第37話、闘争の調べ
ル♪~ルル~~♪ル~~♪ルル♫
森を切り開いて出来た丘の上の夜。
いくつもの焚火だけが明かりとなってテントの中を薄暗く照らしている。
一応 お姫様な私ファルナは大き目のテントの中で寝る事に成る。
ル♪~ルル~~♪ル~~♪ルル♫ル♪~ルル~~♪ル~~♪ルル♫
聞こえてくるのは騎士団の誰かが歌っているのだろうか?
歌詞が無いけど 奇麗な歌だと感じさせるメロディが続く。
声の質から女の子が歌っていると思う。
ル♪~ルル~~♪ル~~♪ルル♫ル♪~ルル~~♪ル~~♪ルル♫
あれっ?
第一騎士団にお姉さんの歳の女性は要るけど 女の子な年齢の人は居ないはず。
≪滾るぞ、こんな所で戦いの歌を聴けるとは面白い≫
「えっ、静かな曲じゃん」
≪解らぬか?この暴れたくなる旋律。いますぐ全力で吠えたくなる≫
突然、 自分の中に憑依している謎の生物コロタンが
訳の分からない事を伝えて来た。
≪ふむ・・・、人には聞こえないか?。みごとな狂戦士の歌だぞ≫
「えっと・・・それって」
≪面白いではないか。魔物達が一斉に動き出したぞ。
四方からこの場所に迫って来おる≫
いや、そんな軽く言わないでよ。
≪このままでは お主が率いている人の群れは皆殺しになろう≫
大事件じゃないか!
ル♪~ルル~~♪ル~~♪ルル♫ル♪~ルル~~♪ル~~♪ルル♫
この静かなメロディは挑発の歌だった?
「全員、起床。魔物が来る、戦闘態勢」
私はテントを飛び出し非常事態を知らせたのだが・・・
「何だ何だ?」と寝ぼけた顔で護衛の騎士団が煩そうにしている。
「姫様、いかがされましたか?」
アルベルトですら魔物の狂暴化には気が付いていない・・・マズイよ
「気が付かない?。この歌は魔物を引き寄せているんだよ」
そう言えば、丘から見下ろした森には凶悪な魔物が徘徊してるとか言ってたよね。
ここで自分もコロタンとのリンクを生かして魔物の気配を感じてみる。
「ひゃあああーっ!全方位から魔物が集まって来る」
「姫様がこう申されている!。
騎士団は総員武器を持て。密集防御、姫様を守れ」
ノロノロと騎士達が集まって来る。
彼らはまだ事態の深刻さを理解していない。
子供な姫が我がままで騒いでいる、程度の認識なのだ。
王族らしいカリスマとか無いからね、私。
「魔物だ、うわぁぁ」
一人の騎士がいきなり魔物と遭遇する。
「何だ、角ウサギではないか。脅かすな」
最初はまだ弱い魔物だったようで彼等でも対処できている。
だが、やがて聞こえてくるのは四方から木々を薙ぎ倒す音と重い足音。
此処に至ってやっとチャライ騎士達も身の危険を感じたのか不安な顔で集まり出した。
≪ファルナよ吾輩が出て蹴散らすぞ≫
≪えっ、それは助かるけど・・・コロタンの事はまだ秘密にしたかったのに≫
≪何を心配している。死んでしまえば終わりだぞ。是非も無い。
このまま宿主が死んでしまえば中に居る高貴な我輩まで道連れなのだろう≫
確かにそうだ。後の心配など論外だったよ。
「アルベルト、それに皆も聞け。これより私は神獣を召喚する」
「はあっ?こんな時に何を・・・!!」
説明をする暇もなく焦れたコロタンが本来の巨大な姿を現す。
カッコ良く召喚のポーズとか決めたかったのに、残念。
「さすがです、姫様」
集まっていた全員が真上に出現した巨大なコロタンを見上げ愕然としている。
何故かアルベルトだけはウットリした顔をしていて怖い。
≪数が多いな面倒だ。ファルナよ耳を塞げ≫
はっ、として慌てて手で耳を塞いだ。
≪≪≪≪グゥオオオォォォォーーーーン≫≫≫≫
例のごとくコロタンの咆哮が響き渡る。
しかも今回は闘争の歌?を聞いて気合が入っていた。
バタバタと皆が気を失っていく。
さしものアルベルトも抗えなかったようだ。
耳を塞いでいなければ契約している自分も気を失っていただろう。
そして恐ろしい事に魔物の気配まで小さなものになっていく。
魔物ですら気絶させる恐るべきチートだった。
ただし、一匹だけは健在なようで まだ重い足音が近づいてくる。
≪ふむ、さすがに地竜は気絶せんか。面倒な≫
この重々しい足音はドラゴンですか・・・
聖剣?『X狩場』で倒せる相手なのか不安になる。
そして私の夜目にもドラゴンのシルエットが見えて来た。
「大きい、コロタンと同じくらいかな」
≪我輩とあのトカゲを比べるではない。不愉快だ≫
ズズーーン☆
「あれっ、急に倒れたよ」
≪吾輩が見えない剣で足を切ったからであるな。まだ生きてはいるぞ≫
えっ、それって聖剣の能力?。
獣魔との契約って武器の性能ともリンクするって事?
グオオッ・・・
確かにまだ生きてるのか 苦し気な声が聞こえる。
≪ファルナよ、アレに止めを刺すが良い。
今のお主なら あの程度の強さの相手でも良き経験となって力にもなろう≫
えっ それって、この世界は魔物を倒すと経験値が入るって事?
それが本当なら少年の心が疼くじゃないか。
念の為コロタンといっしょに近寄っていく。
何も出来なくなった生き物を殺す・・・何か少し罪悪感が、無いな。
血塗られた前世の自分からしたら今更な話でしかない。
足を切り飛ばされジタバタしているドラゴンの首をサックリ切り落とした。
特にレベルアップの実感など無かった。
ゲームやアニメみたいにファンファーレの一つでも鳴り響けは遣り甲斐も有るのに。
≪吾輩の背に乗るが良い。
近くに気絶している強めの魔物だけでも止めを刺しておいた方が帰りが楽になるぞ≫
「そだね。そうしようか」
コロタンの背に飛び乗った。
確かに騎士団が手に負えない強い魔物は間引きしておいた方が帰りが楽になる。
それに強い魔物なら素材が高価な物も有るはず。
皆が目を覚ましたら解体させよう。
「じゃあ、お願いね。案内よろしく」
その後はコロタンのエスコートで魔物の近くまで行き、気絶している魔物に
「首、置いてけや」とセリフを吐きながら首チョンパしていった。
躯を宿営場所まで運ぶのが面倒だったよ。
そして見つけた。
宿営地近くに倒れていたのは小さな女の子。
木の上から落ちたのか腕が折れてあらぬ方にねじ曲がっている。痛そう
「この子・・・私と同じくらいの歳なのになぜ」
≪分かり切った事よ、強き者だからこの場に居る≫
「そんな・・・私はコロタンと契約してるから丈夫だけど」
≪気が付いておろう、先ほどの歌はこの者が歌っていたのである。
あの歌は魔法では無い、ならば答えは一つである。
この者はファルナと同じ者なのだろう≫
この幼女も聖女能力者?・・・って何だよ、聖女ゴロゴロ居るじゃん。
とりあえず治療してやりたいけど救護班の魔法使いも気絶しているから
今はキャンプに運ぶだけしか出来ない。
宿営地は気絶した騎士達のとなりに殺した大型の魔物が並べられ
カオスな状態に成っている。
皆が目を覚ました時の顔が見ものだ。
そんな訳で私とコロタンが朝まで見張りをして魔物の襲撃に備えた。
******そして朝
あたりの気配を見ていると人間より先に獣や魔物が目を覚ましたようだが
すでに挑発の歌は無く、さらに強者のコロタンを恐れたのか全力で逃げて行った。
人間で一番に目覚めたのは執事のアルベルト。
その気配を感じたコロタンは私の中に憑依して来た。定宿だな
「こっ、これは・・・姫様に夜番をさせてしまうなど、何と言う大失態を・・・」
飛び跳ねるように起き上がったアルベルトは文字通り騎士達を叩き起こしていった。
目を覚ました騎士達も自分達が寝ていた事実に青くなった。
彼らに落ち度は無いのだが、昨夜の出来事は夢だと思っているのだろう。
「「「「「「「うわぁぁ、何だこれ?」」」」」」」
彼らは慌てて朝の準備を始めようとしたのだが、すぐ近くに沢山の魔物の死体が転がっているのを見て悲鳴を上げていた。
アルベルト? 彼は一番先に魔物の死体に気が付き、無言で悩んでいたので静かだ。
魔物の処理をアルベルトに丸投げし、自分は回復役の魔法使い達を集めて少女の治療をすることにした。
骨折の状態次第ではかなり荒っぽい治療が必要になるだろう。たぶん
「ぎああああーーーっ、いだい いだい」
パンパンに腫れあがった腕に軽く治癒の魔法をかけて腫れを癒してから強制的に
腕の曲がりを正常な形に戻し、数人で本格的なヒールの魔法をかけていく。
その過程で地獄のような激痛が襲っただろう少女は回復した後、再び気を失った。
昨夜は分からなかったが少女の耳は不自然に尖り、肌は日焼けしたような褐色をしている。
日本のエンタメの常連、ダークエルフの姿そのものだ。
もっとも、この世界で何と呼ばれているか今は分からないけど。
さて、どうしたものか・・・
子供だけど明らかに暗殺者だ。




