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1、ぼろぞうきんです

「うっ・・・・うえぇーっ!?」くっ、くさっ・・


気が付けば酷い悪臭が鼻を突く。


目を開けると空が見える。

ボロい建物に挟まれた変な色の青空?だ。


起き上がろうとしたけど体が重くて思い通りに動けない。


体をひねってうつ伏せに転がし、手足を使ってやっと地面にさようなら。


とはいかず地べたにヘニャッと座り込んだ。



「うわっ、・・・ナニコレ」


そこはゴミ捨て場のようにゴミが散乱している狭い路地。


「汚ねぇ街だな・・・」


喉から出て来る声はか細い響きにしか聞こえない。


この時に成って自分の手足を見下ろす・・・もっと酷かった。


汚い話で悪いけど 汚物まみれで 体はドロドロ・・・色々な悪臭がする。


かろうじて裸では無いが身に纏っている物は服と呼べる物では無い。


??・・・・・


・・・・・・・・・・


これは・・・転生・・したのか?




しばし唖然とした後に出た答えはコレだった。


まさかネット小説のたわ言を自分で体験するとは。



それにしても・・・因果応報とは言え 酷い転生だ。


明らかに以前の自分の体とは違うから転移したのでは無い。


どちらにしても 目覚めた時にはこの体だった事実は変わらない。


大事なのは今の状態だ。



なぜか前世の記憶を失っていない。


その代わり、なのかどうか知らないが この体の持ち主の記憶は殆ど無い。


残されているのは日本語ではない謎の言葉だけ。


いや、それだけでも助かる。


この状態で言葉すら分からなければ終わりだよ。



それはともかく


ふらつく足で何とか立ち上がる。まるで老人だ。


ガリガリに痩せていて筋肉が無いから 立つのもキツイんだ。



さらに視界が変だと思ったら、なんと!片目が見えません。


はぁ・・・こんな体でよく生きていられるものだ、と思う。





目覚めたばかりなので現状を把握できていないけど、

手を見れば自分が小さな子どもの体なのは分かる。


どうやら 今の自分は幼い子供で おそらく孤児。


ボロボロのゴミのような服を着ているところから見ても浮浪者なのだろう。


さらにまずいのは、この体が《《女の子》》だという事だ。


最も生存率が低いだろう最悪な転生じゃないか。


ハイ、現状確認終わり。


詰んでるよ・・・



普通ならね。





とりあえず、臭い体を何とかしたい。


見渡すと 同じような汚れた姿の人間達が居るだけだ。


自分の事で精一杯なのか、幼女が困っていても助ける者などいない。


もっとも今の自分を見たなら 変質者(ペド野郎)ですら敬遠するだろう。


歩く生きた生ゴミみたいだ、という自覚は有るよ。うん。


まぁ自虐は止めよう。


ふらふらと裸足で歩き出す。


無情にも 此処は貧民街のようで井戸すら無い。



「おっ」


路地から出ると少し広くなった道の向こうをガキ大将の男の子が歩いて行く。


名前は知らないけど顔は知ってるのだよ。


うーん ・・・・・・・・・・・・。


試してみようかな・・アレ。


これが出来なければ・・・今直ぐ生きるのを諦められる。



その子供に狙いを付け集中する、刹那の飛ぶような感覚。


次の瞬間には自分の視界が男の子のそれに代わり、汚い幼女の体は消える。


俺が前世から持っている特殊な憑依(ひょうい)をしたのだ。


よかった・・。


これが使えなければ間違いなく野垂れ死にだろう。




男の子は同じ境遇のはずなのに体はしっかりしていて普通に歩ける。

ブカブカではあるがクツまで履いていた。


彼の体を借りて水場まで運んでもらおう。


この少年は自分よりも行動範囲が広いらしく 街中の様々な場所や道を知っていた。

街で生きるための知識も情報も豊富で参考になる。


それによると 普通の井戸を使おうとしても浮浪者は追い払われるらしい。

普通は夜にコッソリ水を飲みに行くとのこと。


しかし、このまま夜まで汚いのは嫌だ。

街の外には川が有るそうなので そこに行こうと思う。


だが街の外に出ようとする考えには少年の記憶が激しく抵抗する。


浮浪者は一度外に出ると 二度と街に入れない可能性が高いようだ。


おまけに門の外には野獣や魔物が出るらしい。



魔物?。


今時 魔物で恐がる子供がいるなんて驚きだぞ。


誰かが何も知らない子供に嘘を教えたのかな?。


しかし、野獣は居るかもしれない。

明らかに日本では無い国だし、その手の危険は有るだろう。




大通りに近づくと目の前に一人のゴロツキの男が立ちふさがった。


少年の体が急に(おび)えて(すく)んでしまう。


「やっと見つけたぜ。

てめぇ、この前のガキだな。今日こそ生きて帰さねぇ」


あの男に何したんだ少年!。


男の目はマジだ、殺される。



と言うわけで、ゴロツキの体を乗っとりました。



男の目線から見下ろすと、急に意識を取り戻した少年は泣きながら謝っている。


「ほらよ、これで何か食いな」


「えっ・・」


ここまで運んでくれた少年にお駄賃をあげます。

自分のお金じゃないから問題ない。

男の記憶を見れば悪い事で得たお金だし、財布ごとあげよう。


呆気にとられている少年を置いて大通りに繰り出す。


体が前世?くらいに大きくなったので動きやすい。


この男は悪党みたいだし、このまま外に運んでもらっても良いかな。


そう思っていたのに・・。




「貴様、指名手配の男だな。よくも堂々と出てきたものだ。逮捕する」


などと言われ、警邏の騎士らしき男達数人に取り囲まれていました。


それにしても騎士?。コスプレかな


態度を見れば真面目な表情だし、何かのイベントという訳でも無いらしい。


本物だと考えるべきか・・・



そう言えば、町並みも中世ヨーロッパ風だし、昔の西欧に転生したのかな?。


それなら街の外にオオカミなどの野獣が居ても不思議ではないか・・。



剣を咽もとに突きつけられたので 大人しく捕まりましたよ。


捕まったのは他人であって自分じゃないし。



いきなり殺されても困るので騎士の一人に憑依した。


正気を取り戻したゴロツキは 捕まった事を知ってジタバタするが後の祭り。


騎士の記憶をたどり、不自然にならないように仲間の騎士達とゴロツキを連行していく。


しかし困った。このままでは外に行けなくなる。


騎士の人は良い人みたいだし、職場放棄で外に出たら迷惑がかかるだろう。


それくらいの自重をする良心は自分にも有るのですよ。


相手が宗教なら容赦しないけどな。


などと思案しているうちに警邏の騎士達が拠点にしている建物が見えてきた。




「おい、貴様ら。その男は何だ」


「はっ、この者は指名手配中の殺人犯であります。先ほど我々が逮捕いたしました」


「うむ、そうか。ご苦労。後は私が処理しておく、貴様らは職務に戻るように」


「はっ・・・」


この上官は 部下の手柄を横取りして出世する男のようだ。

この件も自分の手柄にする気なのだろう。

憑依してる宿主の記憶に強い憎しみが沸き立つ。

なんか、自分の事のように腹が立つ。



「あっ、いや。

俺は他に大事な用事が有った。すまんが この男は君たちが報告してくれ」


「はっ、承知いたしました」


なので上官のチンピラ騎士に憑依して乗っ取った。


警邏の騎士達は晴れやかな顔で建物の中に入っていった。



こんな男が何故上官なのかと思ったら どうやら貴族の4男で家を継げず、

かろうじて騎士の職に付いているらしい。

実家の威光をかさにきて 色々と悪辣な事もしているようだ。

チンピラが権力を持ったタイプの男だね。

とんだ不良騎士である。


ふっふっふっ、この悪党な上官なら何しても良いな。

男の財布にはそれなりのお金が有る様なので使わせてもらおう。

外に行く前に色々と買っておく事にする。



最初は自分用の衣服を買う。


幼女な自分が着ていたものは 服とは呼べないボロ布で、

体を洗ってもアレでは意味が無いからね。


まずは男の情報をコピーして金銭の価値と使い方をおぼえた。



「ヒソヒソ・・・」 「ヒソヒソ・・・」


子供用の衣服を買い漁る男に女性から汚物を見るような冷たい視線が降り注ぐ。

ムサイ男が女児の服や下着を買うなど有り得ないのだろう。

言うまでも無く、この男が変質者と思われても ぜんぜん気にならない。


子供でも荷物が持てるように リュックみたいなバッグも買って衣類を入れていく。


次は当然 食べ物だ。

手さげカゴのような物と木製の器を買って屋台の料理をテイクアウトする。

ついでに護身用のナイフも買った。


とりあえず 準備が出来たので安心して川に向かおう。


男の記憶には こちらの門から外に出れば川が近いとある。




街を囲む城壁は5メートルほどの高さを持つ。


確かに浮浪児の自分は身分証も無いし、 帰りも誰かに憑依しなくては街に入れないだろう。


男は仲間の騎士達にも嫌われているらしく、

門から外に出ても門番は全く心配しないようだ。実に好都合である。



門から出ると広い畑の中を街道がまっすぐ伸びている。

広い畑をすぎると やがて草原に変り、その先には森と川が有る。

大人の足で3時間くらいかかるようだ。



歩く時間が退屈なので 男の持っていた情報を覗いて見ると色々な知識が得られた。


この国はフェリテリュス王国で、さっきまで居た街はシスティリーヌと言うらしい。


この辺一帯の領都でもあり、かなり広さと規模をほこる。


それはまぁ良い。


それよりも見過ごせない項目が男の記憶に有った。


「魔法?」


男は火の魔法、いわゆるファイヤーボールが使えるらしい。


良い歳をした大人が魔法なんて信じているのかよ。


えっ、試したりしないよ。


オッサンの厨二病に付き合ってられないし。


今は生き残ることが先決だ。



川の近くまで来たので、木の陰に荷物を隠してから 今度は街に向けて歩く。


しばらく歩いてから男から離脱、木の上の鳥に憑依した。


不良騎士の男は立ち止まったままキョロキョロとあたりを見回し、

しばし呆然とした後、街に帰って行った。



鳥の自分は飛び立って荷物が置いてある場所に戻る。


自力で空を飛ぶというのは気持ちが良いな。


何かに乗って飛ぶのではなく自分の意志で飛ぶ感覚は他では体験できないものだ。



小鳥のまま食事の入ったカゴに降り立ち、買って来たパンを食べる。


運んでくれた鳥にお礼をしたのだ。



満足したので鳥から離脱して 元の汚い幼女にもどった。


荷物の中から石鹸らしき物と タオル代わりの布を取り出して川に近づき、

着ていたボロを脱ぎ捨てる。


水面に写った自分の顔は可愛い。

だが、左目のあたりに刃物でザックリ切られた後が残っていて痛々しい。

誰かは知らないが こんな小さな子供に酷い事をするものである。

おまけに お腹のへその上には紋章のような刺青(いれずみ)がある。


これでは女性としての幸せは望むべくも無いな。


まぁ、そんなもの全くいらないけど。



川の水は冷たくて辛いが、とにかく耐え難い体の臭いを何とかしないと 食べてもまた吐き出してしまいそうだ。


体は手足が骨のように痩せ細り、腹だけが妙に肥大した典型的な欠食児童の姿だ。


我ながら痛々しい。



少ない面積を洗い終わり、髪の毛も洗う。

肩まで届かない髪は切りそろえた訳ではなく、痛んで途中から切れた感じだ。

ボサボサの髪は洗ってもまだゴワゴワしている。


汚れだけは落ちたのか 不快な臭いは殆どしなくなった。


きれいな布で体をふいていく。


単なる布なのに高価だった。


ボロでも服を着ていたのはマシな方だったのかもしれない。



買ってきた中古の子供服を着るが やはりサイズは合わない。

それでも日差しと服のおかげで少し温かくなり人心地がついた。


ここで ようやく食べ物にありつく。

なぜか、死ぬほど空腹なのに思ったほど食べられなかった。

イメージではテレビに出ていた大食いの人みたいに食べていたのに・・・悲しい。

お腹はポッコリと膨らんでいるのに胃袋は小さいらしい。



日差しは暖かく 川の水で冷え切った体も心もを温めてくれる。


休みながら これからの事を考える。


憑依した人たちの記憶からも情報は得られたが、その量は少ない。

あぁ、こんな時こそネット環境が欲しい。


見えない片目は 取りあえず化膿してはいないようなので一安心だ。


眼帯でも作って隠していれば他人に不快感は与えないだろう。


そしてもう一つ困った事が有る。


この子の記憶には自分の名前が無かった。



そこからかぁ・・






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