6.強敵!M豚野郎
ミランダの眠るベッドから離れたあたしは、私物の白い魔法使い用ローブをまとって、部屋を出た。
次に約束があるエディの部屋に向かう。
部屋から一歩出たところで、ばったりと地上誘導隊のマーティン君と出会った。
「あ、リーザさん!」
マーティン君は、びっくりしたように立ち止まり、あたしに頭を下げた。
「今朝は有り難うございました、ライティアの竜騎士から、みんなを助けてくれて!」
マーティン君は、誘導隊の新人で、亜麻色の髪を持つ、ちょっと美少年と言った感じの子だ。
基地の地上クルーの中では一番歳が若く、先日14歳になったばかりだ。
5つも下か……。いや、こんなこと言ってたら、あたしの歳がばれるな。
「あたしは何もしてないよ、それに結局あの竜騎士は、敵じゃなかったんだし」
あたしがそう言って笑うと、マーティン君はぶんぶんと首を横に振って、
「そんなことないです! みんな感激してました。敵国の騎士を目の前にして、なかなか出来ることじゃないです! さすがは偵察隊の女神ですよね!」
こいつまで、女神扱いかよ……。
「あの、みんな、お礼がしたいって言ってました、今度おごらせてほしいって、よかったら……」
「うん、考えとくって言っといて」
「はい!」
マーティン君は元気よく返事をした。
そして、急に恥ずかしそうに、顔を赤くしてもじもじし出した。
「あの、リーザさん……」
「ん、何?」
「あの、僕、聞いたんですけど……その、リーザさんって、エッチな夢見せてくれるって本当ですか?」
またこれだよ!
まったくどいつもこいつも……!
いや、ほんとだけどさ。
「んー、本当だけど、高いよ?」
「いくらぐらい……?」
「んーと、じゃあこれで」
あたしは右手の指を2本立てて見せた。
エディやアイワスには3本だったけど、まだ新人で給料の安いマーティン君には、これぐらいが適当だろう。
「あ、じゃあ、それでお願いします!」
マーティン君の顔が、ぱあっと輝いた。
まったく男ってのは!
「えっと、じゃあ僕、どうしたらいいですか?」
期待に満ち満ちた顔で、マーティン君が尋ねる。
エディやアイワスのほうが先約だけど……。
まあいいや、大して時間のかかることでもないし、先にちゃっちゃと済ませちゃおう。
「んーと、じゃあ君の部屋行こうか、あ、君って個室だっけ? 部屋に他の人いる?」
「個室じゃないですけど、大丈夫です、この時間はみんな談話室でカードとかで遊んでますから。部屋には僕以外誰もいないです」
「そうなんだ、じゃあ君の部屋でいいよ、行こう」
あたしはワクテカ状態のマーティン君を促して、彼の部屋へと向かった。
……そう、これなのだ。
あたしが趣味で開発した夢見法は、なんだか変な方向で、基地の男どもに大ウケしてしまったのだった。
いや、そりゃ、エロい夢だって見れますよ?
可能ですよ、確かに。
でも、本来はそういう目的のものじゃないんだってば!
しかし、あたし自身がどんなつもりであれ、あたしの夢見法は、そういう方面の需要がすでに大爆発してしまっているのだった。
うう、どうなんだこれ……。
まあ、あたし自身がエロいことするわけじゃないし、夢見せるだけなんだから、問題はないと思うんだけど……。
それに何より、この副業のおかげでお金が稼げる!
お父さん、お母さん、ごめんなさい!
不肖の娘を許してね!
そういうわけで、あたしはマーティン君の部屋へとやってきた。 次がつかえているので、手っ取り早く終わらせないといけない。
「はい、じゃあ早く横になって」
彼のベッドを指差すあたし。
「なんか、ムードないんですね」
ふと、そんな文句を言うマーティン君。
「あのねえ! 何もあたし自身がエロいことするとかじゃないんだから! 夢見せるだけだからね? 勘違いしないでよ?」
「はあ、わかりました」
そう言って身を横たえるマーティン君。
「じゃあ目を閉じて」
「あの、服は自分で脱いだほうがいいですか?」
「脱ぐな! そういうのと違う!」
まったく頭が痛い。
「じゃあいちおうリクエストを聞いとこうか、相手の女の子は? どんな感じがいいの?」
これ、いつも聞くようにしてるんだけど、毎度のことながら赤面しちゃう。
あたしの恥ずかしさをこらえながらの問いに、マーティン君は答を返してきた。
「えっと、じゃあ髪は金髪で、おっぱいは大きいほうがいいです。普段はきちんとした人なんだけど、実はエッチで、みたいな……。あ、歳はリーザさんぐらいがいいです」
うわあ……。
リーザさんぐらいで、とか言うなよ!
余計恥ずかしいだろ!
とりあえずまとめると、金髪、巨乳、隠れエッチ、10台後半っと……。
「何かシチュエーションの希望とかある? 普通に恋人っぽい感じでいい?」
「あ、はい、じゃあそれで」
「わかった」
あたしはマーティン君のベッド脇に置いてあるスツールに腰を下ろし、彼の額に手を乗せた。
彼の言ったとおりの金髪の女性の姿を思い浮かべて、思念を彼の頭の中に送り込む。
間もなく彼が、
「あふうんっ!!」
とかすごい声を出した。
冗談じゃねえぞ!
でも、お客さんだしな……。
やがて、マーティン君は、すやすやと寝息を立て始め、深い眠りに落ちていく。
人はある程度眠りが深くなると、もう夢を見なくなる。
ここまでであたしの仕事は終わり。
はあ……。
いくらお金を稼ぐためとはいえ……。
もうやめようかな……。
続いてあたしはエディの部屋へ向かった。
こいつはすごいデブのため、イビキがうるさく、誰も同室になりたがらないので、結果的に1人部屋を確保している。
だからあたしも、誰に気兼ねすることもなく入っていける。
「お待たせ、エディ」
あたしがドアをノックして、ひょこっと顔を覗かせると、エディはすでにベッドの上で、シーツをかぶって臨戦態勢だった。
まさにスタンバイ完了って感じだ。
即スクランブルOKだ。
誰かこいつなんとかしてくれ!
「リーザたん、来てくれたの?」
ホクホク顔で嬉しそうなエディ。
いやだあ! こっちが「チェンジ!」とか言いたい!
「まあ、約束だからね、今日はどんな感じにしようか」
あたしは平静を装いつつ、ベッドサイドに腰を下ろして、エディの額を撫でてやる。
「リーザたん、シナリオ持ち込みって有り?」
「ん、シナリオ?」
そんなこと言われたのは初めてだけど……。
「リーザたん、これ読んでみて!」
エディは、何か文章が書かれた数枚の便箋を手渡してきた。
えー、どれどれ……。
「ギャ――――ッ!!」
1枚目の半分ほどをざっと読んだところで、あたしはそれをエディの顔面に投げつけた。
「リーザたん! どうしたの?」
「なんてもの見せるんだ、このデブ!」
「気に入らなかった?」
「気に入るかっ!」
おまえ、ホモとか、幼女とか、あと尿とか便は反則だろ!?
「リーザたん、ホモ嫌い?」
「好きなわけあるかっ!」
「あれー、おっかしいなあ? リーザたん年頃の女の子だよね? 冒頭のホモのシーンはリーザたんのために、あえて入れたんだけど……」
「おまえ、年頃の女をなんだと思ってるんだ!?」
思わず、テーブルの上にあった分厚い通信法令集をつかみ、エディの頭をぶん殴る。
「痛い! リーザたん、それサービス?」
「違う!」
「あのね、リーザたん、それなら、もっと冷たい、蔑むような目で見下ろして『この白豚!』って言いながら殴ってみて! ボク『デブ』より『豚』って言われるほうが萌えるっていうか……」
「知るかバカ!」
くっそー、ドMの変態って、どうやって倒したらいいの? 攻撃すればするほど喜ぶよ、こいつ。
「つれないなあ、リーザたん、ボク、これでもお客さんなのに……」
ううっ、そうだった……。
「はいはい、じゃあ、やることやりましょ、そのまま横になって」
「なんか、やっつけ仕事みたいだよ、リーザたん……」
「うるさい!」
あたしは、エディの額に手を当てる。
「相手の女の好みは? どうする?」
「うーんと、じゃあねえ、歳は10歳くらい、貴族のお嬢ちゃんって感じで、胸はツルペタ、下はまだ生えてなくて、ボクのこと『お兄ちゃん』って……」
「おまえ、警備隊呼ぶぞ!」
「ええ!? リーザたん、幼女NGなの?」
「犯罪はダメだ!」
「えー、じゃあ上流貴族の未亡人でいいよ、確か予備として書いた『肛虐スカトロ夫人 ~いっぱい出ちゃった~』ってシナリオがここに……」
「それもダメだ! てか、そんなの書くな!!」
「えー!? じゃあ、どんなのがいいの?」
「いや、どんなのがいいってこともないけど……こう、あるだろ? もっと純愛っぽい感じとか……」
「リーザたん可愛い!」
「殺すぞデブ!」
「うふふ、リーザたんって、たまにそういうウブな反応するよね? だからこそボクは、リーザたん処女説を唱えてるわけなんだけど……」
「妙なもの唱えるなっ!」
誰かこの変態デブに何とか言ってやって!
「でもリーザたん、こういうことやってる割に、そんなに遊んでないよね? いつまでたっても慣れてない感じするし……あ、そうだ」
デブはおもむろにベッドサイドの引き出しを開け、ジャラジャラ音のする小さな革袋を取り出した。
「眠っちゃうと渡せなくなるでしょ、はい」
銀貨3枚を取り出して、渡してくる。
「あ、うん……毎度あり」
受け取るあたし。
「お金、少しは余裕できた?」
「うん、まあ……」
「ご家族は最近どうなの?」
「うん、村は相変わらず凶作みたいだけど、みんなぼちぼちやってるみたい。いつも協力してくれてありがとね」
「いい娘さんだねえ、リーザたんは!」
エディは、シーツで顔を覆って、おいおいと泣く真似をした。
まさか男にエロい夢見せてお金稼いでるとは、親には口が裂けても言えないけど。
「じゃあリーザたん、そろそろフィニッシュにしよう! ボクもう寝るから、エロい夢見せて!」
「うん、わかった……でも、結局どんなのがいいの?」
「お任せにするよ、リーザたんの好きな感じで」
「ええー? そう言われてもなあ……」
お任せと言われても、どうすればいいのか困る。
「じゃあ、相手はリーザたんがいい。リーザたん、自分を夢の中に出してよ」
「ふざけんな!」
「え、それもNG?」
「当たり前だ!」
出来るわけないだろ、恥ずかしい!
「じゃあ……赤毛のロングで、歳は19、職業は飛行魔術師で、すらっとした感じの……」
「それ、あたしだろ!」
「あ、胸は本物より大きくてもいいかも」
「てめえ挽肉にすっぞ!!」
ていうか、そんなに小さくない、あたし!
「冗談だって! ほんと簡単なのでいいよ、ボク、リーザたんとおしゃべりできて、十分楽しい思いできたし、これからアイワスのところへも行くんでしょ?」
「え、なんで知ってんの?」
「さっき廊下で凄まれてさ、すごいメンチ切られて『おまえ、リーザに何させてんだよ』とか言われたよ」
「あいつ! 自分のこと棚に上げて!!」
「いいよいいよ、ボクもアイワスの気持ちわかるし……うん、やっぱりボクも嫉妬しちゃうかな、彼に……」
「え……?」
何言ってんだ、このデブ。
「だから、もう簡単なのでいいから。そんなにエロくなくていいし。リーザたん、チャッチャと終わらせて、早く彼のところへ行ってね。それで、リーザたんもちゃんと休まないとダメだよ。明日も早いんだし……じゃあね! おやすみ!」
そう言ってエディはごろんと横になって、シーツをかぶって目を閉じた。
仕方なくあたしは、エディの額に手を当てて、念を集中させていく。
さすがにあたし自身を登場させるわけには行かないので、結局、金髪ロングの若い魔法使い風の女の子にした。
やがて「ぐふふ!」と気持ち悪い笑い声を発した直後、エディは盛大なイビキをかき出した。
ふう……。
おやすみ、エディ。
いつもありがとね。




