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3、山賊倒すに刃物はいらぬ

盗賊達は疲れたのか、見張りを残して洞窟に入っていった。


残された2人も疲れているから気の抜けた見張りをしている。

コソコソ打ち合わせをした後 一人が器用にも立ったままで眠りに付いた。

どうやら交代で居眠りをするようだ。


こんな おあつらえ向きな展開を利用しない手は無い。

早速、寝ていない盗賊の男に憑依した。


まずは盗賊の情報を読み取る。

下っ端だから有る程度得られれば良いとしよう。

盗賊の人数は当初35人居たらしい。

今回の襲撃でその内の23人が死んだ。

今生きているのは、12人。

その内の1人は自分が乗り移っている男。


仕事が終わったこんな時は大抵 酒を飲んでいるか、あるいは捕まった女を犯しているかのどちらからしい。

今の時点で捕まっている人間は先ほどの幼女だけ。

ということは 今は全員で酒盛りしているはずだ。

洞窟内の道順も知る事が出来たし侵入するとしよう。




「てめぇ、見張り番だろ。さぼってねぇで持ち場に戻りやがれ」


宴会場を覗くといきなり怒鳴られた。

酒を飲んでいる男達の中にヒゲ面でいかにも盗賊の頭という見た目の大男が居る。

その迫力はすさまじく、危なく憑依から飛び出してしまいそうになる。

他の手下達もとばっちりをさけて目をそらしていた。


ビビリながらも 急いで首領だろう男に憑依した。

視線が代わると、見張りの男が困惑し、焦っている顔が見える。

あっ、そういえば見張りなんて居たらこの後何かと動き難いよ。



「いや、まて。今日は特別だ、見張りはいらん。

もう1人の奴も連れて来い。金づるが手に入ったんだ、とことん飲むぞ。お前らも好きなだけ飲め」


おおおおおおおーーーーっ


「さすが お頭、話せるぜ。おい、追加の酒を持って来い」


「「へい」」


やはり この大男がボスらしい。

誰一人ボスの異変には気が付いていない。


見た感じでは警戒すべき手下は居ないようだ。

この男の記憶を探ってもそんな相手は見当たらない。

唯一ボスの右腕だった男は今日の戦いで死んだらしい。

残っている盗賊達は雑魚と言って良い。

酒も強くないようだし、深く考える頭も無いから このまま飲んで酔いつぶれるだろう。

全員がそろい、追加の酒とつまみも持ち込まれた。



「今日は死んだ奴らの分もお前らが代わりに飲んでやれ。弔いだ、遠慮はいらん」


おおーっ


自分は飲んだ振りをしながら適当に相手をする。

このボスは普段はケチらしく子分達は満足するまで飲めないようだ。

そのせいか、気が変わらない内に飲もうとして やたらと飲むペースが早かった。

やがて 疲れた男達は酔いに負けてその場で爆睡していく。


この男に憑依したのは正解だった。

この男は指名手配されている有名な盗賊らしく

国の情報、裏社会の情報を知ることができた。

今も色々な悪事に加担しているようだ。

今日の襲撃も依頼された仕事?らしい。

黒幕の名前は記憶の何処にも無い。

憑依から抜け出す時は気をつけなくては危ない。


さてと、いよいよ命がけで侵入した最大の目的である盗賊団が持っているお宝。その情報を知る事が出来た。

お宝と呼べるのはお金程度しか無い。武器や防具も宝と言えば宝なのかな・・他はまぁ雑貨だったり日用品だったりと生活に使う物が殆どだった。

テンプレ的に金銀財宝を蓄えてこそ盗賊じゃないか。

かなりガッカリだ。そりゃそうか・・遊べるだけ財産持ってたら何時までも盗賊なんてしてないよな。


ただ、雑貨とは言え その中で一つだけ凄い物が有る。

商人から強奪したらしい「拡張収納袋」、いわゆるアイテム袋だ。

盗賊団のほぼ全ての財産がその中に入っている。

この袋の存在が盗賊団を支えていたようなもので、討伐隊が来ても素早く逃げる事ができた。

今も袋はこの男が肌身離さず持ち歩いている。

つまり労せずして目的達成した事になる。

プチラッキー


全員が熟睡してるのを確かめた後、寝たふりを止めて一番奥の部屋に行く。

カギ付きの部屋に入ると粗末なベッドが置いてあり あの時攫ってきた幼女が寝ていた。

子供に同情したわけでは無いが、なんとなく連れて行く事にする。

この時の気まぐれがその後の人生を左右するとは考えてもみなかった。


男の体はかなり腕力があるので子供を1人抱き上げて運んでも全く問題は無い。やはり男の体は便利だ。

今世も男が良かったのに 何で幼女に転生してんだよ。




洞窟から出ると外はすでに暗くなり始めていた。

松明に火を移して持ち、片手に幼女を抱き上げて山道を歩き出す。

異世界なんだから魔法で明かりが作れたらいいのに。

この男にそんな能力は無かった。


歩き慣れた山道なのか ごく自然に足が進む。

このまま降りて行けば あの時の街道に出られるだろう。



街道が近づくと チラチラと明かりが動き回っているのが確認できた。かなりの人数が居るようだ。

いきなり攻撃されたら嫌なので松明を地面に押し付けて消しておく。

まだ完全に暗く成っていないので何とかなる。

予想通りなら見えている明かりは この子を探しているのだろう。連れて来て正解だったな。


さらに降りていくと街道のすぐ横に 巨大な岩が有るのを見つけた。

目印に丁度良いのでアイテム袋を陰に隠しておく。

男から離脱したら取りに来よう。



街道に出ると松明を持った男たちが集まってくる。

明らかに騎士の姿をしている者とバラバラな装備をしている者とに別れるが目的は同じようだ。

取り囲んだ男達は 殺気のこもった眼で睨んでくる。

恐いよ!。

幸いにも憑依状態なのでオシッコちびらずに済んだ。

子供を抱えている為か 男たちは攻撃して来ない。



「子供は返すからよ、いきなり俺を殺すのは無しだぜ」


「良いだろう。だが、逃がす事はできんぞ」


「ああ、分かってる」


騒がしくなった事で目が覚めたのか幼女は不思議そうに周りを見ている。そしてこちらを見て泣きそうな顔をする。ジタバタし始めたので下ろしてやると見知った騎士の下に歩いて行った。


次の瞬間 男達が押し寄せ盗賊のボスを捕縛にかかる。

いや、気持ちは分かるけど荒っぽいな。

腕が痛いってば。


盗賊か縛り上げられ安全になったので憑依から抜け出す。

自分を出現させる場所はアイテム袋を隠した大岩のところだ。

暗いし全員が盗賊に集中しているので見つからないだろう。


無事に袋を回収できたので紐を首にかけてぶら下げ 袋を服の中に入れて見えないようにする。

入っているお宝はショボイ金額だけど、魔道具の袋そのものが高価なので見つかれば強奪されるだろうからね。


もの凄い迫力で喚いている男の声が山間に響き渡る。

正気を取り戻した盗賊が騒いでいるのだろう。

ガチガチに拘束されてたからムダな足掻きでしかない。

死刑が確定してる訳だし、騒ぎたくもなるだろう。

自分はこのまま誰かに憑依して街に帰ろう。



「そこに居るのは誰だ」


見つかった?

盗賊の大声で足音が聞こえなかったのか、近くに来ていた事に全く気が付かなかった。

焦っているから憑依もできない。どうしよう・・・。


「なっ、子供だと?。どうしてこんな所に」


どうやら驚いているのは相手も同じらしい。

騒ぎに気が付いた他の男達も集まって来て注目される。

子供相手なので殺気を向けて来る事は無いが、それでも強面の男たちに囲まれると怖い。



「お前らが顔を出すから恐がってるじゃねぇか」


「それは こっちのセリフだぜ。てめぇのツラが一番酷いぞ」


「何だと、ゴラァ」


おいおい・・・おっさん達、山賊かよ。



「何事だね。まだ油断しては危ないぞ」


「こんな場所に子供が居たんで、つい」


「子供だと?」


声を掛けてきた男は明らかに身分の違う武装を纏っている。

関わると面倒な人種、お貴族様だ。



「ふむ、確かにこのような山中に居るのは変だな。山賊どもの仲間かも知れん」


えっ、ええっ!。


山賊あつかいですか?。


こんな幼女ですよ。


仲間認定されたら子供でも容赦無く死刑確定されそう。


せっかくお宝を手に入れたのに・・って、

ああぁっ!、こんなお宝持ってたら山賊確定じゃん。

まずい・・。


片方しか無い目から涙が溢れてくる。

子供になったせいか体が感情を抑え切れない。


「お待ちください。お館様」


「ヨーゼフか。どうかしたか?」


「そちらの少女、山賊の仲間としては不自然なご様子。話を聞いてみてはいかがかと・・」


服装は違えど醸し出す雰囲気が間違いなく執事であると思える老紳士が進み出てきた。

こんな場所でも武装している様子は無い。

無手でも戦えるのかも知れない。

どうやら参謀的な執事の言葉には貴族の男も無視できないようだ。



「こんな所でどうされましたかな?。良かったらジィに話してくれませんか」


執事の紳士は微妙な距離で膝を折り幼女な自分の目線に合わせてきた。子供の扱いに慣れている。

しかし、ヨーゼフ・・何処かで聞いた名前だね。

好々爺らしい柔らかな笑顔で聞いてくるのでうっかり変な事まで言ってしまいそうだ。ヨーゼフ恐るべし。



「逃げて来たの・・」


ざわっ


周りの男たちが俄かに緊張するのを感じる。

自分の事をバカ正直に話すのは論外だが この普通ではない状況を納得させなくては大人は欺けない。

彼らが最も欲しい情報を自然な形で流せばそちらに集中するだろう。ここは幼女らしい言葉で・・



「こっちの方に恐いおじさん達が沢山いるの・・みんなお酒飲んで寝てたから逃げて来たの・・うっ、うっ」


「そうですか。よく頑張りましたね。もう大丈夫ですよ、よしよし」


執事のヨーゼフはこの時点で安心したのか軽く抱きしめて頭をなでてくれる。

この世界は頭を撫でるのはオッケーらしい。


周りで慌しく動く男たちの気配がする。

子供からの情報、むしろ今は子どもだからこそ信憑性が高いだろう。

多くの人数で盗賊のアジトに向かっていく音がする。

示した方角は正確だし洞窟という有りがちな場所だ。

全員が酔いつぶれているし盗賊団は苦も無く壊滅するだろう。


後はいかに自然な形で解放してもらえるかだな。







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