↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王立魔導航空団斯く戦えり  作者: 日渡正太
第1章 迷惑な来訪者
PR
7/36

7.撃墜王の誤算

 続いて、アイワスの部屋の前で、軽くドアをノックした。


 こいつはいちおう階級が空尉で幹部扱いなので、個室をもらっている。

 だから、こういうことをするのになんの心配もない。


「おう、待ってたぜ、入れよ」

 ノックするあたしを、アイワスは扉を開けて、招き入れてくれた。


「座れよ、何か飲むか?」

「いいよ、すぐ帰るし。それよりあんたさ……」

 グラスを2つ出そうとするアイワスを睨みつける。


「……エディに何か言ったんだって? どうしてそんなことするの?」

「な……! あいつ、しゃべったのか?」

「しゃべったのか、じゃないでしょ!」

 あたしは腰に手を当てて、怒ってみせた。


「あたしは、あんただけのものじゃないって、さっきも言ったでしょ!?」

「いや、でも、あいつ、変態だし……」

「あんただって、あたしに同じことさせてるでしょ!? もし今度またこういうことがあったら、あたしもう、あんた相手に仕事しないからね!」

「わ、わかったよ、悪かった……」

 決まり悪そうに、うつむくアイワス。


「……それじゃあ、今夜は望みどおりにしてあげる。そこに寝て」

「ああ……」

 ベッドを指差すあたしに、素直に従うアイワス。


「今日はどんな感じがいい? 相手の女は?」

「おまえがいい」

 突然、真剣な眼差しを向けてくるアイワス。


「あんたねえ!」

 こいつまでエディと一緒かよ! なんでそんなに似た者同士なんだ、おまえら!


「ダメか?」

「ダメに決まってるでしょ! いやらしい!」

 すると突然、アイワスはガバッとベッドから起き上がって、あたしの手を握ってきた。


「頼むよリーザ! そんないい加減な気持ちじゃないんだ! 俺真剣なんだよ! おまえがいいんだ! おまえ以外の女は考えられねえ!」

「はあっ!?」


「俺、頑張ってきたんだ! こうして幹部の地位も手に入れたし、今じゃ『ダート・フライト』のナンバー2もやってる! いずれはコールマン隊長も抜いて、俺がトップに立ってやる!」

 いや、こいつが普段から努力してるのは知ってる。

 でもだから何!?


「リーザ、俺、あと1年で隊長になるよ! そうすれば給料だってもっと上がる! おまえの家族ぐらい養えるよ!」

「えっと、あんた、何を言って……」

「もう、おまえにこんなこと、させたくないんだ!」

「痛い! 離して!」

「あ、悪い!」


 アイワスはすぐに強く握っていた手を離してくれた。

 えーと、今言われたことを整理してみるとだな……。


 あたしでエロ夢見せてくれたら、自分はあと1年で隊長になる。そうすれば給料も上がるので、エロ夢の料金値上げしてやるから、それで家族を養え……ってことか?


「ダメか、リーザ?」

 すがるような目で訴えかけてくる彼。

 そんなこと言われてもなあ……。


「ごめん、あたし、あんたにそこまで、してもらうつもりないから」

「えっ……」

「いろいろ考えてくれてるのはわかった。嬉しかった。だから気持ちだけもらっとく。ありがと」


「リーザ、俺……」

「アイワス、あんたはあんたの道を行きなよ。あたしなんかのためじゃなく、ね」

「…………」

「あたしは、ずっと見ててあげるからさ」

「……そうか」


 アイワスは静かにうなずくと、大きく息を吐いた。


「……すまなかったな、変なこと言っちまって」

「気にしてないよ」

 あたしはつとめて明るく笑い、その後、再びアイワスに問いかけた。


「で、今日はどんな女にする? あたし以外で」

「バカ! おまえ以外はダメだっつったろ!」

 ちょっと拗ねたように、横を向くアイワス。


「でも、それじゃエロい夢、見せられないよ」

「今日はもういいよ、今さらそんな気分になれないし。……あ、でも、呼びつけたんだから、金は払うよ」

「いいよ、そんなの悪いし」

「でも、それじゃ、おまえが困るだろ?」

「そのくらい、大丈夫だよ。じゃ、用がないなら行くね」


 腰を浮かしかけるあたしに、アイワスは、

「わかった! じゃあエロくない奴で頼む! 飛行杖のアクション物とかがいいな」

「そんなのでいいの?」

「ああ、スカッとする奴、頼むぜ」


 そう言うとアイワスは、あたしに銀貨3枚を取り出して渡し、ドサッと勢いよくベッドに身を横たえた。

 目を閉じた彼の額に、あたしは手を近づけていく。


 アイワスの「バルチャーF2」が、ライティアの竜騎士をバッタバッタと撃墜していくところを思い浮かべる。


 味方の飛行魔術師としてあたしも登場させ、夢の中でアイワスを褒めちぎってあげた。


「アイワスかっこいい~! 素敵! 惚れちゃいそう!」

 とか言ったりして……。


 まあ、このくらいなら、出演してあげてもいいでしょう。

 あたしは、アイワスが満足そうな顔で、深い眠りにつくのを見届けた後、部屋から出た。




 翌早朝。


 あたしとミランダは、またも営舎に響き渡る「非常呼集」のラッパの音で叩き起こされた。一昨日の夜もあったばかりだろ、非常呼集!


 当直の兵士が、

「リーザさん! ミランダさん! 非常呼集です! 起きてください!」

 と叫んでドアを激しくノックする。


 目を覚ましたあたしは、半分寝ぼけ眼でベッドに半身を起こし、とりあえず寝巻きの上にガウンを羽織って「あー、はいはい…」とか言いながらドアを開ける。


 今朝の当直員は地上誘導隊のマーティン君だった。

「あ……」

 とかいって、お互いポッと頬を染め、目をそらす。


 うわ! 気まずい!


「あ……えっと、リーザさん、非常呼集です!」

「ああ、うん、わかった、ありがと」

「あの、リーザさん……」


「ん、何?」

「……昨日は、すごくよかったです」

「え? ああ、そう……」

 朝っぱらから恥ずかしいこと言うな!


「また、今度、お願いしますね!」

 そう言って、顔を赤くしたまま走り去るマーティン君。

 男ってやつは……! いや、お客さんだ、お客さん! 商売繁盛で結構だ! うん。


 それからあたしは、ベッドの上に半身を起こしたまま、半開きの目でボーッとしているミランダを揺り起こし、二人して寝巻きを脱いで、いつもの青い制服の上に厚手のフライト用ローブに着替え、基地庁舎の指揮所脇にある待機所へ向かった。


 日の出前で外はまだ暗い。

 いつもなら、あと1時間はゆっくり寝てられる時間なんだが、何があったんだろ。

 まさか、また竜騎士でも亡命してきたのかなあ?


 あたしとミランダがいつもの待機所に入ると、既にハドソン隊長と、飛行隊の仲間であるダグラスが来ていた。あとの2人、ベックとキャクストンの姿は見えない。


「よし、全員そろったな!」

 ハドソン隊長があたしとミランダが席に着くのを見計らって言った。

 40代、頭に少し白いものが混じりだした年頃、体格は少し小柄。わりと温厚でうるさいことは言わない隊長なので、あたし達としては、まあ有り難い。


「隊長、ベックとキャクストンがいません!」

 教室の学級委員よろしく、手を上げて発言するあたし。


「いいんだ、あいつらはたった今、出撃したところだ」

「出撃ですか!?」

 驚いて顔を見合わせるあたしとミランダ。ダグラスは知ってたみたいで、ちょっと肩をすくめて見せた。


 一昨日に引き続いて、今回も夜間出撃?

 なんだ? いったい、何があったんだ?


 ハドソン隊長が、おもむろに口を開いた。


「つい先頃、また国境監視所から連絡があった。ライティア軍の地上部隊が、続々と国境地帯に集結しているそうだ。国境線を掠めるように飛行する竜騎士部隊も確認されている。目的はわからん。今のところ国境を越えてはいないので、単なる演習の可能性もある。ただひとつ言えることは、これが昨日の竜騎士亡命事件と無関係ではないと言うことだ」


 うわー、やっぱり来るべきものが来たか。

 たぶん、基地の全員がそう思っているだろう。

 ハドソン隊長の話によると、今後敵が取り得る行動には、次の3パターンが考えられるという。


パターン①.

 集結した敵は、国境付近で大規模演習などの示威行動を行い、それにより我が国に圧力をかける。その上で、外交ルートを通じてガンダリア王国政府に対し、亡命した竜騎士の身柄と「スカイドレイク」の返還を要求してくる。


パターン②.

 集結を終えた敵は、そのまま大挙して国境を越え、ガンダリア領内に進撃。アップルヤード基地を攻め落として、竜騎士と竜を奪還する。その後、敵が速やかに退去するとは限らず、ヴィラード鉱山等を占拠して、居座る可能性もある。


パターン③.

 集結した敵は、このまま国境の外側で示威と陽動を続け、その間に少数の精鋭部隊等がアップルヤード基地をゲリラ的に襲撃、竜と竜騎士を奪還、または殺害して速やかに退去する。


 うわ、「パターン①」ならまだいいけど「②」と「③」は怖そうだ。


 ハドソン隊長によると、敵の地上侵攻に対する基地の防備強化のため、すでに味方の地上部隊が増援としてこちらに向かっており、一両日中には配備を完了する予定だという。


 また、アイワス達「ダート・フライト」をはじめとする第1から第3までの戦闘飛行隊も、交代で国境付近の戦闘空中哨戒を実施して、敵の竜騎士部隊の空からの侵攻に備えるそうだ。


「……状況は今説明したとおりだ。そこで、俺達偵察飛行隊は、隊を3チームに分けて、交代で日の出から日没までの偵察飛行を実施する。各チームは2時間飛んで、4時間待機の3交代制とする。今飛んでいるベックとキャクストンがAチーム、俺とダグラスがBチーム、Cチームはリーザとミランダだ。各チームとも、国境線ギリギリを飛んで、敵部隊の集結、移動などの状況を可能な限り把握して報告しろ。ただし、絶対にこちらからは国境を踏み越えるんじゃないぞ。現在位置には常に気を配れ!」


 その後、具体的な飛行ルートの設定や、現在までにわかっている敵の位置や規模等の詳細など、こと細かな指示がハドソン隊長から出されて、あたし達はいったん解散を告げられた。


 今飛んでいるのがベックとキャクストンのAチーム、2時間後にハドソン隊長とダグラスのBチームが飛び立ち、あたしとミランダはさらにその2時間後の出撃なので、つまり今から4時間は待機ということだ。


 それまで何もすることがないあたしとミランダは、とりあえず待機所を出て、自室に戻った。


 出撃までに、ハドソン隊長から指示された飛行計画を簡単な書類にして、指揮所に提出しなければならないので、それを書く。


「リーザちん、あたしのと一緒に出してきてあげるよ」

 書類を書き終えると、ミランダがそんなことを言った。


 あたしの分の飛行計画書も、自分の分と一緒に指揮所に提出してきてくれると言っているのだ。


「ん? いいよ、あたしがあんたの分も出してきてあげる。貸して」

 と、逆にあたしが手を差し出す。


「え、でも……」

 と、少し心配そうな顔のミランダ。あたしがその意味がわからずにいると、

「今の当直管制官って……エディだよ?」

 それでわかった。


 彼女は、あたしの「バイト」のことを知っている。


 以前、最初に話したときは、衝撃を受けていたようだけれど、その後「家族のため」というのもわかってくれて、今では理解してくれている。


 そして、あたしが昨日エディの部屋へ行ったこともわかっている。


 だから気を遣ってくれているのだ。今朝、あたしがエディと顔を合わせるのが嫌なのではないかと。


 ミランダはそういう奴だ。


「ん、ぜんぜん大丈夫だよ、ていうか、あたしエディとちょっと話したいことあるから、あたしが行ってくるよ」

 そう言って、笑って書類を受け取ろうとするあたし。


「リーザちん、無理してない?」

「してない、してない、全然」

「…………」


「いや、ほんとだってば!」

「じゃあ、わたしも一緒に行くよ、2人で行こ」

「やだなあ、書類出すだけなのに、わざわざ2人で行ってもしょうがないでしょ」

 やんわりと断るあたし。


 実は、あたしがミランダの同行を断るのは、彼女には聞かれたくない話をエディとしたいからなのだ。


 たぶんそれを察してくれたんだと思う。


「……わかった、じゃあお願いするね」

 ようやく、あたしに向かって書類を差し出すミランダ。


 あたしはそれを受け取り、部屋を出る。

 いつも心配かけてごめん。

 本当に有り難う……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。