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第29話、戦乙女のファルナ

傭兵団闇夜のカラスの騎馬軍団総勢107名は素早く横に展開し鶴翼の陣を作り出す。


下手な騎士団など足元にも及ばない見事な練度だ。


そして私、ファルナは急ぎ 馬から飛び降りた。


「姫様!何を・・・」


トゥルゲルトさんが焦っているが問題は無い。


何か焦るというか悲壮感が有るような・・・


謎生物コロタンの身体能力がコピーされているからケガなどしないのに。



「全騎その場で待機しててくださいね。私より前に出てはいけませんよ」


振り向いて指示を出しておく。


あまり前に出すぎると過保護な三人が心配して飛び出して来るので10メートルほど前に出るだけにした。


どう見ても子供の軽はずみな行動に見えそうだが、百人以上の大人たちが何も言わず

事の成り行きを見守っている。


それほどに聖女の称号は重いのだろう。


期待は裏切らないと思うよ。



ぶっちゃけ、この場に巨大化したコロタンを出せば全て終わる。


コロタンに「敵方の馬を好きなだけ食べて」と言えば嬉々として襲いまくるだろう。


それだけで敵軍が瓦解するのは確実。


もう一つはファルナ自身が相手の騎士に憑依するいつもの作戦。


トゥルゲルトさんはこの事を知ってるから使う事を心配されたのかもね。



この二つの奥の手は衆目の中で使いたくない。


どれほどの諜報員がこの戦いを監視しているか分からないからね。


なら打てる手は一つだ、私に憑依しているコロタンの特殊能力を使いまくる。


わざわざ前に出たのはその為だよ。




私が前に出たからか、敵の軍勢から騎士が一騎で駆け寄って来る。


ピリピリと後ろの自軍が警戒度を上げた。



「お尋ねもうす。そちらに居られるのはファルナリーア皇女殿下で間違い無いか?」


「馬上から尋ねるとは無礼千万。その通り皇女、と名乗ったなら何とするか」


ラノベ読んでたし、ゲームでも使われてたから この手の偉そうな物言いは得意だ。


というか一度は言ってみたかった・・・前世はリアルで中二だったしね。



「ならば覚悟されよ。10倍以上の戦力は(くつがえ)せぬぞ、ここで死んでいただく」


「出来るものならやってみなさい。貴方達はたった一人の子供を殺すのに100人以上の無関係な者を巻き込んで殺す犯罪者だよ。私が聖女の名にかけて断罪します」


「・・・その覚悟はできている。やれるものならやってみるが良い」


役目を終えたのか 騎士は自軍に戻っていく。


覚悟はできている・・・か。


上司の命令には不本意でも逆らえないサラリーマンかよ。


カッコ良く見える騎士の世界も世知辛いものだ。



明確な宣戦布告で戦いが確実となり 両軍から殺気が立ち昇る。


私は聖眼を隠していた眼帯を外し美幼女となった顔を(さら)す。


これはフェイクの行動。


時としてパフォーマンスは大事なのだ。



「がおぉーーーーーーーっ」


囁くほど小さな声でライオンを真似て吠える。


その途端、敵側の騎馬が半狂乱となって暴れ出し、

乗せていた騎士が数メートルの高さから地上に跳ね落とされていく。


さらに運の悪い者は馬に踏み潰され、

命を落とすか一生を不自由な体で生きる事になった。


騎馬隊の周りを守っていた歩兵部隊も暴れ狂う馬に蹴散らされ大混乱になっていく。


ごめんね。と心の中で詫びる。


戦争とはグロくて悲惨で可哀そうなものなのだ。


始めてしまったら終わりなのだ。



今の様子を見れば、誰もが私の聖眼の力が働いたものと勘違いするだろう。


私たちを監視している敵の諜報員も(あざむ)く事が出来た、と思う。



タネ明しをすると コロタンが使う咆哮(ハウリング)をなるべく声に出さずに敵軍に向けて放っただけ。


一種の超音波かな。


何だそれは?と言いたくなるが

恐らく人間には聞こえない周波で放射される類のものだろう。


馬たちには可哀そうだけど間近(まぢか)で恐ろしい魔物が吠えたように聞こえたはずだ。


その結果、恐れ(おのの)き全力で暴れて背中の邪魔な騎士を振り払い

逃げに転じたのだ。



とは言え、私が使うハウリングは本家(コロタン)のそれの劣化版(れっかばん)でしかない。


コロタンと出会った時を思い出して欲しい。


本当なら敵の馬も人も全員その場で気絶したはずだ。


でもま、とりあえず、主軸となる戦力の騎馬隊が全滅状態だし勝ちは勝ちだよ。



「傭兵団闇夜のカラス、全軍突撃。敵を無力化せよ」


自軍の馬には「恐怖の声」を向けていないので影響は無かったけど、

人間達は何が起こったのか分からずに呆然としていた。


「‼ぜ、全軍突撃ぃーーーーっ」


後は言うまでも無く掃討戦であり私の出る幕は無い。



「ファルナリーア様、お見事です。

何時の間にこのような戦術を覚えられたのですかな」


「うむ、さすが皇家の血筋だ。自軍に一人の犠牲も出さないとは」


「わたくしの活躍の場が・・・」


皆は子供が戦乱に手を出した事を咎める訳でも無く、むしろ褒め称えて来た。


一人の変態女騎士は何故かガッカリしていたが。


にしても幼女が戦場に出て褒められる世界とは・・・。




傭兵団「闇夜のカラス」は雇い主の裏切りで今回の収入が無い。


大所帯の彼等にとっては死活問題だ。


そこで彼等には敵軍が持っていた軍資金をはじめとして捕縛した騎士の武器や装備、歩兵の残した武器、それら全ての権利を与えた。(追い剥ぎ させたとも言う)


そして、彼等 闇夜のカラスの総勢107名は私に(なつ)いた。


「我ら闇夜のカラスはファルナリーア皇女殿下に命と名誉を救われました。

長らく主君に恵まれない我が軍団でしたが今ここに心から仕えるべき主を得ました。

姫殿下に我らの忠義の剣を受けていただきたく願いまする」


そう言って軍団長フラスコンナ・ランドレイクは私に自らの剣の柄を向けて来る。


ええーっ!マジデスカ


こんな幼女の私に正式な手順を踏んでまで 騎士としての忠誠を誓ったのだ。


「姫様、彼等の願いは騎士として臣従する事です。

願いを受けるなら剣を持って剣先を彼の肩に置き忠誠を受ける事を示してくだされ」


トゥルゲルトさんがそう教えてくれるのだが、


こんな幼女に命を預けるなんて正気か?。



周囲を見ても至極真面目な顔をしている。


特に不思議な事でも無いのだろう。


これにはトゥルゲルトさんとロリコン男も何故か賛成していた。


今も男心を失っていないファルナリーアがこんな映画のようなシチュエーションに

感動しないはずが無い。厨二心が真っ赤に燃えたよ。


差し出された柄を握り、私の身長より大きな鋼の剣を片手で持ちあげる。


≫おおっ・・・≪


後ろで護衛の騎士達がどよめく。


従魔から借りたチートな腕力なので長い剣も軽々持てるのですよ。


前世のイギリス女王が騎士に任命するシーンを思い浮かべ真似をする。


多少は所作の違いが有ると思うけど、私は記憶喪失の設定だしオッケーだろう。


剣身を寝かせて彼の肩の上に置く。


「ファルナリーアの名において命ずる、これより傭兵団 闇夜のカラスは我が剣となり我が前に立ちふさがる敵を打ち滅ぼせ」


「あり難き幸せ、我らの命に掛けて忠誠を誓いますぞ」


「何と見事な口上、さすが姫様・・・」


ノリと勢いで彼等を私の騎士団にしてしまった。


それ即ち私の下に『就職』したと言う事。


100名以上の人間の生活を保障する事を意味する。


ああああ、どうしよう給料。先立つものが無い。




だが心配する必要は無かった。


大国の皇女ファルナリーアにはこの程度の兵を養う程度は苦にならない

膨大な個人資産が有るとの事。


少し前 死にそうなほど空腹だった あの浮浪児の私・・・


今は国家予算クラスの大金持ち、


何?その境遇。


最近は世の中の理不尽を次々と味わうファルナです。



幸か不幸か、この後は旅の間に刺客が襲って来る事が無かった。


こちらの戦力増強は思ったよりも効果が有ったらしい。


「いやはや、姫様の実力は諜報共の報告で不埒者達に伝わった事でしょうな」


などと、トゥルゲルトさんは気楽に笑ってる。






*********その頃、



もう一人のとんでも幼女が精力的に?暗躍していた。


「こんなものかな。たわいも無い」


「いや・・・盗賊とはいえ全員惨殺しておいて平気なのもどうかと思うよ」


「俺は前世でも人を殺した事が有るからな。

合法で殺せるこっちの世界なら楽なものだ。何の問題も無いぞ」


「えぇーーーっ・・・・」(汗



ここは とある盗賊団のアジト。


今現在は爆撃された廃墟のようなボロボロの部屋に多くの(むくろ)が転がっている。


「アステリアはこいつ等の(ふところ)(あさ)って小銭を集めろ。私は盗賊のお宝を捜し出す」


「ええーっ、このグロい死体に触るのですか?勘弁して下さい」


「早くしろ。前世では坊主だったんだろ、死体なんて()れっこだろが」



セルシニアの父、領主のクレセントスは大国のリリセンティア皇国が隣国を蹂躙している情報を得て隣国との国境を守るべく急遽(きゅうきょ) 自領に引き返した。


ところが、今度は突然の終戦の情報に困惑させられる。


争いが終わったとは言え、しばらくは情勢を見ると共に自領の防衛に注力し奔走する事に成る。


そして領主と行動を共にしていた娘のセルシニアも同じく王都行きは延期する事となった。


領地に帰ったセルシニアは父親が多忙な事を幸いに活発に動き出した。



まずは以前はコントロールできなかった膨大な魔力の制御に成功。


次々と魔導士レベルの魔法を習得し、自在に使いこなす。


この世界の魔法は《《才能とイマジネーション》》の世界。


知識だけでは使えず、使える者は自然と使える理不尽な世界。


そう、ファルナが使えずに挫折した魔法、

その才能をセルシニアは十全に兼ね備えていたのだつた。


さらに悪い事に彼女は生来から規格外の魔力を所持する稀有な存在である。


そんな発火寸前の火薬のような個体が

前世の野心家だった人生の記憶と性格を発現させた。


彼の前世は日本人、エンタメという想像から生まれた様々な魔法を知っている。


セルシニアは自身の才能も相まって自在にそれを実用化した。


そんな彼女は今日も下僕のようになった他領の子息アステリア・ホルムステルを

従えて資金調達目的の盗賊退治をしていたのである。



「こんな奴ら殺したってかまわないわ。母親代わりのファルナを殺したんですもの」


「ええっ!、あの子殺されたのか?」


「ん?・・あぁ、そっちのファルナじゃないわ。先任の専属侍女だったオバサンよ」


セルシニアの言葉や考えには以前の彼女の性格が滲み出ている。


完全に消えてしまった訳では無いらしい。


「あらあら、私の従者はやっぱり幼女のファルナにメロメロだったのね」


「体裁悪いから従者って言うな。それにメロメロとか今時は言わないぞ」


「中身がオッサンなのにねーっ。ロリコン」


「ちがーう」


子供同士のじゃれ合いにしか見えない会話で楽しそうですらある。



死体の転がる廃墟でなければ・・・



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