第38話、決意
一難去って迎えた朝、皆を大量の魔物の死体で驚かせた後の事。
食事を終えた騎士団の面々は欲望に目を血走らせている。
「さすがドラゴン。解体するだけで剣が死にそうだ」
「凄いよな、こんな奴の首を切り落とすなんて姫様最強だろ」
本来は不慣れな解体作業なのに彼らは文句も言わず精力的に挑んでいる。
勿論、勤労精神や忠誠心からの行動では無い。
それは文字通り現金な理由からだった。
自分と執事のアルベルトは外の喧騒と離れてテント内で打ち合わせをしている。
「姫様、魔物の素材は売って騎士団の特別手当にする、と伝えましたが宜しかったのでしょうか?」
そう、騎士団の皆が必死こいて魔物の死体と格闘しているのは
「素材を売って手に入れたお金を自分達で分けても良い」と私が言ったからだ。
彼らは貴族家出身とは言っても家督を継ぐ立場に無く、自分の食い扶持は自分で
稼がなくてはならない立場だ。
しかし、騎士はしがない公務員、給金もたかが知れている。
そんな境遇にあっても遊びたいし彼女も欲しい若者たちなのだ。
そこに臨時収入のボーナスが出ると知らされる。
しかも、自分が頑張って解体して多く運ぶほど貰える金額が増えると知れば
必死にもなる。
言わば『鼻先のにんじん』で彼等のやる気を奮い立たせたのだ。
こんな秘境の森の中に護衛として付き合わせたからね、
これ位の役得が無くてはモチベーションも上がらないだろうし、
次に遠征する時には嫌がって誰も来なくなるだろう。
先行投資だね。
「私はむしろアルベルトが反対しなかった方が不思議だったよ」
「私が姫様のご意向に反対する時は姫様に危険が及ぶ時だけです。
全てはファルナリーア皇女殿下の御心のままに」
うわ・・・、ここに独裁者を育てる家臣が居たよ。
分別の無い幼女にそんな我儘を許したら権力モンスターが生まれるだろうに。
「それに、あの程度の魔物の素材で得られる資金など姫様の個人資産からすると
0.0001 パーセントにもなりません。はした金です。
騎士達に下賜したとして何の問題もございません」
恐ろしい情報が語られた。
自分の個人資産って何だろう?
以前も『傭兵団 闇夜のカラス』を雇う時もトゥルゲルトさんに言われた気がする。だけど全く記憶に残っていない。
地竜は勿論、他に強い魔物も多い。 その素材は売れば かなりの大金に成るはず。
だけど、私はそれがはした金と言えるほどのお金持ちらしい。
「私の個人資産の意味が分かりません。
たとえ大国の皇女だとしても子供に資産と呼べるほどの大金を持たせるものなのでしょうか?」
「・・・・・・・」
しばらく黙考するアルベルト・・・そんなに難儀な質問だったのかな?
「・・・時が来た、と考えるべきなのでしょうね。
では真実をお伝えいたします」
最近 少しフレンドリーに成って来た執事のアルベルトが急に真顔になり、
改まった姿勢で話しを始めた。
「姫様は・・・母君メルリアーナ様の事は憶えておられますか?」
「いや、何一つ記憶に無いよ。ほんと薄情な子供だよね」
「そのように考える必要はございません。
むしろ記憶が無かったのは幸いでしょう」
なぜに・・・
「ファルナリーア皇女殿下名義の個人資産を作られたのは亡くなった母君です」
母親が娘に膨大な財産をくれたの?
「国家予算以上の金額は今も商業ギルドに姫様名義で預金がされています。
この事は一部の者しか知らない事です」
皇家の人間が わざわざ民間のギルドにお金を預けた?
それも大国の国家予算より上の金額とな?
「何故か、と思われるでしょう。
それはその莫大な資金が公に出来ない形で作られたからです」
あっ、これ身に覚えがある。
前世で俺が大金を手に入れた手口と同じ《《あぶないお金》》だ。
「理解されるのは難しいかも知れませんが、
母君メルリアーナ様は姫様の聖眼を利用して貴族諸侯の弱みを握り、
脅迫して彼等から多大な資金を搾取していたのです」
おいおい、皇太子妃が犯罪行為に手を染めていたのか?
本当なら 確かに大スキャンダルだし公にできない事実だよ。
「それが原因で資金難に成った貴族も多く、没落した家も複数ありました」
大事件なのにどうして放置されたの?
「この件に関して皇王陛下は何の沙汰も処罰もされませんでした。
何故なら脅迫されていたのは権力を使った犯罪を犯していた貴族や
国家に多大な不利益をもたらす陰謀を企てていた者、
あるいは皇家転覆を企む者達でしたから むしろ表彰されるべき行為だったのです」
お爺ちゃんがあの夜に笑いながら言っていたのはコレか・・・
「国を守るための汚れ仕事・・・さぞ恨みを買っただろうね」
「はい、・・・母君は姫様が誘拐された日に殺害されました。
犯人は今も捕まっておりません。
この事実を知っているのは極少数の人間だけですから
姫様も他言無きようお願いいたします」
話を聞く限り「なるほど」と思える流れだし、国を運営する上では尊い犠牲の上で作られた資産という事に成るけど、それを私が自由に使っても良いのか疑問だ。
何か大切な理由が抜け落ちているような、スッキリ受け取れない歯痒さがある。
「ちなみに、母君メルリアーナ様も聖眼をお持ちの聖女候補であられました。
どの様な特性を持たれていた方なのかは機密とされ皇王と皇太子殿下以外は
誰も知らされていません」
皇太子妃の立場なのに無理をしてまで危ない橋を渡っていた理由はそのあたりに原因が有りそうだね。
だけど今は考えるだけ無駄なんだろうな。
そのあたりは後々調べるとして、ともかく
お金は使い方次第で生きる、と誰かが言っていたし・・・
その資金を使う権利が私に有るなら・・・当然、
《《自分の為に使う事にする。》》
苦情は受け付けんよ。
聖女なのにそれで良いのか?って言われても余計なお世話だ。
前世で身に染みているからね。
まずは自分の拠点を作って防御を固めようかな。
皇女という今の立場だって安泰では無いだろう。
前世の普通な生活があっさりと地獄のような責め苦に変わったように
ある日いきなり激変するのが世の中というものだ。
自分の身は自分で守るのがベスト。
「それほどの資金が有るのならアルベルトが教えてくれたあの場所に
清潔な理想の住処を作りたいんだけど、手を貸してくれる?」
「そのお言葉をお待ちしておりました。
私の持てる全てを使いまして必ずや姫様がご所望の城を作り上げてご覧にいれます」
いや、清潔で安全なら城までは望まないんだけど・・・
変なスイッチ入れちゃったかな。
「その話、あたしも仲間に入れてくれへん?」
「「えっ!」」
「逃げたりせえへんから、まずは この拘束といて欲しいんやけど」
昨晩 捕まえた幼女なダークエルフちゃんが目を覚ましたらしい。
今のアルベルトとの極秘の会話も聞かれていたようだ。
しかし この子の言葉、
この世界の言葉なのになぜか関西弁に聞こえるのは気のせいだろうか・・・。
「まさか目を覚ました? 魔法で眠らせていたはずなのに・・・」
万能執事が驚愕している。それほど驚く事か?
「ああ、それな。あたし聖眼持ってるよって色々と狙われるんよ。
そやさかい魔法とかに抵抗できる防御アイテム色々と身に付けとんねん」
ほうほう、それなら自分もアイテム装備した方が良いのかな・・・
「あなたは皇女暗殺未遂の犯人なのですから釈放するはずが有りません。
皇都に帰ったら情報を引き出す為の拷問、その後に判決が下るでしょう」
「ひぇっ、何でやねん。
あたしは仕事で森の中で歌を歌うように依頼されただけやで。
文句が有るんやったら冒険者ギルドに言うてや」
「過程は関係ありません。結果として皇族の方の命を脅かした事実が全てです。
せめてもの温情として自白スキルで情報を引き出してから苦しまないように
断頭台で極刑に処してあげますよ」
「い、いやぁぁぁっ、人殺し。何そんな涼しい顔で殺しの宣言しとんのや」
アルベルトに真顔で死刑宣告されたら さぞかし怖いだろう。
「その子に作為も陰謀も見えないよ。間接的に利用されただけみたいだね」
「ですが、暗殺未遂の現行犯に変わり在りません。解放するなど論外です」
うわ・・・アルベルトが頑固だ。
自分の事が絡むとメンヘラと化すメンドクサイ男のようだ。
私が誘拐された時に何も出来なかったと嘆いていたくらいだし
それがトラウマに成ってないか?
「そんなら司法取引せえへんか?。
あたしの事許してくれるなら姫様誘拐事件の情報を教えたるで」
なんですと・・・




