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閑話「ハムって何?」

『……なあ、「ハム」って呼んでいいか? なんか面白い響きだろ』


 そう彼に呼ばれたときは、少し驚いた。

 そして、とても上手いとも思う。

 これ以上なく僕を正確に表現していると感じたからだ。


 ……そうか。


 入学式から1か月経った頃、僕は演劇部に入っていた。

 高月くんがクラスメイトだということには最初から気づいていたけど、積極的な交流はまだなかった。


 遠くから見ていて、彼は気さくで陽気な人だと感じた。


 彼の周囲には常に人がいる。彼と一緒だと、みんな決まって笑みを浮かべているんだ。そして、いつも賑やかだ。


 僕もその輪に混じることはあったけど、高月くんとじっくり会話するタイミングは掴めずにいた。


 しばらく経って、転機が訪れた。


 きっかけは、課外授業で同じグループに割り当てられたときのこと。

 現代美術に触れようということで、グループでモダンアート展のイベントに参加した。


 高月くんがグループリーダーだった。


 規定の場所に集まって、彼がみんなの名前を点呼していたときだ。僕の名前で言い淀み、「つちむろ」と発音した。


 別に嫌な気はしない。初見で正しく読めるとは思っていなかったから。


 笑顔で『はむろ、だよ』と訂正すれば、高月くんはレポートから顔を上げて、『へー、かっけえ名前』と唸っていた。


 言うほどカッコいいのかはわからないけど、素直に嬉しかった。


 そこから、高月くんと僕は話すようになったんだっけ。


 そして冒頭にあるように、僕は「ハム」と呼ばれるようになった。


 さて。

 ハムを英語で綴ってみると、「HAM」となる。


 面白いことにこの言葉、英語のスラングでは「大根役者」「演技がオーバーで下手な役者」という意味合いがあるんだ。


 偶然とはいえ、演劇部員である僕がこの渾名に反応しないわけがない!


 今でも思い出し笑いをしそうになる。


 僕は彼に、演劇部であることをまだ伝えていない。

 何かの拍子に知っている可能性もあるけど、彼の反応を見る限り、その線は薄いと思ってる。


 高月くんは、無意識に見抜いているのだろうか。


 僕が演者だってことに。


 だとしたら、気をつけないと。

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