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婚約破棄は最高の投資でした ~前世ディーラー令嬢、自由市場で国を変える~  作者: 風谷 華


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第23話 提携交渉と王子の真意

セドリック王子との交渉は、予想以上に濃密な数日間になった。

最初は市場の構造や関税の話から始まり、やがて「労働者が誇りを持てる国づくり」という理想論にまで踏み込む。


会議室の大きな窓から差し込む朝の光の中、王子はペンを置いて私を見つめた。

「……リアンナ。君と話していると、数字の裏にある人の顔が見える。そういう感覚を持つ人間は、この世界にそう多くない」

私は少し照れながらも、「お世辞は交渉の一部ですか?」と返す。


セドリックはゆっくりと首を振った。

「政略結婚は嫌いだ。だが……もし結婚するなら、互いを高め合える相手とがいい」

その瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。

「リアンナにも、俺を好きになってもらって結婚したい」


――心臓が一瞬止まったように感じた。

私は笑ってごまかし、「それは……長い道のりになりそうですね」とだけ答える。

だが心の奥で、何かが静かに揺れ動いていた。



帰国後すぐ、ジュリアンと新商品の打ち合わせが始まった。

机の上には山のような資料と試算表。

「ここはもう少しリスク分散を強めた方がいい。新規顧客層を取り込みやすくなる」

「でも、その分利回りは下がりますよ」

数字と理論が飛び交うやり取りは、久しぶりに頭をフル回転させる時間だった。


一段落したところで、ジュリアンがふっと柔らかく笑い、

「……無茶ばかりするなよ」と言いながら私の頭をぽんぽんと軽く叩く。

「なっ……」耳まで一気に熱くなる。


その瞬間、後ろからクラリスが顔を覗かせ、にやりと笑った。

「ジュリアン様って、甘やかし上手なんですねぇ」

「子供扱いしないで」と慌てて言い返すが、ジュリアンはどこ吹く風だ。


私はふと、クラリスにぽつりと漏らす。

「数字と市場なら自信あるのに……恋愛はスライムレベルなのよ。ちょっとしたことでドキドキする自分がいて、嫌になっちゃう。世の中の小悪魔令嬢が羨ましい。」

クラリスは口元を押さえて笑いながら、

「スライムだって、経験を積めばドラゴンになりますよ」と妙に励ましてくれる。


「実は……セドリック王子に、結婚前提で告白されたの」


「おおっ、ついにラブロマンス到来ですね!」とクラリスの目が輝く。

「でも私、どうしたらいいか分からなくて……レオンハルトに相談したのよ」

「えっ、あの無骨騎士に恋愛相談!?」


「そう。そしたら『お前の幸せが一番だ』って……なんかよく分からないこと言われたわ」

「え、普通にカッコいいじゃないですか、それ」


「でもね、その流れで『レオンハルトは好きな人いないの?』って聞いたら……いるって!」

「ええっ!?」

「もしかして……クラリスかな?」


その瞬間、クラリスの顔から血の気が引いた。

「……お嬢様、それはさすがに飛躍しすぎです」

「いや、だって――」

「確かにお嬢様はスライムですね。恋愛経験値ゼロの」


私は軽く頬を膨らませ、資料で顔を隠した。

(……今は人々を幸せにすることに集中しないと。恋愛なんてしてる場合じゃない)

セドリック王子の真剣な瞳も、レオンハルトの低い声も、今は頭の隅に押しやった。


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