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第32話、逃げられない自分

「姫様あの木の上を見てくだされ」


「えっ、どこどこ?」


「珍しい木の実が実っておりますぞ。甘くて美味しいので高価なのですじゃ」


「あっ、あれってジャガコーンの実だ♡」


「じゃがこーん?。そんな名前でしたか。

それはともかく、姫様の剣で落として下され。後はわしの魔法で受け止めますじゃ」


「うん、分かった。皆で焼いて食べよう」


以前は魔物に憑依してやっと収穫した美味しいジャガコーン(私の造語)だけど

今は手元に聖剣X狩場が有る。


自在に長さを伸ばせる魔法の(やいば)で次々と巨大な木の実を落としていく。


それを大きく広げたトゥルゲルトさんの浮遊魔法が受け止めてゆっくりと下ろされてくる。


あれ以来、時間が有る時に暇つぶしに聖剣で遊んでいた。


今では繊細な作業も問題無いほど自在に聖剣を扱えるのよ。フフン♫


「真に残念ですのぅ。姫様は内在する魔力も豊富、さらにコントロールも見事。

これで魔法の才がございましたら世に名を残す大魔法使いに成れますものを・・・」


「おとっつぁん、それは言わない約束でしょ。オヨヨ」


「おとっつぁん?とは何ですかな。確かに言っても栓無き事でしたな。

(わしの知る全ての魔法を伝授したかったのぅ・・・)」


宮廷魔導士のトゥルゲルトさんが落ち込んでいる。


だが、私には分かる。そんな才能があったらトゥルゲルトさんはメチャクチャな

スパルタ教育で私を(しご)きまくるだろう。


老い先短い老人の楽しみだ、とか言って容赦なくビシバシと。


くわばら、くわばら



今日の夕食は収穫した木の実と、これまた聖剣で撃ち落とした巨大な鳥の肉を皆で焼いて食べた。美味しかったよ。



そんな夕食後の会話で無視できない情報を聞いた。


「大聖女選定の儀?私も参加するのですか?」


「あぁ、別にファルナリーアだけではないぞ。その時点で聖女と確認されている者は身分に関係なく全ての者が参加して選択を受けるのが各国で共通する決まりだ。

参加者の中から選ばれた一人だけが特別な神の力を授かる事ができる儀式なのだ」


聖女が全て・・・か。


セルシニアお嬢さんも当然参加するだろうな。


気まずい・・・。


「それが今年なのですか・・・私は来年参加したいです」


「それはダメだな。全員参加が決まりだ。

それに選定の儀は10年に一度しか行われない。」


「じゃあ、十年前に選ばれた大聖女は引退するの?」


「ははは、前回は誰も選ばれなかった。必ず選ばれる訳では無いのだ。

だからこそ全ての人々が大聖女の誕生を切に望んでいるのだよ」


自称、私の父親を名乗るオッサン、アレクトレウス皇太子?はニコニコと嬉しそうに

私ファルナリーアを見ている。


その目は自分の娘こそが大聖女に選ばれると思っているのが丸わかりだ。親バカめ。


それにしても大聖女候補って沢山いるのかな?


自分が知る限り、セルシニアお嬢と回復魔法を使う聖女アーレナの二人だ。


あぁ、そう言えば・・・あの教団で暴れたババアも聖女を名乗ってたな。


アレは無いな。

何度参加しても選ばれないからこそ あんな事してるのだろうし・・・。


それにしても、今度は聖女コンテストか・・・

この世界でこの体になって以来、色々有って落ち着かない。


いよいよ明日には皇都に到着するらしい。


どうなる事やら・・・。




*******************************




僕はアステリア・ホルムステル。


今日もセルシニアお嬢様に付き合わされ、

聖女様世界征服ゴッコで駆け回り盗賊団のアジトを潰して来た。


教祖(セルシニア)・・・さま。

資金もだいぶ溜まって来ました。

宗教を立ち上げるとの事ですが、その中身を

どの様な教義にするか考えてるんですか?」


食事時にする話では無いけどまぁ良いか。


出来るならこの子の暴走を止めたいし避けて通れないしな。


「以前も言ったが、作るのは聖女を神の使いとして(あが)めさせる宗教だ。

そのあたりは西洋の一神教のやり方をパクる。

信者に教える教義は仏教からパクれば問題無いだろ。前世の日本でも新しい宗教が

仏教の教えを自分の教えみたいに盗用しまくってたからな」


「夢を見るのは勝手だけど、そんなの通用するの?ここは異世界だよ」


「通用するさ。

何故なら聖女の能力だけで人外なのに大聖女はそれ以上に(すご)いらしいからな。

目の前に奇跡の現物が有るんだからな地上に顕現した神のようなものだ。

少なくとも俺に偉そうに指図する奴は居なくなる」


「オーケー、了解。大体の筋書きは理解したよ。

まずは君が大聖女とやらに選ばれなければ話にならないね。

それが終わるまではこのまま資金調達する方針で良いね」


「う、うむ・・・それもそうかな」


良かった、これでしばらくは教主セルシニアの暴走を抑えておけるぞ。


でもなぁ、本当に彼女が選ばれて大聖女に成ったら歯止めが利かない。


どうしよう・・・下手に刺激したら既存の宗教に弾圧されるぞ。


ここは日本とは違うんだぞ、信教の自由なんて無いんだ。


邪教にされて火あぶりの刑になるのは嫌だよ。



「あのね・・・セルシニアさん」


「教祖様と呼べと言っただろ、でなに?」


「新しく宗教を作るならこの世界の宗教を知って無いと理屈で負けるよ。

だから少しは勉強した方が良くない?」


「勉強?、どうやって調べる気だ。とんでもない時間が掛かるぞ」


「僕たちは仮にも貴族だし、直接聞きに行った方が早いよ。

まだ敵対してる訳でも無いし、興味を持たれた事に喜ばれるさ」


「説教を聞けってか・・・嫌いなんだよな」


君はその嫌いな事を始めようとしてるの分かってる?









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