第12話 市場の拡大と反発
マナ・コモンズの地方進出が、本格的に動き出した。
半年の運営で積み上げた実績が信用となり、地方都市や大きな町の商人たちから、支店開設の依頼が次々と届く。
「これで、もっと多くの人が投資に参加できるわ」
机に積まれた書類をめくりながら、自然と笑みがこぼれた。
半年から一年で資産を三十倍、百倍にした平民もいる。
それは新しく発見された魔導鉱山の権利株や、偶然大ヒットした魔道具職人の株など、極めてリスクの高い商品に投資した場合だ。
大半の投資はもっと緩やかで、少しずつ配当が入る程度。
それでも――家を買った者や、子どもを学院に通わせられるようになった者の話は、町中の話題になっていた。
「自分もできるかもしれない」という希望は、人を行動させる力になる。
だが、その変化は王都にも波紋を広げていた。
市場の日雇い労働者が減り、屋敷で働く使用人探しに貴族たちが苦労している。
「これでは屋敷が回らない」「昔より賃金を上げざるを得ない」――そんな不満の声が広がっていた。
「……予想通りだな」
低く落ち着いた声が、背後から降ってきた。
振り返ると、壁際に立つ長身の男――レオンハルトが腕を組んでこちらを見ていた。
侯爵家お抱えの騎士であり、そして私の幼馴染。
小さい頃から、彼はいつも少し離れた場所で私を見守ってきた。
「自由を得た者は、安い給金で働こうとはしない。だから、貴族はお前を疎ましく思う」
淡々とした口調だが、その裏には確信がある。
「分かってるわ。でも、それが本来の姿よ」
私は書類を閉じ、真っ直ぐに彼を見る。
「人は選べるべきなの。住む場所も、仕事も、誰に仕えるかも……
従いたくない人に従わずに生きられる世界にしたいの」
レオンハルトは小さく息を吐き、机の前まで歩み寄ってきた。
「リアンナ……お前は昔からそうだ」
「そう?」
「やると決めたら一直線で、危なっかしい。昔は俺が引き戻せたが……今のお前は、誰にも止められない」
その声音には、少しの誇らしさと、それ以上の心配が混じっていた。
「理想を語るなとは言わない。ただ……敵は、正面からじゃなく背後から刃を向けてくる」
彼の眼差しは鋭く、まるで戦場に立つ騎士のものだった。
「貴族の中には、もう反対派を作り始めた者もいる。命を狙う動きがあってもおかしくない」
一瞬、胸の奥がきゅっと縮む。
けれど、恐怖はなかった。
「だから、あなたがいるのでしょう?」
その言葉に、レオンハルトの瞳がわずかに揺れる。
けれど何も言わず、静かに頷いた。
「……今日から護衛を倍にする。お前が倒れたら、この市場も終わる」
その言葉は、私の胸の奥をじんわりと温めた。
彼がそばにいる限り、この道を進むことを迷う理由はなかった。




