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婚約破棄は最高の投資でした ~前世ディーラー令嬢、自由市場で国を変える~  作者: 風谷 華


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第29話 花開く街


 ――あれから半年。


 王都の街並みは、かつてとはまるで別の場所のように活気づいていた。


 通りを歩けば、目に飛び込んでくるのは、これまで見たことのないほど多様な人々の姿。


 タイトなジーンズに真っ白なシャツを合わせ、背筋を伸ばして歩く若い女性。

 髪をきっちりまとめ、赤いリップで笑みを浮かべるその姿は、誰よりも堂々としていた。

 隣では、黒のパンツスーツを着こなした女性商人が、同業者と声を張り上げて交渉している。

 そしてその背後には、ゴールドの大ぶりなピアスを揺らしながら、露店で威勢よく客を呼び込む少女の姿。


 一方、まだ十代前半の少年が、ローファーを鳴らして軽快に駆けていく。

 彼の肩には、投資で買ったばかりらしい新しい革の鞄。

 その目は未来を夢見る輝きで満ちていた。


 ――街全体が、かつての「決められた階級の色」ではなく、自分の選んだ色で輝いていた。



 広場には、投資の利益を使って旅を始めた商人たちが、珍しい香辛料や布地を並べている。

 「こいつは東方から持ってきたんだ!」と胸を張る青年。

 「旅先で見つけたデザインよ」と新しい髪飾りを売る娘。


 人々はかつて「平民の分際で」と言われ、夢見ることすら許されなかったことを、今や当たり前のように形にしていた。


 馬車の窓からその様子を見たリアンナの胸に、熱いものが広がる。

(これが……私たちが蒔いた種の、花……)



 その光景を共に見渡していたのは、隣国アルヴェインの第一王子、セドリックだった。

 彼は街路に立ち並ぶ人々を見つめ、ゆるやかに目を細める。


「……リアンナ。これこそ、私がずっと夢見てきた街の姿だ」


 その声には誇らしさと同時に、羨望の色さえ含まれていた。


 やがて視線を彼女に戻し、低く、しかし確信を持った声で続ける。


「君は――女神のようだ。人々に希望を与え、時代を導いている。見た目の美しさだけじゃない。心も、知恵も、行動も。君は本当に魅力的な女性だ。」


 真っ直ぐに向けられた称賛に、リアンナは思わず息を呑んだ。

 胸が熱くなり、目を逸らした瞬間、自分の耳まで赤く染まっているのに気づき、さらに焦る。


「……女神なんて、私はただ……みんなが選べるようにしたいだけよ」


 必死に否定する言葉を口にしても、セドリックの瞳は揺るがない。

 その真剣さに押され、リアンナの鼓動は速くなるばかりだった。



 だが、変わったのは服装や商売だけではなかった。


 街のあちこちで、女性が堂々と仕事をしている。

 炉の前に立ち、槌を振るう女鍛冶師。

 仲間を集めて「投資講習」を開き、未来の設計を語る主婦。

 市場で露店を仕切り、男性商人に指示を飛ばす少女。


 かつては「女のくせに」と笑われたはずの姿が、今では自然に受け入れられていた。


 広場の片隅で耳にした市民の会話が、リアンナの胸に残った。


「男だから、女だからって関係ないよな」

「稼げるやつが稼ぎ、夢を追いたいやつが追えばいい。それで街は回るんだ」


 ――投資によって人々が力を持ち始めたその中で、自然と「男女の役割」に縛られない価値観が芽生え始めていた。



 リアンナは馬車を降り、クラリスと並んで街を歩く。


「お嬢様、皆さん本当に楽しそうですね。まるで、お祭りみたい」

「ええ……ようやく、この街が息をしている気がするわ」


 微笑んだリアンナの横顔には、誇らしさと同時に、どこか切なさも浮かんでいた。


 まだ戦いは終わっていない。

 王太子アレクシスや聖女アリスの影は消えていない。


 けれど――確かに未来は形を取り始めている。

 リアンナは強く拳を握った。


(この花を、絶対に枯らさせない)


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