第28話 仕組まれた襲撃
地方視察の馬車は、いつものように市民からの声援を受けながら街道を進んでいた。
ところが、人気のない森の中に差し掛かったその時――。
「伏せろッ!」
レオンハルトの怒号と同時に、矢が風を裂いて飛んできた。
車体に突き刺さる乾いた音。次の瞬間、数人の男たちが木陰から飛び出して馬車を囲んだ。
「リアンナ様を下ろせ!」
「庶民を惑わす魔女め!」
乱暴な声に、御者が慌てふためく。
だがレオンハルトは剣を抜き、前に躍り出た。
「リアンナは俺が守る!」
斬撃の閃きが一人を薙ぎ倒す。だが敵は多く、背後から放たれた矢がレオンハルトの肩を掠めた。
血が滲むのを見て、リアンナは思わず声を上げる。
「レオン!」
「構うな。下がっていろ!」
短い叱責と共に、彼は片腕を庇いながらも次々と襲撃者を退けた。
やがて、騎士団の増援が駆けつけ、襲撃者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
――命拾いをした。
馬車の中に戻ったリアンナは震える手で、傷を負ったレオンハルトの肩を押さえた。
「……すぐに止血しないと」
「大したことはない」
「大したことあるわよ! 血が止まらないじゃない!」
宿に着くと、彼を椅子に座らせ、薬草を使って手当てをする。
じっと耐えるレオンハルトの横顔は、汗に濡れながらも凛としていた。
「どうして……命を張ってまで……」
思わず零れた問いに、レオンハルトは静かに答えた。
「決まっているだろう。――お前が笑っていられるように、俺は戦う」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
言葉が出せずに俯くリアンナを、レオンハルトはそれ以上追及しなかった。
翌日、街では早くも噂が広がっていた。
「リアンナ様が襲われたらしい!」
「守れ! あの方は俺たちを豊かにしてくれる人だ!」
「二度と好き勝手はさせるな!」
市民たちの声が広がり、やがて「リアンナ様を守れ!」という合唱に変わる。
それは権力者の思惑を越え、市井の人々が初めて一人の女性のために立ち上がった瞬間だった。
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一方その裏で――。
「少し手荒すぎたのでは?」
聖女アリスが問うと、王太子アレクシスは余裕の笑みを浮かべた。
「殺すつもりなどなかったさ。……ただ、教えてやっただけだ」
「教える……?」
「俺に従わなければどうなるか、とな」
アレクシスの瞳は異様な熱を帯びていた。
「リアンナは強気になった。だからこそ面白い。だが、最終的に選べる道は一つだ――俺の元に来るしかない」
アリスはその横顔を見て、僅かに震えた。
(……この人の執着は、いつか自分さえ飲み込むかもしれない)




