第9話 変化
婚約破棄から数か月。
私の生活は、以前とはすっかり変わっていた。
朝は夜明けとともに屋敷の庭をランニングする。
小鳥の声を聞きながら石畳を二周。
その後は中庭で筋トレ――指導役は、侯爵家お抱えの騎士レオンハルトだ。
「腕をもっとまっすぐ伸ばせ。そう……背中も意識しろ」
低い声とともに、後ろから手が伸び、私の肩甲骨を軽く押す。
わずかに触れられただけなのに、体温がじんわり伝わる。
前世ではパーソナルトレーナーについてジムで体を絞っていた。
だから、誰かにフォームを直される感覚は懐かしい。
けれど、今は……なぜだろう、少し心臓がうるさい。
「ふぅ……次は腹筋ね」
「限界までだ」
無表情なはずの彼の目が、わずかに笑っているように見えた。
食事も変えた。
朝はフルーツとコーヒー、昼と夜は野菜と魚中心。
甘い菓子や油っこい料理は、仕事のご褒美のときだけ。
体を鍛えると、頭が冴える。判断も速くなる――それはディーラー時代に知っていた真実だ。
そして、私はもうひとつ決意していた。
前世の記憶を思い出す前は、大きすぎる胸が嫌で、布地の多い服やゆったりしたドレスで隠していた。
でも、これも私の一部。
否定するより、愛していきたい。だからもう隠さない。
ドレスも変えた。
ウエストラインを絞り、胸元や肩を少し見せる流行のデザイン。
色も、以前は地味な紺や茶ばかりだったが、今はローズピンクやラベンダー、エメラルドグリーンを選ぶ。
メイクも加わって、鏡に映る自分はまるで別人だ。
初めてこの姿で広間に現れたとき、ジュリアンもレオンハルトも、そして家族ですら一瞬言葉を失った。
「……似合ってるわ、リアンナ」
母メリッサが、誇らしげに微笑んでくれたのを覚えている。
(私はもう、あの頃の“従順なお人形”じゃない)
鍛えた体も、新しい装いも、すべてはこれからの戦いに勝つため。
私は今、蕾だった花を大きく開かせている――その自覚があった。




