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第35話、はい、喜んで!

ファルナが慣れない国で悪戦苦闘しているそのころ、

領主の娘セルシニアも自らの目的に向けて精力的に動き出していた。


セルシニアの性格や雰囲気が別人のように成った事に父親も心底驚愕したが

「聖女として覚醒した」と言われれば納得するしかない。


その傍らには今も従僕のようにアステリア・ホルムステルが同行している。


年齢も近い二人が共に行動している姿は公式に認められた婚約者であるかのような

誤解を周囲に与えていた。


セルシニアの父である領主クレセントスはその事に関して複雑な思いだが、

彼を取り巻く現状はそれどころではなかった。


国境線の緊張感が和らいだ事で警戒態勢を解除する仕事に追われ多忙を極めた。


数千人にも及ぶ駐留軍は滞在するのも引き上げるにも膨大な予算と手間がかかる。


戦争とは時間と労力と財政を食いつくす この上無い浪費だと言える。






***********とある神殿の来賓室



「つまり、セルシニア様は当教団の教えを知りたいと?」


今日、セルシニア達が出向いているのは何と自領に有る神殿だった。


彼女は自らの教団を作る前に既存の宗教団体を視察に来ていたのである。


子供とは言え貴族相手であり神殿側は司教が対応していた。


「ええ。大筋としてはその線です。

聖女の私はいずれ 少なからずこちらの神殿と関りが有る事でしょう。

けれど、その時になって何も知らないでは話にならないですから」


彼女は話を切り出すにあたって 自分の利用価値を匂わせていた。




セルシニアがこの場所に来るのは二度目になる。


一度目はこの世界での洗礼を受ける為に神殿まで訪れたのだが、

それは帰りに盗賊襲撃を受けるという不愉快な思い出にもなっている。


「まだ深い教えが理解できると思うほど己惚(うぬぼ)れてはいません。

最初は大まかな教えと他の国の神殿との違いとかお聞きしたいのです」


「なるほど、その年齢でそこまでたどり着きましたか。

さすが聖眼の乙女ですかな」


セルシニアは謙遜して幼い自分をアピールしてはいる。


本音を言えば、若返った事で得た柔軟な記憶力と前世の知識からの理解力も有る。


今なら全ての教えを聞かされても対応出来る自信は有ったのだ。


今日は様子見であり無理に自己主張する必要は無かっただけだ。



「教義と言っても そう難しい話ではありませんよ。

この国だけでなく私の知る限り全ての神殿は聖女を(たた)える意味で存在しています。

それぞれの考え方で多少は教義に差異はございますが根本は同じなのです」


「えっ、聖女が信仰対象なのですか?♫」


「はい、ですが我らが崇拝しますのは あくまで大聖女と成られたお方です。

ですからセルシニアお嬢様が大聖女と成られた暁には全ての神殿が

貴方様に付き従う事でしょう」


セルシニアは驚いて呆気にとられた顔をする。


それは単なる演技でありパフォーマンスだ。


内心では思わぬ収穫に狂喜乱舞している。


『ははっ、今の答えを聞けただけで今日は来た甲斐が有ったな』


そう日本語で(つぶや)いたほどだ。


無理に今すぐ教団を立ち上げて勢力拡大を考える必要が無くなった。


大聖女に選ばれさえすればセルシニアは濡れ手に泡で巨大な勢力のトップに立てるのだから。


「ですが、大聖女とは それだけ多くの思いを背負う事でもあります。

決して楽な立場では無いでしょう」


「なるほど、ありがとうございます。

私の聖眼では未来は見えませんが、

とりあえず大聖女を目指してみますわ」


「ええ、期待しております」


思いがけず最良の情報を得た二人は目的を果たし来賓室を後にする。



「あら、この行列は何なのかしら?」


見ると神殿の廊下はケがをしてる者、あるいはぐったりと苦しそうな者達が長い列を成して奥の部屋まで続いていた。


その様子に大いに警戒するセルシニアだったが、何とか顔には出さずに済んだ。


その様子に案内役のシスターが自分の子供に教えるように優しい笑顔で話し出す。


「気付かれましたか。ちょうど巡礼の旅をしております聖女の方が

治癒魔法で人々の病気や怪我の治療をしておられます」


「巡礼ですか・・・なぜそのような事をされているのですか?

大きな街なら旅などせずとも患者は尽きないでしょうに」


スキルの熟練度を高めたいなら動かずに患者を集めて数多く裁いた方が効率が良いはずである。


それは効率重視なゲーム的考え方だった。


「多くの功績を積む為と言われております。

昔から広く色々な人々を助ける事で大聖女に選ばれる可能性が高くなると

信じられていますので」


「その割には近年 誰も選ばれていないのでしょう?」


「それはそうなのですが・・・

候補の方々は多くの方に大聖女になる事を望まれているでしょうから、

わずかな可能性とは言え何もせずに居られないのでしょうね」


聖女になるのは(いばら)の道かも知れない、と甘い考えを改めるセルシニアだった。



神殿から退出し馬車に乗ると 二人は日本語で胸の内を語り出した。


『アステリアはどう思う?。さっきの話』


『あまりにも都合が良すぎて気持ち悪いですね・・・タダより怖い物は無いですし』


『だな。俺もそう思った。

大聖女を祭り上げるのは良いが実質は利用しまくるのが目に見えている』


ならば利用されない絶対的な力を持てば良いだけ。


自らが誰にも支配されない力を持つ必要が有ると考えるセルシニアだった。





*******ファルナの部屋



「改めまして。

私は姫様の執事を拝命しておりました アルベルト・クレナンスと申します。

私が唯一心からお仕えするのはファルナリーア皇女殿下ただ一人にこざいますれば

以前のように何事もお申し付け下さいますよう、伏してお願い申し上げます」


「ああ・・・うん。よろしくね」


ファルナは絶賛 大混乱中です。


自分(ファルナ)の本能が怖いと教えていた執事が実は以前から自分の右腕として仕えていた、と知らされたからですよ。


しかも、彼の熱意はハンパ無くすごい。


その熱量がファルナ(じぶん)に本能的な恐怖を感じさせているのだろう。


「えっと、ご存じかと思いますが(ファルナ)は多くの記憶が抜け落ちています。

アルベルトさんは・・」


「姫様、わたくしの事はどうかアルベルトと呼び捨てでお願いいたします。

どうか何卒(なにとぞ)。それと 敬語も無しで」


いきなり鋭いツッコミが入り、自分(ファルナ)の体はびくついてしまう。怖いよ



「で、では。アルベルトはどんな事が出来る人なのですか?」


「ははっ、では僭越ながら(わたくし)めの事を語らせていただきます」


こほん、と軽く咳払いをしたアルベルトは語る語る。


それはもう技能を羅列して語るだけで長い時間が必要なほど彼の所持している能力はすさまじいものだった。


特に彼が修めている知識は賢者と呼べるほど多種多様でとんでもないものだったよ。


この世界のスーパー執事と言えるだろう。


大国の皇王が手元に置いて便利に使うのも頷けるよ。


でもね・・・


私はこんな癖の強い人を使いこなす何てムリだよ。


それはまるで仕事を何も知らない新入社員が「部長に仕事を教えろ」と命じられ、

プレッシャーをかけられ追い詰められているかのような逃げ場のない状況なのです。


憑依して知識を盗め?ですか・・・


こんな人に憑依(ひょうい)なんてしようものなら膨大な知識が怒涛の如く流れ込んで頭がパンクしてしまう。


どうりで本能が危険を知らせている訳だわ。



『ファルナよ、何を恐れているか?。

お主の欲しがっていた人族の知識であろう。存分に利用するのだ。

もしも不都合が有るのならあ奴から勝手に離れていくであろう。心配ないぞ』


自分(ファルナ)に憑依しているコロタンが何時に無く真面目に応援してくれる。


要するに「成るように成れ」と思えば良いのか。


そうだね・・・死なないなら問題無いよね。



少し落ち着いて彼がいれてくれたお茶を飲む。


「・・・美味しい」


天才執事は表情を崩さないが、軽く微笑むのは分かった。


でもなー、せっかく香りの良いお茶なのに部屋の臭いが台無しにしている。


勿体ないよね。


「アルベルトは・・・私が城を浄化するように提案した事をどう思いますか?」


お茶の味が引き金となって執事に質問してしまった。


「・・・姫様が浄化を望まれているのは至極当然な事と思われます。

現状を考えますに姫様のご懸念通りいずれは病魔が蔓延するでしょう。

しかしながら現実的に可能かどうかを申しますと不可能です。

努力するだけムダです」


ぐはっ、クリティカルなダメージがぶっ刺さる。


冷徹にムダと言ってのけるとは、さすが氷の執事。


でも、キツイのは確かだけど理論的な答えを本音で返してくれたのだろう。


自分の行いに疑問を持っていた身としては望んでいた答えだ。


「やはり、そう思うんだね。私も薄々はそう感じていたよ」


そう言うと、彼はまた極わずかに微笑む。



『ファルナよ、あの者他にも言いたい事を伏せているようだな。

何か解決策が有るのかも知れぬぞ』


『無理でしょ。全ての国民のモラルを基準から変える必要が有るし、

実行するには百年単位で命令して規則を徹底させるしか無いよ。無理無理』


『ダメ元で聞けば良いのだ。あの者はファルナが頼る事を望んでいるぞ』


今日のコロタンは押しが強い。


早く臭い現実を何とかしたいのだろう。



「アルベルトには何か解決策は在りませんか?。

それが荒唐無稽(こうとうむけい)な提案でも聞いてみたいです」



あっ、彼は初めて満面の笑顔に成った・・・







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