15、不安な人々
ファルナが住んでいるフェリテリュス王国、
その隣が先日もめたフロステス王国でありその国力は同程度。
要するに「ドングリの背比べ」状態。
多少の変動は有っても百年以上は代わり映えしない関係であった。
だが、その日 密偵によって齎された情報によって二つの国の在り方に激震が走り、
首脳部は顔面蒼白状態になる。
近隣で最大の国力を持つ大国リリセンティア皇国が突如としてフロステス王国に侵攻を始めたからだ。
勿論フロステス王国とて万全の防衛体制をとっていたはずてあったが、
その悉くが何の機能も果たさず、まさに無人の野を駆けるが如く進軍されていた。
フロステスの王城では火急の事態に対応を迫られていた。
「5万だと・・かの国は軍の半数を送り込んできたか。
して、現状 我が軍の規模はいかほどであるか?」
「はっ、今現在 各地に早馬を出し召集をかけてはおりますが、
王都の守備に付いております騎士を含めましても2万ほどでございます」
「むぅ、ちと少ないのぅ」
「・・・・・・・」
兵力が少ない原因は明白だが誰も口に出さなかった。
第二王子が無許可で出兵し5千もの軍を擁しながら敗退したのが大きいのだ。
5千という数字ではあるが、鍛え抜かれた精鋭のそれと
民間から集められた雑兵のそれとでは比較にならない。
全滅した訳では無いが組織立った軍を再編するのは時間が掛かる。
しかも、それ以上に深刻なのは 名だたる将校の多くが失われている事だ。
主力を失った先日の戦いは亡国の危機を招いたと言ってもいい。
「何故こちらが準備する時間すら持ち堪えられんのだ。
かの地の領主たちは何をしている!」
「国武省・・・落ち着かれよ。其の件に関して諜報部から知らせが来ておる」
「これはお見苦しい所を・・陛下」
話の矛先を変えるべく大げさに声を荒げた軍の重鎮とそれを嗜める国王、
茶番ではあるが会議を進めるには必要なパフォーマンスでもある。
見計らったように老宰相が議場の末席に目をやり大きく頷く。
「諜報部 副主任リザラです。今現在の情報を報告いたします」
そう答えたのは混乱する男達の中にあって 唯一氷のように無表情な女性であった。
静かだが研ぎ澄まされたその声は冷たい圧力となって場に静寂を作り出していく。
ちなみに貴族のボンボンだった諜報部主任は気を失って寝込んでいる。
肩書きこそ副主任であるが実質は彼女がトップである。
「まず国境を守護していた辺境伯ですが あっさり寝返りました。
これは 飛行型召喚獣によって現地諜報員からもたらされた最新の情報です」
「辺境伯が裏切ったと申すか?・・信じられん」
「皆様の疑念は尤もです。
実際は裏切ったと言うよりそれ《《以外に道が無かった》》と言うべきでしょう。
侵攻された事に気が付く前に領都の門が制圧され、辛うじて邸宅に篭城いたしましたが数万の敵に包囲されたようです」
「そのまま戦って果てるまで時間を稼ぐべきであろう。
そうで無ければ裏切ったと言われてもいたしかたあるまい」
「辺境伯殿はそのつもりであったようです。ところが、絶対的な勝利が約束されていながら皇国から使者が遣わされ 其の後に完全降伏と無血開城が行われております」
ざわざわと会議場がざわつく。
辺境伯は無欲で誇り高いと絶大な信頼を受けていた男だったからだ。
「其の時の会談内容は直接入手する事は適いませんでしたが、
領民の間に流れていた話を要約いたしますと大体の概要は掴む事ができました」
「「・・・・・」」
「皇国の提示した降伏の見返りは領主家及び全ての領民に安全と権利を保障するものと推測されます。
噂では正式に魔法契約の調印もなされてたとのこと。
事実、略奪暴行など領都の混乱は殆どありません。
敵軍が侵攻したにも関わらず彼の地には殆ど被害が無かったそうです。
駐留した兵士が普通に物資を買い求めたので領都は好景気となっております。
その後も急激に他の領地に侵攻されて陥落していますが・・・
恐らく同じ要因かと思われます」
「愚かな!。国が失われたら その様な権利など消し飛ぶと言うものを・・」
その一言は全ての参加者の心を代弁し、議場は静まり返る。
「・・・しかし、妙ですな」
「何か思う所があるか宰相?。わしには戦上手にしか見えぬが」
「はい、国王陛下。
皇国は何か別の目的が有って戦いを急いでいるのでは無いかと感じた次第です」
年老いた宰相は軍議そのものにはあまり口を出さない。
それゆえに突然の彼の発言は議場に重く響く。
「戦の目的とは何でしょうか?。色々と理由は有るでしょうが、殆どの場合は他国の溜め込んだ富を自国に齎して国土の繁栄とする為です。それが無いとなると・・」
「確かにおかしいですな。たとえ後に停戦協定が結ばれたとしても それまでに支配地の富を持ち帰れば戦費もまかなえるでしょう。それが全く無いからこそあの進行速度なのでしょうが、それでも膨大な戦費が消し飛びます。
そこまでして我が国を侵攻する意味が分かりませんな」
「皆も同意見か。ふむ、他に何か情報は無いか?、戦況に関わり無くても良いぞ」
「不可解な事案でしたら有ります」
「良い、報告いたせ」
その諜報部から報告された情報は別の意味で閣僚達を震撼させるものであった。
***********夜。とある宿の子供だけの部屋
「だけど、アリ族の人々はキリギリ族の人たちをバカにしていました。
彼らは働く事だけが世の中に必要だと教えられていたからです」
ファルナはセルシニアを寝かしつけるためにおとぎ話をすることにした。
だが 前世の童話で思い出せる話は少ない。
そこで有名な話をはじめたのだが、この世界に蟻やキリギリスが 存在している事
すら分からない。
そのために少し設定を変更して人間に変えてみた。
ネットゲームでは定番の擬人化というやつである。
世の中 何が役に立つか分からないものだ。
「それでもキリギリ族の人たちは音楽を奏でる事を止めませんでした。
いつか大勢の人たちに自分たちの演奏を聞いてもらう事を夢見ていたからです。
彼らは練習の合間に働いた僅かなお金で貧しい食事をしながら頑張っていました」
「・・・」キラキラ ワクワク
眠らせようとするファルナの目論見とは裏腹に
セルシニアお嬢様はワクワクして益々目が冴えているようだ。
「やがて冬が来ました。
その頃になるとキリギリ族の演奏は上達し、素晴らしい芸術にまでなっています。
その演奏は仕事で疲弊したアリ族の人々を癒し、楽しませました。
でも音楽をバカにしていた彼らは誰もキリギリ族を助けてはくれません。
やがて寒さの厳しい冬に耐えられずキリギリ族の人々は皆死んでしまいました」
「ええーっ、かわいそう」
「そうだね。そして春がきました。
アリ族の人々は何時ものように働きだします。
ところが何故か人々は「耐えられないほど仕事が苦しい」と感じます。
それは日々の心の疲れが取れないからでした。
彼らはキリギリ族の音楽がどれほど心を癒していたのか知らなかったのです」
「疲れたら眠れば良いのにね」
「うんうん。でもアリ族の人たちは《《働かなければ悪い人だ》》と教えられていたから眠る時間すら働いたんだね。しまいには疲れて死んだ人もいたんだよ」
「そんなのつまらないよ」
「そうだよねー。
ことろが、そんなある時 どこからか綺麗な歌声が聞こえてきたのです。
アリ族の人たちは喜んで声のする場所に集まりました。
でも、そこに居たのは恐ろしいドラゴンだったのです。
辛く苦しい時間だけを生きてきたアリ族の人たちは最後まで安らぐ事も無く、美味しくドラゴンに食べられましたとさ。おわり」
「何で恐いドラゴンなのに逃げなかったの?」
「みんな疲れてて眠かったからかもね。
キリギリ族が居ればそんな事にならなかったのにね」
うーん・・。
我ながら救いの無い酷い話に成ってしまった。
原作と話が違う?。良いんだ、これで。
どうせ日本で聞いた話も一部の人間に都合良く改ざんされた内容だろうし。
人々を洗脳して奴隷のようにコキ使うのに最適な話だったなーアレ。
この世界にはそんなもの持ち込んだりしません。
音楽がほとんど無いこの異世界に来て感じたよ。
何気なく聞いていた音楽がいかに心を癒していたか。
♪~♪♪。
話を聞いても眠くならないセルシニアに歌詞を付けずに静かに歌を聞かせる。
鼻歌って言うのかな?これ。
話の内容がアレなので音楽を大切なものとして聞いてくれるだろう。
淑女になるなら芸術の価値も知らないとね。
そんな努力の甲斐も有って 少ししてお嬢様は眠りに付いた。
『今のが音楽というものなのか?』
『えー・・コロタンも聞いてたの?』
『夜は暇なのでな。話しかけようと思ったのだが、
何やら面白い話をしていたので邪魔をしなかったのだ』
やはりと言うか・・もう1人の子供が話しかけてきた。
かまって欲しい幼児みたいなものと思って相手するしかないか。
謎生物コロタンは巨大だし強い?から教育を間違えると危険極まりない。
知恵は有るようだし知識と常識が備われば人とのトラブルも回避出来る・・
かもしれない。
何で幼児の自分がこんな心配せんとならんのか、と思わないでもないが主従契約してしまった以上しょうがない。
あの絶体絶命とも言える状況で最善の判断だった、と思って諦めた。
『夜なのに眠くないのか?』
『我輩は眠くなったら寝る。夜も昼も関係無いぞ』
なるほど、何故あんな巨大なコロタンを封印できたのか不思議だったけど・・
昼に寝てるうちに魔法使い達に封印されてしまったのかもね。
『それよりも、我輩は腹が減っておる。以前と違って獲物が少ないのだ』
『えっと・・だからって人間食べたらダメだよ』
『ふん、人間など臭くて食えたものでは無いぞ』
そうか、それは良かった・・って、私も人間なんだけど。
臭いとか言わないでもらいたい。
『遠くにいるのにお腹減ったとか言われても困るし』
『遠くは無いぞ。我輩はお主の近くの山に居るのだ』
コロタン・・付いてきたのか?。
まぁ そうだよね。
主従契約したんだし不思議でも無いか。
犬みたいな性格だし、幼児みたいな性格だし。
街に来ないだけ良かったとしよう。
『お主、今不愉快な事を考えて無かったか?』
『別に・・それより魔獣で良かったら もう少し行った先に大きな群れが居るらしいけど・・食べる?』
『おおっ、真か?。行くぞ、丁度良い暇つぶしにもなる』
『えっ、本当に行くの?。恐い魔物らしいよ、危ないよ』
『失敬な、我輩を何だと思うのだ。負けるなど有り得ん』
そう言うと念話が切れた。
えっと・・・
そうだ、知らない事にしよう。
明日になって魔獣の群れが消えうせても私には関係無いのだ。
コロタンが人に見つかって今以上の騒ぎになる方が怖い。
自分はただの幼女なのだ。うん。




