表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄は最高の投資でした ~前世ディーラー令嬢、自由市場で国を変える~  作者: 風谷 華


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/35

第11話 王宮からの呼び出し

王宮からの召喚状が届いたのは、秋晴れの朝だった。

上質な羊皮紙に金糸の縁取り、封蝋には王太子の紋章――つまり、これは単なるお誘いではない。命令だ。


(王太子から? ……今さら何の用かしら)

私の胸の奥に、冷たく硬いものが沈む。

破棄された婚約の記憶は、もう痛みではなく、薄く乾いた跡になっていたはず。

それでも「呼び出し」という響きは、不快なざわめきを連れてくる。


「お嬢様、どうなさいますか?」

傍らの侍女マリアが不安げに問う。

私は淡く笑って答えた。

「もちろん行くわ。侯爵家の令嬢として、呼び出しを無視するわけにはいかないもの」


支度には時間をかけた。

今日は、深いエメラルドグリーンのドレスを選ぶ。

体のラインを美しく見せる仕立て、胸元は控えめながらも隠しすぎない。

髪は後ろでまとめ、前髪をふわりと流す。

メイクは軽く、けれど目元にはしっかりと力を宿す。

王宮で私を見下してきた者たちに、変わった私を見せつけるために。


***


王宮の謁見の間は、記憶の中よりも広く感じた。

高い天井から垂れ下がる黄金のシャンデリア、赤い絨毯が玉座へと真っ直ぐ伸びている。

玉座の前に立つのは、王太子アレクシス。

彼の隣には、純白のドレスに身を包んだ聖女アリス。

黒髪と黒い瞳が白に映え、可憐さを際立たせている。


私が歩み寄ると、アレクシスの瞳がわずかに見開かれた。

その視線は、私の足元から髪先までをゆっくりと辿る。

――婚約時代の、地味で大人しく、何も反論しない令嬢は、もうここにはいない。

そのことを、彼も理解したはずだ。


「……久しいな、リアンナ」

低く落ち着いた声。しかし、その奥に戸惑いと興味が混ざっていた。


「殿下もお変わりなく」

私は微笑みながら一礼する。だが、距離は詰めない。


「お前の……投資事業の話が、王宮にも届いている」

アレクシスは言葉を探すように少し間を置き、続けた。

「だが、平民に金を持たせすぎるのは危険だ。幻想を与えても、破滅を招くだけだ」


「幻想ではありません。努力すれば手に入る――現実の自由です」

私の返答は淡々としていたが、内心では棘を含めていた。


そのとき、アリスが一歩前へ出た。

声は甘く、微笑みは柔らかい。だが、その瞳は冷たい。

「でも……元婚約者の立場であまり目立つのは、良くないと思いますよ?

殿下のお名前まで利用しているように、周りからは見えるかもしれません」


私はその視線を真正面から受け止め、わずかに口角を上げた。

「ご心配なく。私はもう、殿下の名前を必要としておりません」


アリスの笑みが、一瞬だけ凍りつく。

アレクシスは二人のやり取りを見て、何かを言いかけて飲み込んだ。

その瞳の奥に、かつてなかった熱が宿っているのを、私は見逃さない。


(惚れ直したところで、遅いわ)

心の中でそう呟き、優雅に一礼して踵を返した。

背後から送られる視線は、玉座よりも重く感じられたが――もう、私を縛る鎖ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ