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閑話「高月は紳士なのか?」

■side土室


 とある日の休み時間。教室の隅で集まっている女子達が視界に入った。いつもの噂好きメンバーが揃っている。今日はどんな話題で盛り上がるんだろう。


 そんな女子達の会話に、僕は少し耳をそばだててみることにした。


「高月くんってさあ、ちょっとずるいよね。大雑把なのに時々紳士なの、さあ」


 リーダー格の女子がはにかみながらそう口にする。よく話題に上がるなあ、高月くん。


 そして、リーダーの発言に同意するように、もう一人の子……黒髪の女子が激しく頷いていた。


「ほんと。この前なんか、教科書の束を持って歩いてたら『重いだろ。持とうか』だって! あんなの女子みんな勘違いしちゃうよ」


 黒髪の女子はそう言いつつ、その時のことを思い返しているのか、ちょっと嬉しそうだ。


 そばの椅子に座る茶髪の女子も、高月エピソードを持っているらしく、「あたしもねえ」と会話に加わってきた。


「この前、階段でコケそうになったとき、後ろにいた高月くんが『危ないっ』って言って、素早くあたしの腕を掴んでくれたんだよ。反射神経すごいなあって」


「なにそれ、ガチ恋製造機じゃん! ヒーロー気取りなのか知らないけど、自然体でそれやってんのやばい」


 そう言って、リーダー格の女子が顔を輝かせる。


 茶髪の女子はそのコメントを受けて、「やっぱりみんなに対してもああいう感じかあ」と、少し拍子抜けした様子だった。


「でもカッコいいけど、ちょっとアホだよね〜」


 くすくす笑いながら黒髪の女子が言う。それに全員が「わかる!」と声を揃えていた。陰口というより、愛のある高月イジりといった雰囲気だ。


 ……まあ確かに。高月くんってカッコよさがありつつ、母性本能をくすぐる子供っぽさもあるかも。


 高月くん、モテるなあ。


「高月くんってさー……好きな人とかいるのかな」


 リーダーの子が小さめの声でみんなに尋ねた。


 ああ、これが本題かな。


 その言葉に、黒髪の女子も茶髪の女子も首を傾げて「うーん」と唸っている。


「女子にみんなあんな感じで優しいじゃん。いないんじゃない?」


 茶髪の女子の推測に、リーダーの子が「だよねえ」と相槌を打ち、安堵とも困惑ともつかない複雑な表情を浮かべていた。


 だけど、そんな女子会にある声が飛び込んできた。


「お前ら、さっきから俺の話してるだろ。何だよ」


 高月くんが、いつの間にか女子達のそばまでやって来ていた。何の話をしてるんだ、と言いたげに、少し怪訝そうな顔をしている。


「あっ、褒めてたんだよ! ねえ、みんな?」


 慌てて目配せするリーダーの子に、みんなが力強く頷く。


「高月くん、今日もイケメンだねーって」


 茶髪の女子が適当なフォローを入れるも、高月くんには響かなかったようで、「ああそうですか」と表情を変えずに返す。


 年頃の女子にイケメンと言われても狼狽えない高月くんって……。


「俺の悪口なら直接聞くぜ。いつでも受けて立つ」


 両手を腰に当て、きっぱりと言い切る高月くんに、女子達は笑い出す。


 そこで。


 黒髪の女子が恐る恐るといった口調で、高月くんに核心を突く質問をした。


「ねえ。高月くんって気になる女子とかいるの?」


「えっ」


 やけに真剣な問いに、高月くんは困惑したような声を上げた。


「い、いや。な……なんで、そんなこと聞くんだよ」


 腰に当てていた手を外し、急にワタワタし始める高月くん。うっすら赤面しているせいで、もう「答えが丸わかり」なんだよなあ……。


 当然、女子達にも見抜かれていて。


「うっそ、いるじゃん! その反応!」


 追及される高月くんは、さらに大きな声で「いねえっての!」と反発する。


 気になる「女子」は、まあ、いないで正解かな。


「ああもう、俺の話はいいんだよ。やめやめ」


 高月くんは何かを追い払うように手をヒラヒラさせて、その場から離れていった。


■


 ある時。図書室に行こうと廊下を歩いていたところ、三冊ほどの本を抱えた伊原くんを見かけた。


 すぐ隣には高月くんが陣取っていて、伊原くんの顔を覗き込んでいる。


「なあ、二冊ぐらい持ってやるよ」


 そう言って高月くんが手を差し出すも、伊原くんは彼に見向きもせず、「いらない」と一蹴する。


「えー、じゃあ一冊」

「そんなに変わらないでしょ」


 いくら伊原くんに突っぱねられてもめげない彼に、僕は思わず笑ってしまう。


「腕、だるくなったら言えよな」

「しつこい」


 心底鬱陶しそうに伊原くんが言えば、高月くんはしゅんと悲しげな表情になる。


 ……なんとか接点を持ちたいんだろうなあ。


■


 そして、また別の時。


「伊原。次、調理実習だから、一緒に移動しようぜ」


 高月くんが(女子が見たら落ちそうな)爽やかな笑顔で、自席で物書きをしている伊原くんを誘う。


「いいよ」


 伊原くんもちょうど書き終えたのか、手提げカバンを持って立ち上がった。高月スマイルにはあんまりなびかないみたいだ。


 様子を見ていた僕も、そこに加わることにした。


「高月くん、伊原くん、僕も行くよ」

「おーいいぜ、行こう」


 高月くんが快く了承してくれたので、三人で向かうことになった。


 調理実習室は二階にあるので、ここから上の階へ移動する必要がある。


 階段に差し掛かったところで、高月くんが伊原くんに声をかけた。


「先行けよ」

「なんで」


 胡乱げな目で高月くんを見つめる伊原くん。


「いーから」


 急かすように高月くんが促すと、不審に思いつつも伊原くんが先に階段を上り始める。その後ろに高月くん、僕と続いた。


 しばらく進むと、先頭の伊原くんが小さく「あっ」と声を上げた。


 ……と同時に体がふらつく。


 まずい!


「よっと! 危ねえー!」


 背後にいた高月くんが、伊原くんの腰から脇にかけてをガッチリ掴んでいる。


「こういうことがあるから、先に行ってもらって正解だったろ?」


 自慢げな様子もなく、ただ彼を気遣う声が響く。


「う、ごめん……」


 申し訳なさそうに振り返る伊原くん。それに高月くんが「いや、いいよ」と笑って返した。


 しかし、二人は僕の前方でそのまま立ち尽くしてしまう。


 ああ、硬直している……。


 高月くんは無意識なのか、伊原くんの体を支える片腕に力を込めている。


 ちょっと! 抱きしめるつもりかな。


 さすがに伊原くんも異常事態に気づいたのか、「離してくれる!」と声を上げた。すると我に返ったように、高月くんは素早く腕を引っ込める。


「悪い……」

「い、いや。支えてくれたのはありがとう……」


 二人とも頬を染めて俯いてしまっている。



 いちゃつくのはいいけど、早く階段上ってくれないかなあ。

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