第17話 侯爵家の誇り
その夜、父と母に呼ばれ、応接室に入った瞬間――空気がピリッとしていた。
いつもなら優しい笑みを浮かべている父ダリウスも、母メリッサも、今日は真剣そのもの。
「……王太子が、側室になれって?」
低い声で父が切り出す。
私はうなずいた。
「ええ。『俺のそばにいれば規制はしない』って」
口にすると、昼間のあの傲慢な笑みがよみがえる。
「はぁ!? 自分から婚約破棄しておいて、なんて図々しい!」
母が珍しく声を荒げた。
「絶対にそんなことさせないわ!」
父も力強くうなずく。
「もし本気で押し通そうとしたら――うちは独立国になってでも阻止する」
「独立国……?」と聞き返す私に、父はさらりと言った。
「うちには鉱山も大商会も兵もいる。領地は王家に頼らなくてもやっていける。
城壁も結界も何重にも張ってあるし、軍も三千の常備兵に加えて、有事には二万呼べる」
言葉の端々から、「うちを舐めるな」という自信がにじみ出ていた。
母はそっと私の手を握る。
「だから安心して。あなたは誰かに所有される人じゃないの」
じんわりと胸が温かくなる。
……本当に、この家で良かった。
そこへレオンハルトが入ってきた。
「護衛体制を強化しました。屋敷内は巡回増、夜間は結界三重。外出時は必ず二重護衛をつけます」
その真面目な顔に、なんだか笑ってしまいそうになる。
父は「お前一人に背負わせはしないぞ」とレオンハルトに言い、母は「明日からは奥様方にも根回ししておくわ」とニッコリ。
さらに、扉の影からひょっこりノエルが顔を出した。
「姉上、これ! 新しい魔力鍵だよ。合言葉は“自由”!」
小さな弟が誇らしげに渡してくる魔導具に、思わず笑ってしまう。
父は紅茶を一口飲み、はっきりと言った。
「何度でも言う。絶対にそんなことはさせない。うちにはそれを跳ね返す力がある」
家族全員の顔を見渡すと、もう怖さは半分くらい消えていた。
――これだけの守りがあれば、私は前に進める。
市場という戦場で、自由という旗を掲げて。




