第33話、私は帰って来た・・・地獄に
私は皇女ファルナリーア、なのだそうな。
皇都に帰った私は 本来ならお城で優雅にお茶会などをしているはずだった。
でも、私は今、絶賛 地下トンネルの穴掘りに従事している。
えっ、「話を飛ばすな、」ですか?。
しょうがないですね、では少しだけ時間を遡りますね。
************ワープ
かなりの遠くからでも見えるのは巨大な都、
リリセンティア皇国の皇都ファルナコルテ。
初代皇王の妃ファルナコリアナから名前を付けられたとされる大都市。
誘拐される前の私は城の中から出た事が無いので初めて見る都の姿だ。
まぁ、その辺の記憶も消失しているので今更な話でもある。
要するに、行方不明だった姫はやっと故郷に帰り付いたのよ。
皇都よ私は帰って来た!
などとカッコ付けたかったけど自重したよ。
そして、ついに門を潜り抜け 都に足を踏み入れたお姫様な私だったのだが・・・
「ぐあああああーっ、くっさーい!何コリェ」
途轍もない汚物の匂いで悲鳴をあげた。
そして、もっと悲惨なのは 敏感な鼻をしているコロタンだ。
『・・・・・死ぬ。吾輩を殺す気か?、このような場所焼き尽くしてくれる』
『うわっ、コロタンだめ、ストップ。憑依してる時は感覚共有を外せば臭く無いよ』
『おおっ、臭いが消えた、助かったぞ。匂いが全く無いのは心細いがしょうがない』
そうだった・・・前世の中世ヨーロッパの城塞都市は超不潔な場所だったらしい。
下水やトイレがほとんど無かったとの事。
この世界でも恐らく同じなのだろう。
いや、違う。この国だけかも・・・
「姫様、少しだけ我慢してくだされ。直ぐに魔法でお守り致しますゆえ」
守るって何から?街中で皇族が襲われる国なのかな・・・。
宮廷魔導士のトゥルゲルトさんが杖を振ると半径20メートルほどのドーム状に
半透明な結界が作られる。
匂いが少しだけ和らいだ。・・・そうか、色々な意味で守られたらしい。
ただし、臭いは残っている・・・消えた訳では無い。
見ると騎士達の魔法使いも同じように仲間を守っていた。
やがて、豪華な馬車が迎えに来た。
その車輪にはベッタリとウン○がこびり付いている。
可哀そうに馬の蹄にも・・・。
あぁ、魔法が使えたなら水をかけて洗ってあげられるのに・・・ごめんよ。
そんな感じで哀れな馬に哀愁を感じていると、
ドサドサドサッと馬が馬糞を落とした。おまえもかい!
こんな街に住みたくないよーーっ。
皇女様が聞いて呆れる。
これじゃあ家畜小屋のブタさんだよ。
素人の自分でも分かる、やはり下水的なインフラが無いのだ。
まして浄化槽など・・
せめてお城の中だけでも期待してみよう・・・。
ダメでした。
人糞と馬糞の臭いが漂う都の中を馬車で突破し、王城の中に入ったのは良いけど・・
ファルナは、西洋の人々が家の中で靴を履いている理由を思い知りましたとさ。
何なの?この国・・・セルシニアと暮らしていた町も邸宅も、
あの邪悪な教団本部でさえもこれほど不潔では無かったよ。
これで世界有数の大国とか言ってたよね。(笑
あと少しだけ我慢だ。
ファルナリーアが皇王のお爺ちゃんに顔を見せないと トチ狂って
周りの国々に戦争を吹っ掛けかねない。
などと聞かされてるから記憶に無いジジイに顔だけは見せてやるさ。
ここで私がバックレると世界大戦・・・アタオカな世界だろ。
面会が終わったら、こんな場所 絶対脱出してやる。
その後?、知らないね。
書置きでもして鳥になって逃げる。
ボロい公衆トイレのような不快な臭いと腐敗臭が漂う廊下を案内され歩く、歩く、
歩く、歩く、ある・・・だーーーーっ、屋内でも馬車を使わせろーーーっ。
幼女の足を何だと思ってるんだ!
案内されたのは広い空間、いわゆる謁見の間なのだろう。
重厚なドアが開けられ 私が重い足を進めると・・・、
そこには緊張した顔の面々が両脇に並んで整列している。
そして誰も私と目を合わせない?。
さらに その先の上段には一際《《無駄に派手な》》衣装を身に着けた老人が居る。
彼が皇王アークレシス・テア・リリセンティア。
初めて見る私のお爺ちゃんだ。
隣りにはあのロリコン男アレクトレウスが居る、・・・本当に皇太子なのかも。
「おおっ、正しくファルナリーア。
良くぞ、良くぞ無事に帰って来てくれた」
「皇王陛下。残念ながら無事ではありません」
「何ッ・・・、そなたをキズ付けた者がおるのかぁ!、どの国だ?滅ぼしてくれる」
うわーっ怖いよ、本当にファルナリーアってば溺愛されてるよ。
これは痴呆症を疑うレベルの危ない人だ。
私の言葉一つで殺戮が始まるとか何の罰ゲームだよ。
・・・ これまでの出来事を全部話す訳にはいかないよね。
「お爺様、私の体は健康そのものですよ。
ただ、色々と記憶が欠落しております。
その為、意図せずに無礼が有るかも、と心配しております」
「記憶が欠落?、そのような事が有るのか?。
それで以前と話し方が違うのか・・・かわいそうなリーア」
少し悲しそうにしながら私を抱きしめるお爺ちゃん。
戦争、戦争、言うからバカ殿かと思ってたけど、存外良い人なのかも。
ただ、部屋の悪臭をごまかす為なのか、この人も香水の匂いがキツイ!。
「良い良い。わしらに無礼など存在せんよ。以前の様にジジと呼んでおくれ」
げっ、大国の最高権力者をジジ呼びしてたのか?
以前のファルナリーアは大物だな。
「また ここで一緒に暮らしておれば 欠けた記憶も戻るじゃろうて」
「え?・・・嫌です。私はここで暮らしたくありません」
「「「「「おおっ、何としたこと」」」」」
成り行きを見ていた野次馬が一斉に驚きの声を上げる。
彼等にとって城内こそが最高の晴れ舞台なのだから無理も無い。
美味しいそれを拒否した事で「姫君は気が変になった」と思う事だろう。
それが彼等の常識。
「何故じゃ、ここがリーアの家じゃぞ。記憶が無いから怖いのか?」
「違うもん、臭いから嫌、汚いから嫌なのです。
こんなの、いずれ疫病が流行って城の皆が死んでしまうよ。
わたし、まだ死にたくない」
あまりの臭さに感情的になって叫んでしまった。
「んむっ、疫病?とな・・・・・・・・むむっ。
トゥルゲルト、トゥルゲルトは居るか」
「ハハッ、こちらに控えてございます」
「お主、疫病とは何か知っておるか?
わしの元にはそのような話が届いた事など無いぞ」
「疫病・・・書物から得た知識であれば少しばかりは存じてございます。
ですが私自身、実際に関わった事はございませぬ」
そりゃあそうだ。
医学が発達していない時代で疫病に関わっていたら命は無いからね。
トゥルゲルトさんの立場が宮廷魔導士とか言ってたの本当なんだね。
公式な場での会話が堂々としていてさまになっている。
旅の間のお爺ちゃん言葉の会話と違ってて映画を見ているみたいだ。
「疫病とは、言うなれば凶悪な病とお考えくだされ。
人から人に次々と伝え広がり、患ったものは殆どが助からずに
皆が苦しんで死んで行く恐ろしい悪魔の所業ですじゃ。
大きな街が死に絶える事も有ると記されております。
治療方法も薬も分かっておりません」
ざわ ざわ ざわ ざわ
城の中でヌクヌクと生きて来た貴族達の多くが初耳の話なのだろう。
もし私が皇女の立場で無かったらこの話は鼻で笑われて無視されたはずだ。
「ふむ、ならば話は簡単じゃ。
召使い全員に号令せよ、明日から城の掃除を徹底させるのだ。
また、日を決めて全ての民にも都の掃除を徹底するよう申し付ける」
あっさりと全国民をこき使う命令が下された。
さすが最高権力者だよ。
でも、その切っ掛けになった私は国民に恨まれそうだな・・・。
仕事が増えた城の使用人にも恨まれそうだよ。
何度か掃除して 街が奇麗になれば人々の気持ちも変わるかも知れないけど・・。
すぐにまた汚れるのが分かっている場所を何度も掃除させられるのは
ストレスが溜まるだろうな。
日本の都市みたいに上下水道完備しないと問題解決は無理だろうなー・・・。
日本ですらインフラが整うまで長い年月と凄い予算が掛かってるし無理かも。
あー・・何も余計な事を言わずに鳥に成れば良かったよ。
さてと、
丁度良い具合に貴族たちが混乱している様子を聖眼で見通す。
やはり、この場には私に対する陰謀も害意も見当たらない。
さすがに 私を売り飛ばした首謀者本人がノコノコと出て来るはずも無いか。
何も知らない代理の者が来ているのだろう。
皇王との謁見が終わると他の家族と顔合わせになった。
ガシッ
「ファルナリーア、無事で良かった。本当に心配したんだよ」
いきなり抱きつかれた。何者だ!
「うわあぁーん。リーア、今までどこに行ってらしたの」
くっ、さらに圧力が加わった。挟まれてハグされているようだ。
何事が起こってるのだ?
「二人とも、リーアが混乱してるぞ。そろそろ落ち着きなさい」
解放されて見上げると、若い男性と二人の中学性くらいの少女だ。
豪華な衣装でこの場に居てさらに皇女の自分にこの態度をとれる立場の人物。
「お兄様?お姉さま?ですか」
「報告は本当なんだな。私の事も思い出せないか?」
「私は?私の事は憶えてるでしょ?」
「ごめんなさい。名前も思い出せなくて・・・」
抱きつかれて分かったけど三人とも臭い。
キラキラした王子、王女のイメージがガラガラと崩れていく。
話によると三人と私とは異母兄弟だ。
その後、ソファーに座って色々と聞かされていたのは憶えているが疲れていた私は
そのまま寝てしまったようだ。
気が付くと大きな部屋の大きなベッドに寝かされていた。
私の実母は「ファルナリーア誘拐事件」の際に何者かに惨殺されたそうな。
でも自分は母の事を何一つ憶えて無いからショックでは無かった。
記憶無くしてて良かったかもね。
それにしても城の中で殺人ですか。
この城・・・・・
アニメに出て来たロリコン伯爵の城みたいに沢山の人が死んでるのかもね。
普通の物語だと王位を巡って王子や王女が陰謀を企てるのが定番だけど、
私の聖眼には彼等からは何の陰謀もその痕跡も感じられない。
そもそも、初めから王位継承権を放棄していた私をわざわざ害する意味が分からん。
さて、どうしたものか・・・
このまま城に滞在すれば衣食住には困らないだろうし、カーストトップの皇王に
溺愛されている事を考えれば最高の待遇で生活できるだろう。
しかしそれは蛇の巣穴で小鳥が巣を作るようなものだ。
いつでも飛び立てると安心している所を突然食われてしまう事になる。
それ以前にこんな不潔な家に住みたくない。
「用事は済んだし脱出するぞ。鳥になって世界を旅するのも悪くないかな」
皇王に面会する事で世界大戦?を未然に防いだのだ、もうここには用は無い。
『ファルナリーア皇女殿下、それは御止め下さい。お願いいたします』
「えっ、だれ?」
水面がゆらぐように何も無い空間がゆらめき、渦を巻いて人影を映し出す。
『私はこの城の守護を務めている精霊、アミュリーアと申します』
ふえー・・・さすが異世界、ファンタジーなのが出て来たよ。
一見すると幼女の私と同じくらいの身長の普通の子供。
しかし、その背中には透明な翅がヒラヒラと輝いている。
「お城を守護してるなら臭い今の状況を何とかしてよね」
「はぁー・・・。本当に何も覚えて無いのですね。
そもそも以前の姫様も城の彼方此方で平然と粗相をしておられましたが何か?。
今の城の現状は住人のモラルが原因です。それでも私が悪いと?」
「えっ、マジすか?」
「??・・・それ何語ですか。
私のライブラリーにも無い言葉なのです」
あっ、うっかり日本語が・・・いや、問題はそこでは無い。
以前の私ってトイレに行かずに部屋とかでお花摘んでたのか?
何してんだよ、男の立場でも恥ずかしいぞ。
「知らなかった。アミュリーアごめんね」
「このアミュリーア、城が出来て300年。色々と怪異を見て来ましたが
今ほど驚いた事は有りませんよ。あの姫様が私に謝るなんて」
そこまで言うかーー、




