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第36話、極秘計画

部屋から出て行った執事は戻ると手に大きな羊皮紙のスクロールを持っていた。


「まずは此方(こちら)をご覧ください」


そう言いながらスクロールをテーブルの上に開いていく。


「これは・・・地図だよね」


「そうです。私が作りました世界で唯一の全体地図となります。

この国の宝物庫にもこれほどの品はございません」


「それってマズイでしょ。地図って国家機密なんだよ」


確かラノベの設定では定番だった気がするし、昔の戦争では重大な軍事機密だと聞いた事が有るぞ。


「皇王陛下もコレの存在はご存じありません。バレなければ良いのです。

誰も知らない、それ即ちファルナリーア皇女殿下だけが使える奥の手でございます。

ちなみに、それぞれ近隣の国々が細かく記された地図タイプもございます」


万能執事のアルベルト・クレナンスはこれ以上無いドヤ顔で胸を張っている。


国のトップにすら秘密とか・・・彼は命知らずだな。


「すごいね、アルベルト。

でも、どうやってこんなの作れたの?。

これって空の上から見ないと無理だよね。

国の形は本当にこんななの」


私の言葉に愕然とするアルベルト・・・やはり推測で描かれた地図なのだろうか。


「ひ、姫様に疑われるなど私はまだまだ信頼が足りないのですね・・・」(しょぼん


今度はあからさまに落ち込んだ。意外と面倒な奴。


「で、どうやってこんなの作ったの?。教えてくれるよね」


ここは心を鬼にして最後まで問い詰める。


そうしないと長い事ウジウジしそうな気がする。



「勿論でございます。姫様

確かにこれは空の上から見渡して全体像を把握したものです。

方法は簡単で使い魔の目を利用したのでございますよ」


「それだけでこんな地図を作ったの?。アルベルトは天才だね」


ほんとだよ、航空写真から距離を測量するなら まだ何とか理解できるけど、

恐らくだが そんな写真など有る訳が無い。


それなのにこの地図は国土の形は勿論、大きな街の位置や街道の繋がりまで記されている。


前世の世界地図ほど精緻では無いとしても この世界では驚異的な精度と言える。


もしも、この地図が距離とか正確に記されているなら作ったアルベルトは

とんでもない天才だぞ。


そんな天才の彼は私に褒められた事で夢心地な顔をして放心している。


危ない奴か?



なぜだろう・・・。


「そんな優秀なのに何で私に仕えてくれるの?」と聞きたい、


聞きたい・・・が今は止めておこう。話が進まなくなる。


放心しているアルベルトを現実に戻さなくては。



「地図が素晴らしいのは分かったから、コレを見せた理由を教えて」


「はっ、失礼いたしました。

ご覧ください。ここのラインまでがリリセンティア皇国 の領土となってります。

そして、その先は未開の地であり我が国ですら領土と主張する事が叶いません」


「要約して結論だけを言ってね。できるよね?」


長い話に成りそうなので急かす。


どうせ私の頭では話の半分も記憶できない予感がするし。


「分かりました・・・。

まず、姫様が望まれた城内、そして皇都の洗浄を実現するには

皇都全域に汚水排除の地下道を作らなくてはなりません。

ですが、それは現実的に不可能です。

よって姫様の要望を叶えるのは皇王陛下と言えど無理なのです」


汚水排除の地下道とは下水管を意味するのだろう。


清潔な都は不可能、か・・・明確な答えだよね。


分かってるじゃないか。


私が聞きたいのはその先だよ。



「そこで、私が提案したいのは遷都・・・いや、

新しく姫様の城 そして都を作る事です」


スケールの大きな話になったよ。


「アルベルトがそこまでハッキリ言うのなら、

既に場所と実行する為の目途が立っているのですね」


「さすが姫様、今の説明だけで先を見通される慧眼。

さらに、この遠大な計画を笑わない柔軟な思考。

計画が実行可能なのは唯一姫様なればこそなのです」


恥かしいほどヨイショしてくる執事、もはや詐欺師を疑いたくなる口ぶりだ。


そして彼から語られる遠大な計画を聞いて驚いてあげるのが自分(ファルナ)の仕事です。





********その数日後


私達は数多の困難を乗り越えて外出していた。


「あ・・・アルベルト、貴様ぁ何という場所に姫様をお連れしたのだ。

皇家のお方を危険に晒すなど極刑ものだぞ」


「嫌ですね、皆さんが弱いのがイケないのですよ。

その証拠に幼い姫様ですら何の問題も無いではありませんか」


冷徹なアルベルトの一言は文句たらたらの騎士を論破していた。



ここは一般に秘境と呼ばれる 普段は冒険者も立ち入らない未開の大森林。


踏み込むだけで命が危険な場所であり、集団での行軍は過酷を極めた。


結果、護衛として付いて来た騎士と魔導士達は疲労困憊、


ゼエゼエと死にそうな顔で息を切らしている。


まぁね、道なき道を歩いて行軍しているから無理も無いけど。



私? 私は例の聖剣を使って襲い来る魔物を返り討ちにしている。


長い距離の行軍もコロタンとの能力リンクで疲れる事を知らなかった。


結果として護衛対象の自分(ファルナ)護衛(かれら)を魔物から守る為体(ていたらく)と成っている。


そんな弱っちい者達は何と私直属の第一騎士団なのだ。


国の騎士団では無く私個人の私兵らしい。良いのか?それって・・・


その中身は良く在りがちな貴族のボンボンを寄せ集めた名ばかりの騎士団だ。


「姫殿下の護衛は由緒ある家柄の我々こそが相応しいのです」などと

無理やり今回の護衛を買って出たのに、ほぼ全員が魔物に対処できていない。


下らないプライドで見栄を張るから自分達の無能を証明してしまったのだ。


こんな事なら私の第三騎士団(闇夜のカラス)を外さなければ良かった・・・




とまぁ無駄な子守で苦労して ようやく目的地の丘までたどり着いた。のだが・・・


「・・・何も見えませんね。

以前 調査に来た時はこんなに密林では無かったのですが」


「えっと、アルベルトが見せたいのはこの森の先に有るんだね」


「はい、お見せしたいのは地図では伝わらない現地の素晴らしさなのです」


確かにCGの立体映像で地形が見れない以上、現場で確認するしか無いよね。


ここが目的地なのは上空を飛行しているアルベルトの使い魔が確認しているから

間違い無い。


しかしながら、丘の上から見下ろせるはずの景色は鬱蒼とした原生林に邪魔されて何も見えない。


なら、話は簡単。



幼女な私の腰に下げてる短剣にしか見えない聖剣?『X狩場』を鞘から抜き出す。


《コロタン、また少し・・・いや沢山魔力を借りるね♡》


《何を今更、好きに使うが良い。

それよりも、この地は魔物の気配が濃いな。

やっと臭き人族の巣から離れたのだ、元の姿で暴れたいぞ》


げっ、コロタンの野生の本能が(うず)いてるらしい。


《チャンスが来たら解放するよ。

それも無理なら後で鳥になって飛んで来ようね、ね?》


《うむ、・・・しかたあるまい》


一難去った・・・



最後の準備として随伴している魔法使いのお姉さんに指示を出す。


「・・・それ位なら残った魔力で何とかなりますが、威力は・・・」


「うん、それでいいよ。合図したら私が示す方に使ってね」


ここまでの強行軍で騎士だけでなく魔法使い達も疲弊していた。


可哀そうだけど、もうひと頑張りしてもらおう。



全員をその場で休ませ、自分(ファルナ)はアルベルトの示す方角へ視線を向ける。


小さな体で さらに姿勢を低くして水平に聖剣『X狩場』を振りぬいた。


目に見えない斬撃は地表近くを走り、そのまま高度を変えずに広がっていく。


勿論、魔力はマシマシだから何処まで届くやら。



「風魔法、撃て!」


???「はい」


強めの風が木々へ向けられる。


ギギッ

ギギギギギッ、ザザザザザッ、ドドーーーン


密林の木々は薙ぎ倒され、あっさりと視界が開けた。


「・・・・・」


騎士団一同、言葉も無く呆然としている。


さすがのアルベルトですら鉄面皮が崩壊していた。


密度の濃い木々が水平に刈り取られ、

まるで平地がずっと続いているように見える。


その先には雄大な景観が広がっていた。


アルベルトが見せたかった地形とはコレなのだろう。


今の一撃を恐れたのか、付近から魔物の気配が逃げて行くのが分かる。


今夜はこの場所で野営するのが安全だろう。



えっ、なに?・・・環境破壊?自然保護?


それは確かに地球では重大な問題だっただろう。


だが、その御託(ごたく)は自然を荒した人間の思い上がりだ。


大自然が人間よりも立場が上の世界ではそんな理屈はブタのエサにもならない。


この場で原生林を切り倒しても、一年も掛からずに修復される世界だ。


心配するだけムダなんだよ。


正義感の押し付けは、自国の宗教を他の国に押し付けるくらい大迷惑な話なのだ。



護衛の者達には宿営地の準備をさせて


自分(ファルナ)とアルベルトは景色を見ながら極秘の相談を始めた。


彼は膝を地に付け私の目線で景色に指さしながらもの凄いセールストークで

プレゼンしてくる。


「ご覧の通り、雄大な山の麓に広大な平地が伸びて台地が形成されております。

山から流れ出る川の水は水質も良く、ほぼ一定の水量を保っています。

川は大地から滝となって流れ落ち、広大な湿地帯を潤し、やがて大河に合流。

我が使い魔が偶然見つけた理想的な安住の大地です。

勿論、直接あの場所に行かなくては分かりませんが、実り豊かな土地と思われます」


彼の言葉通り、山の麓にはテーブル状の広大な大地を形成している。


地盤が盤石なら下水を通すのも崩落の可能性が少ないだろうし、


高い建物を建築するのも地下室を作るにも安心だ。


確かに良い場所なんだけどね。




先日、城でアルベルトから聞いた話がここで生きて来る。


(いわ)く、


自分(ファルナ)が求める環境を作るにはキッチリと上下水道を作る必要が有る。


それには都市を作る前から地下に下水道を張り巡らせる事が大前提となる。


下水設備は一番最初に作る事が望まれる。



そして、ここから見える場所の話と重なる。


目指す場所には強固な地盤と肥沃な大地が有り、さらに豊富な水源が有る。


下流に広がる湿地帯は流された汚物を消化する自然な働きが有る。


全ての条件がそろっている理想的な場所なのだ。


ただし・・・



「人間にだけ住み良い土地では無い、と・・・」


「そうなのです。上空から見ただけで凶悪な魔物がウヨウヨしてまして。

上位の冒険者を軍団単位で派遣しなくては制圧は難しいでしょう」


万能執事が自信無げに伝えて来るほど現実は容赦無かった。


都市を作るまで望んでいないし、私は自分の家だけで良いのだけど彼にとっては

その程度では満足できないらしい。


天才の考える事は常人には理解できないよ。


清浄な住処を得るだけなのに、もの凄い苦難の道に見えるのは何故だ。



「とりあえず今回は場所の確認に来ただけだし、一度皇都に戻ろうか。

長引くと無駄に心配されるし、また刺客も増えそうだしね」


「そうですね・・・下手をするとまた皇太子殿下が追いかけて来ますね」


私の父親を名乗る皇太子アレクトレウスは皇都に帰還した時から姿を見ていない。


城を抜け出して冒険者していた期間に溜まった公務に忙殺されているらしい。


現皇王のアークレシス(お爺ちゃん)が眼を光らせ缶詰にしているのだ。


そう言えば前回一緒に旅をした面々は今回一人も参加していない。


魔導士のトゥルゲルトさんも騎士のアデリーナも似たような理由で同行できない。


過保護な三人が参加していないからなのか、妙に苦労する旅だったな。





*******皇都のとある貴族邸



「現地の影に連絡、予定していた計画を遂行せよ」


「はっ、直ちに使い魔を飛ばします」


音も無く伝達係の影が去っていく。


「やはり何か仕込んでいたのですね。くっくっく」


「当然だ。

あの悪魔聖女がノコノコと遠出してくれたのだぞ。

今度こそ消してくれるわ」


ファルナの《陰謀を見通す聖眼》。


その弱点は陰謀が発動する直前まで一切の関係者や物品を見せない事だった。


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