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13、それは、美しくウザイやつ

綺麗だった。


それはおよそ生物であることがウソであるかのように光り輝いている。

大きな岩山が積み木を崩したようにガラガラと崩壊し、中から出てきたソレはファンタジー世界の象徴の一つドラゴン・・・ではなかった。残念。

では何かと聞かれたら形容するのが難しい。

強いて言うなら四足の巨大な獣なのだが、その表現が似つかわしくないほど美しい姿をしている。


そして まだ距離が有るにも関わらず見上げるほど大きい。

特撮の映画に出てくる怪獣並みと言えば良いだろうか。

その四肢は細くしなやかで、全体的にスマートなシルエットだ。


体全体を金色の長い毛がたなびいている。そう、サラサラと風にそよぐかのように自然な形で動いている。それが逆に不自然で何らかの力が働いているとしか思えない。ここだけ聞けばイヌのゴールデンレトリバーやボルゾイ、またはアフガンハウンドの姿を思い描きそうなものだが、その顔はイヌのような愛嬌の有る可愛いものとは全く違う。顔も毛で覆われているが爬虫類のそれに近く、額からは魔剣のように歪で鋭利な角が伸びている。速度と俊敏性を武器にした戦闘型の生き物なのは間違い無い。

その完成された姿には恐怖よりも高貴さを感じてしまう。見上げる自分はまるで現実味が持てず ただ呆けていた。

さすが異世界、そしてこれがこの世界の現実。


セルシニアお嬢様が混乱して危険な状態になり馬車を止めた場所は岩山からまだかなりの距離が有った。

にも関わらず、小山だったそれが崩れた直後に響き渡った大音響によって馬も人も全てが気を失って倒れた。

そのおかげでお嬢様の暴発は防げたのだが、出てきた謎生物は辺りをうかがうと真っ直ぐこちらに向かってくる。

あの大音響は彼の咆哮という奴なのだろう。

一声だけで人間たちは壊滅状態だ。戦いにすらならない。

何故か自分だけがそれに負けなかったらしい。


近づく巨大な謎生物を憧れの目で見上げてしまう少年の心を捨てない幼女ファルナが居た。

謎生物はそんな自分に見向きもせず馬一頭を銜え上げると一口で租借しはじめる。

うん、目の前で生き物がバリボリと音を立てて食われているのを見て今更ながら身の危険を感じる。

単純に食い応えのある大きさの馬から食べたのだろう。しかし、奴の体格からしてこの場に居る全ての馬を食べたとしても満足するだろうか?、次は当然人間の番になるだろう。何とかしなくては・・なんちって。



ふ、ふふふふ。これから巨大生物を乗っ取るのか。

今だけは言える、異世界に来て良かったーー。

普通の人なら死の恐怖で動けないだろうに、今の自分はワクワクした子供のテンションマックス状態である。

というわけで、お邪魔しまーす。



視界が変わった・・・・・あれっ?!。


『!?』


憑依はできた、しかし体を乗っ取る事ができない。

しかも、相手は憑依した事に気が付いてしまった。

はい、想定外です。


『ぬうぅ、無断で我輩の内に入り込むコレは何だ?。何かの魔法か・・魔力の動きは感じ無かったが』


ぐっ!。


デッカイ声が頭に響く。

こいつ人間の言葉が分かるのか?


『人間?、あんなチッコイ奴らの言葉など知らんぞ。ふむ、入り込んだお前はチッコイ奴か』


くそっ・・またチッコイ言われた。

何で子供に成ると小さい言われるのがムカツクのだろう。


                                                『というか、会話ができている?』


『ほほぅ、面白いな。人間というのは』


『何の話だよ。

それより 何で会話が成り立ってるんだ?』


『分からぬか?、では高貴な存在である我輩が教えてやろう。チッコイ者よ、そなたは我輩に入り込んで利用しようとしたようだが、魂の格が違いすぎて逆に取り込まれたようだの。飲み込まれた、と言った方が分かりやすいか?今は直接意識を交し合っているのであるな』


えっ・・


『悠久の時を生きてきた我輩にとっても初めて遭遇した珍事なのでな少しは驚いたぞ。砂のような存在の者が我輩を揺さぶったのだ、誇るがいい。やがて消化されて我が魂の一部となろう、小さき者よ光栄に思うが良い』


『美しい巨大謎生物はとってもウザイ奴でした。

じゃあアレか?、これからずっとこのウザイ奴と一緒なのか。一大事じゃん!』


『ウザイとは失敬な。そも 気にする点がそこであるか?』


『どうせ一緒になるならドラゴンとかが良かった。

ドラゴンになる異世界の話も色々と読んでたしね。』


などと余裕を見せてハッタリをかましているが、内心ではもの凄く焦っている。何とかしてこの生き物から離脱しなくては自分が消えてしまうらしい。


『ふっ、ドラゴンとな?。あのような下等で野蛮なトカゲが良いとは、チッコイだけに趣味が悪いの』


『くそっ、チッコイチッコイと連呼しやがって、ドラゴンにはモフモフなお前には無い強さが有るぞ』


『何を言う、我輩は最強の存在である』


この後、ファルナと謎の生物はしばらくの間 アホな口喧嘩をしていたので中略。




『で、結局 高貴で最強なあんたは何なんだ?名前は?』


『我輩は唯一無二の存在だ、ゆえに名前など付ける必要は無い。名前を付けなければ混乱する社会?が有るなどお前の知識を見なければ知る必要すら無かったのだ』


『ふっ、名前も無いの?。

自分にはファルナって名前が有るぞ。

わーい、勝った勝った』


モロにガキの喧嘩である。

この謎生物と話をしていて気が付いたのは知識で言い負かそうとしても勝てないということ。

無駄に長生きしている上に前世が日本人だった自分の知識とリンクしているらしく科学的な面でも吸収されていた。

唯一の救いだったのは最強を名乗るだけあって他とのコミュニケーションが幼児並みでしかない点だ。

頂点ゆえの孤独、ハッキリ言えばボッチ。


『ぬうっ、名前が無いから何だと言うのだ。必要無いではないか』


『だって、しばらくはこうして会話するんだろ。名前が無いと会話し難いんだよ、おいっ、とか、お前とか言っちゃうよ』

『無礼な、我輩に向かってそんな呼び方はさせんぞ』


『でもさ、これから名無しと付き合う身にもなってよね。

何でも良いから自分で名前を付ければ良いじゃん。

それと、これからは私をファルナ様と呼ぶように』


『名前の付け方など知らぬぞ。いやまて、何だその 様 とは。目上に付ける敬称とお前の記憶に有るぞ。我輩は認めん!』


『えーっ、じゃあ私が敬称を付けて上げる。

名無し様、名無し様・・ほら、やっぱり名前が無いと不細工だね』


『ぬううううううぅぅぅっっっ』


『しょうがないなー(ニマニマ)

じゃあさ、この私ファルナが高貴で美しくて最強な貴方にカッコイイ名前を付けてあげても良いよ』


『ほほぅ。チッコイくせにそんな事もできるのか』


『出来るよー、今後他の人間に名前を聞かれても堂々と言える最高の名前を付けてあげる。でも名前を付けてもちゃんと受け入れないとダメだよ。心に刻むんだよ』


『そうなのか?。名前とは難しいものであるな』


『じゃあいくよ。我が魂と共にある尊き者に我ファルナの名に於いて常しえの真名をさずけましょう。

友よ君は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




コロタン』


『コロタン!』


〔ピコーン☆両者の契約認証確認しました。これによりコロタンは名付け人であるファルナに従属されることが確定されます〕


あ・・本当にできた。この前読んだ本に載ってた魔物をテイムする契約方法は本物だったのか。

いや、この拘束から逃れるための苦し紛れの方法だったんだけど、よもや成功するとは思わなかった。

成功するとアナウンスが聞こえるという謎の機能も実在したよ。凄いね異世界の魔法。

ちなみにコロタンは前世で近所にいたイヌの名前だ。


『なっ、何だ今のは?。主従契約だと、我輩は認めんぞーー』


謎生物コロタンは慌てだしたがもう遅い。

普通はこれだけの力の差が有れば成立しない契約なんだけど、魂レベルで接近していた事で抵抗が無かったようだ。ともあれ、これで魂の格が違っても立場はファルナの方が上なので離脱できるだろう。

試してみたけど体を乗っ取るのは無理だった。


「うるさいなー。そんなに焦らなくても良いじゃん」


早速コロタンから離脱して巨大なその姿を見上げながら会話する。離れても念話的な会話が可能なようでとても便利だ。ちなみに従魔は主人を害する事が出来ないらしいので近くに居ても安心だ。そうでないと困る。


『貴様、謀りおったな!。我輩が人間などに従僕するなど、何と言う屈辱かぁぁ』


「そんなに怒らないでよ。別に何かしろとか命令なんてしないからさ。うーん・・そうだね、友達契約だと思えば良いよ」ニコッ


ファルナはコロタンに微笑んだ。

しかし、コロタンには人間の表情など分からない。


『ふむっ・・友か。それなら我慢しないでもないぞ。まぁ良い、我輩はこれから久々に体を動かしてくる。友だと言うなら離れていても会話くらいは答えてしんぜよう』


何処までも上から目線なコロタンであった。

しかも少しツンデレが入っているようだ。面白い


「あっ、コロタン。行く前に街道に転がった岩をどけて欲しいな」


『・・・命令はしないと言ってなかったか?』


「えーっ、命令じゃないよ。お願いだよ。それに、あの岩はコロタンが暴れて道を塞いでるんだから君のせいだよ。友達に迷惑をかけないで欲しいなー」


『我輩のせいでは無いと思うのだが・・ブツブツ』


文句を言いながらも巨大な岩を軽く蹴り飛ばしてコロタンは走り去って行った。

これによって領主一行は最大の危機を乗り越えた。

損害は食われた馬一頭と落馬による軽症者だけである。


気が付いた領主はファルナの話を聞いて深刻な表情になる。残された馬の血痕や噛み千切られた馬具などからファルナの話が真実であり、子供から聞いただけでは その生き物がどれほど驚異的なのか計り知れないからである。


もちろんコロタンとの主従契約の話はしていない。

疲れて眠ったままのセルシニアは穏やかな顔になっているので心配無さそうだ。


領主一行の馬車隊は数時間の遅れを出しながらも王都に向けての旅を進めていく。







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