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婚約破棄は最高の投資でした ~前世ディーラー令嬢、自由市場で国を変える~  作者: 風谷 華


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第27.5話 聖女の敗北

 その日、王都の広場は異様な熱気に包まれていた。

 屋台も露店も店を畳み、民衆の視線はすべてひとつの仮設舞台に注がれている。


 舞台の中央に立つのは、純白のドレスを纏った少女――聖女アリス。

 かつては奇跡の人と持て囃され、王都の希望とまで呼ばれた存在だ。


 しかし今、その彼女は苦しげに唇を噛んでいた。

 王宮からの資金援助は打ち切られ、学校や食堂は次々と閉鎖。

 かつて溢れていた「聖女様、ありがとうございます!」という感謝の声は、今や失望と怒りの叫びに変わっている。


「どうして閉めるんだ! 子どもたちはどうなる!」

「ここがなきゃ、飢える人間だって出るんだぞ!」


 群衆の叫びは鋭く、アリスの胸を突き刺した。

 彼女は必死に笑顔を作ろうとするが、頬がひくつく。


 ――だけど、その中には冷めた視線も混じっていた。


「寄付に頼ってばかりじゃ、続かないに決まってる」

「最初は助かっても、結局、自立できないまま終わるんだ」


 静かな声が広がり、やがてざわめきが波のように膨らんでいく。



 アリスはマイクを握りしめ、肩を震わせながら声を張った。


「私は……私は皆を救おうとしたのよ! そのために、この力を使って……!」


 その声には切実な想いが宿っていた。

 だが、涙で濡れた顔を見た民衆の反応は、かつてのように一様な同情ではなかった。

 同情して涙ぐむ者もいたが、半分以上は静かに顔を背け、広場を後にしていった。


 足音が遠ざかるたび、アリスの胸の奥が冷えていく。



 舞台袖でその様子を見守っていたリアンナは、腕を組んだまま深く息を吐いた。

 アリスが聖女として努力してきたのも知っている。

 十六歳で見知らぬ異世界に来て、必死に「聖女」として振る舞ってきた少女。


 (……彼女も可哀想だとは思う。だけど――)


 リアンナはぎゅっと拳を握った。

 市場や投資の理念は、涙や善意だけでは揺るがない。


「救うんじゃなくて……選べるようにするのよ」


 小さな声でそう呟く。



 その声が耳に届いたのか、舞台に立つアリスの瞳がふいにリアンナを捉えた。

 二人の視線が交錯した瞬間、時間が止まったように思えた。


 アリスの目が大きく見開かれる。

 そして――悔しさと嫉妬、敗北の痛みを滲ませながら、顔を歪めた。


 ――けれど、アリスは何も言わなかった。

 ただ、唇をきつく結び、無言のまま背を向ける。


 その小さな背中には、敗北の色が濃く刻まれていた。

 強がりを崩さずに去ろうとする姿は、むしろ痛々しく、彼女の脆さを余計に浮き彫りにしていた。

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