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1、ぼろぞうきんです

(くさい・・)


気が付けば酷い悪臭が鼻を突く。

この体は食中毒か何かで一度死んだのかもしれない。

汚い話で悪いけど、苦しんで出したであろう汚物まみれで 体はドロドロ。他にも色々な悪臭がする。


因果応報とは言え 酷い転生だね。

確認するまでもなく 以前の自分の体とは明らかに違うから転移したのでは無いだろう。

いや、転生と呼べるかどうかもあやしいかな。

死んだ人の体を乗っ取ったのかもしれない。

あるいは、これが元々自分の体で突然記憶が戻ったか。


どちらにしても 目覚めた時にはこの体だった。

そして、なぜか自分は前世の記憶を失っていない。

その代わりなのか この体の持ち主の記憶は殆ど無い



ふらつく足で何とか立ち上がる。

ガリガリに痩せていて 立つのもキツイんだ。

こんな体でよく生きていられるものだと思う。

なんか視界が変だと思ったら、片目が見えないし。


今の体の記憶に残されているのは日本語ではない言葉。しかも語呂は少ない。

いや、たったそれだけでも助かる。

この状態で言葉すら分からなければ終わりだよ。

目覚めたばかりなので現状を把握できていないけど、手を見れば自分が小さな子どもの体なのは分かる。


どうやら 今の自分は幼い子供で おそらく孤児。

ボロボロのゴミのような服を着ているところから見ても浮浪者なのだろう。


さらにまずいのは、この体が女の子だという事だ。

最も生存率が低いだろう最悪な転生じゃないか。


詰んでるよ・・・普通ならね。




とりあえず、臭い体を何とかしたい。

とは言え 此処は貧民街のようで井戸すら無い。

見渡すと 同じような汚れた姿の人間達が居るだけだ。

自分の事で精一杯なのか、幼女が困っていても助ける者などいない。


もっとも 変質者ですら今の自分を見たら敬遠するだろう。

生きた生ゴミみたいだという自覚は有るよ。うん。




「おっ」


道の向こうをガキ大将の男の子が歩いて行く。

試してみようかな・・アレ。

これが出来なければ今直ぐ生きるのを諦められる。


その子供に狙いを付け集中すると次の瞬間には自分の視界が男の子のそれに代わり、汚い幼女の体が消えた。

俺が前世から持っている特殊な能力で憑依をしたのだ。


よかった・・。

これが使えなければ間違いなく野垂れ死にだろう。



************




男の子は同じ境遇のはずなのに体はしっかりしていて普通に歩ける。

ブカブカではあるがクツまで履いていた。

彼の体を借りて水場まで運んでもらおう。


この少年は自分よりも行動範囲が広いらしく 街中の様々な場所や道を知っていた。

生きるための知識も豊富で参考になる。


それによると 普通の井戸を使おうとしても浮浪者は追い払われるらしい。普通は夜にコッソリ水を飲みに行く。

このまま夜まで汚いのは嫌だし、街の外には川が有るそうなので そこに行こうと思う。


しかし、街の外に出ようと考えたとき、少年の記憶が反対する。

一度外に出ると 浮浪者は街に入れない可能性が高いようだ。

おまけに野獣や魔物が出るらしい。


魔物?。


誰かが何も知らない子供をからかったのかな?。

今時 魔物で恐がる子供がいるなんて驚きだぞ。

しかし、野獣は居るかもしれない。

明らかに日本では無い国だし、その手の危険は有るだろう。




大通りに近づくと目の前に一人のゴロツキの男が立ちふさがった。少年の体が急に怯えて竦んでしまう。


「やっと見つけたぜ。

てめぇ、この前のガキだな。生きて帰さねぇぞ」


何したんだ少年!。

男の目はマジだ、殺される。



と言うわけで、ゴロツキの体を乗っとりました。

急に意識を取り戻した少年は泣きながら謝っている。


「ほらよ、これで何か食いな」


「えっ・・」


ここまで運んでくれた少年にお駄賃をあげます。

自分のお金じゃないから問題ない。

男の記憶を見れば悪い事で得たお金だし、財布ごとあげよう。


呆気にとられている少年を置いて大通りに繰り出す。

この男は悪党みたいだし、このまま外に運んでもらっても良いかな。


そう思っていたのに・・。




「貴様、指名手配の男だな。よくも堂々と出てきたものだ。逮捕する」


警邏の騎士らしき数人に取り囲まれていました。

それにしても騎士?。しかも現役で働いているようで、何かのイベントという訳でも無いらしい。


そう言えば、町並みも中世ヨーロッパ風だし、昔の西欧に転生したのかな?。それなら街の外にオオカミなどの野獣が居ても不思議ではないか・・。


剣を咽もとに突きつけられたので 大人しく捕まりましたよ。捕まったのは他人であって自分じゃないし。



いきなり殺されても困るので騎士の一人に憑依した。

正気を取り戻したゴロツキは 捕まった事を知ってジタバタするが後の祭り。

不自然にならないように騎士の記憶をたどり、仲間の騎士達とゴロツキを連行していく。


しかし困った。このままでは外に行けなくなる。

騎士の人は良い人みたいだし、職場放棄で外に出たら迷惑がかかるだろう。それくらいの自重をする良心は自分にもあるのですよ。

相手が宗教なら容赦しないけどな。

などと思案しているうちに警邏の騎士が拠点にしている建物が見えてきた。



「おい、貴様ら。その男は何だ」


「はっ、この者は指名手配中の殺人犯であります。先ほど我々が逮捕いたしました」


「うむ、そうか。ご苦労。後は私が処理しておく、貴様らは職務に戻るように」


「はっ・・・」


この上官は 部下の手柄を横取りして出世する男のようだ。

この件も自分の手柄にする気なのだろう。

憑依してる宿主の記憶に強い憎しみが残っていた。

なんか、自分の事のように腹が立つ。



「あっ、いや。俺は他に大事な用事が有った。すまんが この男は君たちが報告してくれ」


「はっ、承知いたしました」


なので上官の騎士に憑依して乗っ取った。

警邏の騎士達は晴れやかな顔で建物の中に入っていった。



こんな男が何故上官なのかと思ったら、どうやら貴族の4男で家を継げず、かろうじて騎士の職に付いているらしい。

実家の威光をかさにきて 色々と悪辣な事もしているようだ。

チンピラが権力を持ったタイプの男だね。

とんだ不良騎士である。


ふっふっふっ、この悪党な上官なら何しても良いな。

男の財布にはそれなりのお金が有る様なので使わせてもらおう。外に行く前に色々と買っておく事にする。



最初は自分用の衣服を買う。


自分の着ていたものは 服とは呼べないボロ布で、体を洗ってもアレでは意味が無いからね。


子供用の衣服を買い漁る男に女性からの冷たい視線が降り注ぐ。

この国でも 普通は母親が買うものらしく、ムサイ男が子供の下着を買うなど有り得ないようだ。

言うまでも無く、この男が変質者と思われても他人事だし ぜんぜん気にならない。


リュックみたいなバッグも買って衣類を入れていく。


次は当然 食べ物だ。

手さげカゴのような物を買って屋台の料理を入れていく。

ついでに護身用のナイフも買った。

準備が出来たので安心して川に向かおう。

こちらの門から外に出れば川が近いと男の記憶にある。




街を囲む城壁は5メートルほどの高さを持つ。

帰りも誰かに憑依しなくては街に入れないだろう。


男は部下の騎士達に嫌われているらしく、門から外に出ても門番は全く心配しないようだ。好都合である。


門から出ると広い畑の中を街道がまっすぐ伸びている。

広い畑をすぎると やがて草原に変り、その先には森と川が有る。大人の足で3時間くらいかかるようだ。


歩いて行く時間が退屈なので 男の記憶を覗いて見ると色々な情報が得られた。

この国はフェリテリュス王国で、さっきまで居た街はシスティリーヌと言うらしい。

この辺一帯の領都でもあり、かなり広さと規模をほこる。


それはまぁ良い。

それよりも見過ごせない項目が男の記憶に有った。


「魔法?」


良い歳をした大人が魔法なんて信じているのかよ。


男も火の魔法が使えるとある。

いわゆるファイヤーボールが使えるらしい。

試したりしないよ。

オッサンの厨二病に付き合ってられないし。

今は生き残ることが先決だ。



川の近くまで来たので、木の陰に荷物を隠してから 今度は街に向けて歩く。

しばらく歩いてから離脱して 木の上の鳥に憑依した。

不良騎士の男はキョロキョロとあたりを見回し、しばし呆然とした後、街に帰って行った。


自分は飛び立って荷物が置いてある場所に戻る。

鳥に成って空を飛ぶというのは気持ちが良いな。


食事の入ったカゴに降り立ち、買って来たパンを食べる。

運んでくれた鳥にお礼をしたのだ。


鳥から離脱して 元の汚い幼女にもどった。

荷物の中から石鹸らしき物と タオル代わりの布を取り出して川に近づき、着ていたボロを脱ぎ捨てる。


水面に写った自分の顔は可愛いのだが、左目のあたりに刃物で切られた後がザックリ残っていて痛々しい。

こんな小さな子供に酷い事をするものである。

おまけに お腹のへその上には紋章のような刺青がある。


これでは女性としての幸せは望むべくも無いな。

まぁ、そんなもの全くいらないけど。



川の水は冷たくて辛いが、とにかく耐え難い体の臭いを何とかしないと 食べてもまた出してしまいそうだ。

今の体は手足が骨のように痩せ細り、腹だけが妙に肥大した典型的な欠食児童の姿だ。我ながら痛々しい。


少ない面積を洗い終わり、髪の毛も洗う。

肩まで届かない髪は切りそろえた訳ではなく、痛んで途中から切れた感じだ。

ボサボサの髪は洗ってもまだゴワゴワしている。


汚れだけは落ちたのか 不快な臭いは殆どしなくなった。

きれいな布で体をふいていく。単なる布なのに高価だった。

ボロでも服を着ていたのは良い方だったのかもしれない。


買ってきた中古の子供服を着て ようやく食べ物にありつく。

死ぬほど空腹なのに思ったほど食べられなかった。

お腹はポッコリと膨らんでいるのに胃袋は小さいらしい。


日差しは暖かく 川の水で冷え切った体を温めてくれる。

休みながら これからの事を考える。


憑依した人たちの記憶から情報は得られたが、その量は少ない。

見えない片目は 取りあえず化膿してはいないようなので一安心だ。何かで隠していれば他人に不快感は与えないだろう。


そしてもう一つ、この子の記憶には自分の名前が無かった。

そこからか・・






自分はなろうで異世界物の小説を読むようになってからテンプレという言葉が使われている事をしりました。文章作成ソフトでテンプレ書式を使うので理解は早かった気がします。

言葉としては新しいですが小説の世界では昔から有りますよね。

例えば推理小説では事件が起こって探偵が出てきたり警察がでたり殺人が・・と色々有りますが

テンプレとして使えるのは基本的な部分だけで、それ以上他人の真似をすればその世界の読者からは軽蔑されます。

異世界ものとしては何処までがテンプレなのでしょうか。

プロの作家さんはそのラインを何処に置くかで作者の品性が問われるかも知れません。

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