移魔法とは驚きましたな。その術式は失われて久しいのですじゃ。
貴重な研究材料ですから死罪にするのはしばらく待ってもらえますかな」
「拷問で黒幕を吐かせるのが先だぞ」
「そのまま死ぬ可能性が高いではないですか。研究が先ですぞ」
おかしな言い争いが始まった。




